現場職員が考える良い施設介護vol.3
介護サービスには在宅介護と施設介護の2種類があります。
私は施設介護の働きに従事している者なので、
自分が語りやすい「施設介護」のサービスの中で、
自分が注意しているポイントを発信します。
さて。
いまのところ、介護サービスは、人 対 人 の関係性の中で実践されています。
(「いまのところ」というのは、AIの発達が目覚ましく、そう遅くない未来にはAIロボットによる対人介護が行われるのではないか、と予想しているからです。その良し悪しについて考えところがあるのですが、ひとまず置いておきましょう。)
とりわけ施設介護は、多 対 多 の人間関係が随時、直接的に入り組む中でサービスが展開されているので、介護の質をより高めていきたい、改善したいと思う場合には、個々の介護技術のレベルアップも大切だとは思いますが、それ以上に、同じ場所で同じ時間をともにしている人間関係に注目して、良い関係づくりに努めていくことが必要だと考えます。
前回までの2回、 介護者 × 利用者、 介護者 × 介護者 の関係を考えてみました。
今回は、 利用者 × 利用者 の関係について考えます。
先に言ってしまえば、人の数だけ関係の組み合わせがあると思うので、結局はひとりひとりと向き合い、様子を見て聞いて感じていくことが最短の理解方法だし、関係づくりなのだと思います。たとえば年代やら性格、雰囲気やらで「傾向」を読み取って「この人は、○○タイプだ」とあてはめて考えるのは、役に立つときもあれば、そのとおりでないこともあるので注意が必要だと思います。
上記を踏まえた上で、あえて「○○タイプ」という考え方を使うと、
ご利用者の中には、静かな方、にぎやかな方、さみしがりな方、怒りっぽい方、などなど、実にさまざまな方がいらっしゃいます。
たとえば表面上、明るく社交的に思われる方でも、実は「さみしい」という気持ちをまぎらわせる為、そのようにふるまっておられることもあるでしょう。
無愛想で気難しいのでは、と予想していた方を介助した際に、その方がひっそり「ありがとう」と発されるのを聞いて、「なんだ、あたたかい方じゃないか〜!」と認識し直すようになった経験があるのでは、と思います。
「この人は、○○タイプ」と決めてかかってしまうと、そうでない一面を見逃してしまうかもしれないので、注意したいな、と考えます。
「人って、いろいろ思ったり感じたりするよね。」と思いたいのです。
(なので、これも私の思い込みである、と認識しています。良かれと思って試したことにより、かえって気分を悪くさせてしまったことがありますから。)
ひとりひとりに適切なケアを、と考えて注意しているつもりのプロの介護者でさえもこのように認識まちがいを起こすことがあるのですから、ご利用者どうしで、互いに認識間違いを起こしてトラブルに発展することは多々、起こるものだと考えます。
ご利用者の認知機能に障害があれば、一度、介護者が説明して納得された情報であってもそれを忘れてしまい、同じトラブルを起こしてしまったり、巻き込まれてしまったりすることも多々、起こります。
「どうせ話してもすぐに忘れてしまうでしょう。」
「また例のケンカでしょ。はいはい…。」
ご利用者 × ご利用者 のトラブル
介護者が間に入り、ご利用者間の認識違いを説明できて解決できればそれでよいのですが、
あるいは「何度でも!」、ご説明して納得をいただく必要がある場合もありますよね。
解決手段としては、
①その都度、仲介する、なだめる。いさめる。
②トラブルを起こしがちなご利用者の距離を物理的に離す。
③トラブル以前の気持ちを把握する為、話を伺う。夢中で取り組んで頂けるような「なにか」を考え、提供する。
などが考えられます。
③を考えて、実行し、効果のほどを振り返ってみる。そして足りなければ別の案を試してみる、というステップを積み重ねることができると、介護者としての実力が上がっていくと思います。
トラブルそのものがひとまず解決されたとしても、ご本人の中に心配、不安、焦りなど、トラブルの種が残っていると、別のトラブルを起こしてしまうでしょう。
なのでトラブルの要因をじっくり確かめて、その要因に対してアプローチを行うことができると、少しずつ改善につながると思います。
介護施設においてご利用者が感じておられる不安や心配の例を列挙してみます。
・「家に帰りたい」・・・(慣れないから気が苦しい/家事をしなければ/お金がなくなってしまう/家族が心配/鍵をかけ忘れた/野球中継が始まる。笑)
・「仕事に行かなくては/しなくては!」・・・(お金を稼がなくっちゃ。/職場の人に迷惑をかけてしまう/失職してしまう/自分のせいで困る方が出てくる)
