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【現役銀行員×中小企業診断士ゆーき】固定費分析で見えてくる“儲かる仕組み”【前編】~自動車部品メーカーBさんの事例~
今回は、ゆーきさんから寄稿いただいた17つ目の記事をご紹介します。
私の自己紹介記事も、ぜひあわせてチェックしていただけると嬉しいです。
こんにちは。現役銀行員×中小企業診断士のゆーきです。
「売上自体は悪くない。なのに、なぜか利益が伸び悩んでいる…」
前回の記事では、限界利益(※1)をキーワードに、変動費(※2)を中心とした採算分析の重要性をお話ししました。限界利益が見えてくると、「どの商品やサービスが稼げるのか」がクリアになりますが、それだけで十分とは言えません。なぜなら、固定費もビジネスの収益構造を大きく左右するからです。
特に、既存事業を営む中小企業の場合、固定費がじわじわと膨らんでいるケースは少なくありません。一度設定した賃貸契約やリース契約、人件費、光熱費などは、日常業務に追われていると深く見直す機会がなく、“そのまま垂れ流し”になりがちです。しかしここをしっかり分析することで、
「いかに少ない固定費で、より大きな限界利益を稼ぐか」
という視点が手に入り、事業計画の実現度をグッと引き上げることができるのです。前回を先に読んでいただいた方が理解進みますので、是非ご覧ください。前編と後編の2記事に分かれています。
では、本編スタート!!
(※1)限界利益:売上高から変動費を差し引いたもの。
(※2)変動費:売上に応じて増減する費用のこと。材料費や外注費など。
※業界などは修正していますが、実際に起こった出来事を物語にしています。
Xでも、私の考えを発信しています。
https://x.com/yuuki_sanbou
物語の舞台:自動車部品メーカーBさんの悩み
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「取引先からの受注は増えているんだけど、どうも利益が出ないんだよな…。」
自動車部品を製造している創業20年の中小企業。代表を務めるBさんは、ここ数年、部品の品質と迅速な納期対応が評価され、取引先からの注文量が徐々に伸びていました。売上高の推移だけを見ると、まさに“右肩上がり”に見えます。
しかし、月次の試算表を開いてみると、なぜか利益は思ったほど増えていない――というか、人件費や諸経費がかさみ、むしろ昨年度より手残りが減っている月もある、という状態でした。
Bさんは前回の記事で学んだ「限界利益」に着目し、製品ごとの変動費を洗い出してみたそうです。すると、材料費や外注費はある程度コントロールできていることが判明。そこでようやく、「じゃあなぜ利益が伸びないんだ?」という疑問が浮かび上がり、次に思い至ったのが“固定費”でした。
「うちの固定費ってどのくらいかかっているんだろう? 人件費やリース料、交際費、光熱費…細かく見るのが怖いけど、やっぱり放っておくわけにはいかないな…。さて、どうしたもんか…」
固定費とは何か?~変動費以外はすべて“固定”とは限らない
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基本的な定義
固定費とは、売上高の増減にかかわらず、一定期間継続して発生する費用のこと。製造業であれば、次のような項目が代表的な“固定費”となります。
人件費(正社員・役員報酬など)
社会保険料(企業負担分)
家賃やリース料(設備・車両など)
水道光熱費(工場全体の基本料金)
サブスク型のシステム利用料
交際費や通信費…など
混在費用の存在
固定費だと思っていた中にも、実際には売上増加にともなって一部が増減する“混在費用”が存在することに気づきました。
たとえば、水道光熱費。基本料金は固定ですが、使用量に応じて変動する部分もあります。アルバイトの人件費も完全に固定ではなく、残業やシフト回数によって増減します。
Bさんは、細かい区分にこだわりすぎて作業が進まなくなることを避けるため、まずは「便宜上、固定費に含める」として大まかに仕訳けることにしました。
売上が増えると変動する要素が高いコストで、金額が大きくて影響が大きそうなものは固定費と分けましたが、完璧主義よりも“とにかく全体像を把握する”ことを優先したのです。
固定費分析のステップ
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Bさんは、今回の固定費分析を次の4ステップで進めることにしました。ここでは、会計データを活用する方法も含めて解説します。
ステップ1:固定費の棚卸し
a.試算表を確認
売上以外のコスト科目をざっとリストアップし、変動費(材料費や外注費など)を除外する。
b.科目ごとに金額を把握
たとえば「人件費:月200万円」「リース料:月30万円」など、ざっくりと月単位でまとめる。また、金額が大きい順に整理しておく。
c.時系列で比較する
前年同月比や前々年同月比と照らし合わせ、増減が大きい科目をピックアップする。
ステップ2:金額の優先順位付け
a.大きな金額から注目
人件費やリース料、家賃などは額が大きいことが多いため、ここを重点的にチェック。会計データの総勘定元帳や仕訳データの摘要欄を活用し、その科目の中にどのようなコストが含まれているか細かく確認する。
b.投資かコストかの見極め
たとえば設備投資によるリース料が、売上増に貢献しているなら“投資”と考えられる可能性が高い。逆に、あまり使われていないリース物件があるなら要検討。「どの費用が売上利益UPにつながりやすいか?」「費用対効果はあるか?」という視点を持つ。
ステップ3:損益分岐点の把握
限界利益(売上高-変動費)と固定費がわかれば、以下の式で損益分岐点売上高(※3)を計算できます。
損益分岐点売上高=固定費 / 限界利益率
Bさんは、前回の限界利益分析で製品ごとの変動費率を把握していたため、製品全体の平均限界利益率をざっくり算出しました。そのうえで、今回洗い出した固定費の合計額を使って、どれだけ売上を確保すれば利益が出るのかを把握。
「何もしなければ、現状では○○万円の売上がなければ損益分岐点を超えないんだ…」という事実に直面し、「もしかして思っていた以上にハードルが高い?」と気づいたのです。
(※3)損益分岐点売上高:収支トントンになる売上高
