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育雛の確認

仕事で10日間ほど行けなかったフィールドに。
4月に入り孵化は確認できたが前回はメスが巣を離れる回数と時間が増え、育雛に失敗したのでは?とこの間ずっと心配していて昨日はその確認のために山に入る。
 青空を背景にして新緑が萌える。急斜面を登る時にはウルイの柔らかな浅葱色が目に飛び込み、あちこちから春の草木の匂いが湧き立つ。早朝の風は冷たく、イヌワシの営巣谷を見上げる斜面でダウンジャケットを着込み簡易ブラインドの中で身を竦める。しばらくするとにメスが巣に戻る。同時に鳴き交わしが始まりオスが南の空から獲物を持って巣に入ってくる。メスはしばらく獲物を見つめてからヒナに給餌を開始した。
育雛は続いていた!! 
 影響を避けるために巣までの距離を長く取り、かつ巣内を覗かないように下方から観察しているため巣の中のヒナを目視することが出来ず間接的な育雛観察である。
 観察するのに巣までの距離はどれくらい離れたら影響がないか?と聞かれることがあるが答えはひとつではない。というのはイヌワシやクマタカなどの猛禽類ではヒトや人工物への敏感度などは個体差がたいへん大きくペア・個体ごとに異なるため、その個体を長く観察して特徴を捉えてから試行錯誤するしかないと感じている。例えば急降下で巣の出入りを繰り返す場合などはこちらを気にしていると判断してすぐに移動する必要がある。個体の羽毛状態による緊張度の判断や飛翔ルートの変化、視線などがポイントになる。
極端な場合は山菜採りの方が知らずにイヌワシの営巣地に近づき威嚇飛行をされた事例やカメラマンが巣の直下でタバコを吸いながら親鳥を待っていたので親鳥が巣に戻れずヒナが凍死したと推察される事例もあった。文献や書籍、経験豊富な方からの情報そして自らの観察経験を積み、自分の責任で判断していくしかない。
観察は親の背中の動きから、脚で獲物を押さえて肉を切り裂き、姿勢を変えてやさしくゆっくりとヒナの口元に運んでいるであろうと推察できた。その時、メスの頭の近くから白い液体が巣の外に放出されるのが見えた。ヒナの排糞だ。まず間違いなくヒナが育っている。今まで懸念していた緊張感が一気に緩んで身体がリラックスしてくるのが分かる。我ながら実に単純な精神構造である。
 このメスは育雛期になると巣材搬入が急激に増える傾向がある。なので巣の縁は青葉や枯枝、樹皮でてんこ盛り状態。また採る場所がすぐ近くなので、普通ならじっくりと観察することが困難な巣材採取の観察を十分にすることが出来る。43日間の抱卵のあとこれから6月下旬の巣立ちまでの間、このペアはいろんなことを教えてくれるだろう。オレンジを帯びた夕方の日差しを額に感じなから無事に巣立ちすることを願い山道を降りた。  

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