・「身体が痛い」・・・(まいったなぁ。このまま悪くなる一方なのかなぁ)
・「覚えが悪くなった」・・・(このままボケていってしまうのかなぁ、こわいなぁ。)
ちょっとしたことでも、もんもんと不安を膨らませてしまうのだと思います。
利用者 × 利用者
という観点でみてみると、
不安を同じくすることがわかる場合、ご利用者どうしで声を掛け合い励まし合う場面も多くあります。
ちょっとした一場面ですが、私はこの互いに声を掛け合い励まし合う機会は、1日の生活の中でとても貴重な機会ではないか、と考えています。
できれば、一人ひとりのご利用者がこの機会を持てるようにご利用者どうしをつなぎたいと考えています。
なぜなら、
・他者をはげますことによって、自分の気持ちを強くすることができる。
・他者に励まされることによって、自分は一人ではない、と少しは感じることができる。
と思うからです。
ツイッターでは、悩める人が投稿したツイートに励ましのリプライが送られてきて、投稿した本人が活気を取り戻す、ということがありますが、高齢者の方、施設に入居されている方の多くは、そのようなツールを知らず、使いこなせません。
となると、介護者が悩めるご利用者のツールになる必要がある、ということです。
とあるご利用者から悩みを聞いた場合、介護者は「リアル・リツイート」(車椅子で他の職員やご利用者のもとに案内し、悩みを共有する)することで、自身で解決できない問題であっても、他職員や、他利用者の力添えを受けて、当人の悩みが解決されたり、あるいは、一時的な不安がやわらいだりすることがあるかもしれません。
利用者と利用者をつなぐ行為は、ある意味、リツイートではないでしょうか。
「このような考えを持っておられる方がいますよ」と紹介する行為なのですから。
ただし。リツイートしたことで新たなトラブルを起こす可能性もゼロではありません。
リツイート先の方が一緒に落ち込んでしまう、悩んで不安になってしまう、ということも起こりうるからです。
きっとそれが分かっているから、「よけいなことはしたくない」と消極的になってしまう
介護者も多いのだとは思います。
それでも! 私は、どちらかといえば、繋ぐ、というほうに積極的でありたい。
ひとりでふさぎ込み、もんもんとさせてしまうよりかは、解決に至らなくても気持ちを共有してくれる相手を探したいと思うのです。
これまで自分が働いてきた体感として、そちらに取り組むほうがご利用者が落ち着いて暮せているように思いますし、延々と同じトラブルに対処することよりも建設的である、と考えます。
注意したいのは、本人が他者に悩みを打ち明けるのを嫌がっている場合に、無理にそれを勧めるべきではない、ということですね。
以上、 利用者 × 利用者 の関係を考えてみました。
施設介護者は、食事介助、排泄介助、入浴介助、あるいはトイレ掃除だとか洗濯物たたみといった生活の為の基本的な介助の最中に、施設入居者、入所者に起こりがちなトラブルを予測して回避する為の介助を、常に並行して行っています。
トラブル回避介助、と言えばよいでしょうか?
その介助方法が、その場しのぎの消極的なやり方であるのか、今後にも効果を見込める建設的な方法であるのか、見直していきたいと思っています。
時間に余裕があるからできること、と言われてしまうかもしれませんが。
実は、むしろ時間に余裕を作りたいから、あえて取り組んでみたいと思っています。
最後に。
記事を書いている最中に思いついたので、蛇足ながら発信しようと思ったことを。
「介護者 × 利用者」、 「介護者 × 介護者」、 「利用者 × 利用者」
施設介護者は、同じ時間と空間を過ごす方との時間・空間づくりに努める者だから。
職業としては、もはや、「空間デザイナー」の一種ではありませんか!
本来のインテリアコーディネーターや空間デザイナーが、暮らしを想像してデザインしているのに対して、
介護職は実際にそこで住み、暮らす方々の生活をリアルタイムで支援し、必要に応じて『リ・デザイン』しているプロフェッショナルですよ!
めちゃめちゃかっこいいでしょ!
介護士は、サービス利用者に合う生活を一緒に考え提供するため一番近くにいる人、という意味で、ライフ・コーディネーターと言えるでしょう。
ケアマネージャーとどちらかが魅力的ですか?笑
(ケアマネージャーの働きに文句を言っているわけではありませんので、あしからず!!)
長々と読んでくださり、ありがとうございました。
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