ステップ4:具体的施策を検討
固定費の金額と優先順位、損益分岐点が見えれば、あとは「どの項目をどう最適化するか」というアクションフェーズに移ります。会計データの総勘定元帳や仕訳データなどの摘要欄まで調べているので、後は削減するだけ。
Bさんはこの時点で「とりあえず全部コストカット!」とやるのではなく、あくまで「売上利益を伸ばす可能性があるものは投資と考える」という姿勢をキープ。限界利益を稼ぐために必須なものまで削減してしまうと、逆効果になりかねないからです。
Bさんが気づいた“固定費が増える背景”とは
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「固定費って、いつの間にか増えてしまうんですね…。」
棚卸しを進めるうちに、Bさんは固定費が積み上がる背景にある“盲点”をいくつも見つけました。
a.チェック体制が甘い
「この機械、ほとんど使ってないのにリース契約そのままだった…」「工場内で24時間つけっぱなしの電灯がある…」気づかなければ、固定費はずっと支払われ続けます。
b.業務に忙殺されて後回し
月次の売上や受注対応に追われ、固定費を見直す時間が確保できない。特に小規模な製造業では、経理担当と現場管理が兼務で手いっぱいのケースが多い。
c,契約を見直していない
一度設定した家賃が、相場変動にもかかわらず放置されている。付き合いで入った○○会の年会費が払われ続けている。
Bさんは、「定期的に第三者の視点を交えてチェックする仕組みが必要だな」と強く感じ、顧問税理士や中小企業診断士、銀行担当者にも相談しながら改善計画を立て始めました。
また、会計ソフト上で早期に月次比較や前年比較のレポートを出す仕組みを整え、固定費の推移がひと目でわかるようにしたのです。
前編まとめ~固定費を“投資”に変える第一歩~
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ここまで、製造業Bさんの物語を通して「固定費分析の基本」をご紹介しました。前回の限界利益分析と合わせて取り組むことで、「どれだけ売上を伸ばせば利益が出るのか」「そもそもどんな費用にお金をかけるべきか」 が明確になります。
固定費の棚卸し → 「どれだけ支出しているか」を正確に把握
金額の優先順位付け → 大きな費用ほど改善インパクトが大きい
損益分岐点の把握 → 限界利益率と固定費をもとに、自社の“目標売上”を見定める
具体的施策を検討 → 「投資」か「削減」かを費用対効果で判断
Bさんが発見したように、固定費は放っておくと膨らみがち。一方で、売上利益UPに直結する固定費は、投資とみなす。大切なのは、「利益を出す×継続性」 の軸を外さずに、どの費用が“攻め”で、どの費用が“守り”かを見極めること。
後編に向けて~具体的施策とQ&A~
今回は「固定費分析の概念」と「Bさんの事例」を中心に紹介しましたが、実際には疑問や悩みが次々に湧いてくるかもしれません。後編では、これらをQ&A形式で解消しながら、実際の施策をどう事業計画に落とし込むかを一緒に考えていきましょう。
チェック体制の強化や、コストをかける価値のある“投資”の見極め方についても、さらに深掘りしていきます。
前回学んだ“限界利益”と今回の“固定費”をセットで見れば、あなたのビジネスは必ず一段上のステージに進むはずです。それでは、後編でお会いしましょう!
XのフォローやDMでのご相談もお待ちしております。
https://x.com/yuuki_sanbou
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実は私、谷本はこの度、自身のYouTubeチャンネルを開設いたしました!
早速、1/29に1本目の動画がアップされています。
今回アップしている1本目の動画は、『資金調達コンサルタントの一日密着』というタイトルで作成させていただきました。
お客様にも出演いただき"リアル"を動画に詰め込んでいます。ご出演いただいた社長の皆さまありがとうございました!
下記は、2025年1月29日より始めたYouTubeチャンネルです。
現在は、2~4本目の動画もアップされています。
ぜひ、こちらもあわせてチェックしていただけると嬉しいです。
https://www.youtube.com/channel/UCXLxrsiPKa_d4FMOtFBPv-A
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また、谷本はXでも日々発信を行っています。
ぜひnote、Xについて今後もフォローをお願いします。
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相談に関する質問については、以下の記事でお答えしています。
お問い合わせは、DMもしくは問い合わせフォームからお願い致します。
※氏名・社名・業種・Facebook URL・メールアドレスなどを添えてお問い合わせください。
主に銀行融資関係(資金調達)のコンサルを行っています。
資金調達が出来た際の成功報酬は基本的に頂いておりません。
理由としては・・・
・1度融資を利用する企業は、その後、2回目、3回目と利用があります。
・長いお付き合いをすることで、お互いの信頼関係を築くと共に、今後の資金繰りについて責任を果たすためです。
ですので、契約先とは最低でも毎月1回は定例でコミュニケーションを取らせて頂き、その都度、資金調達のタイミングや事業方針などについても議論をしております。
社長の望む調達金額を受けられる決算書の作成を得意とします。
銀行融資にはいくつかポイントがあります。
粉飾などによらず、目指す決算書にたどり着くよう、決算月の約半年前からすり合わせを行います。
このすり合わせとは、紙面による数字との睨み合いに留まりません。企業における営業活動など、包括的に関わっております。
これは、税理士や一般的なコンサルタントでは分からない分野です。
お客様によりますが、御社での私の名刺を作ってもらい、銀行対応全般をお任せ頂いております。
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CFO的な立ち位置で長きに渡りお役に立てればと思います。
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