薬剤耐性グラム陰性菌感染症の治療ガイダンス (IDSA)を読み解いていく -ESBL編 その3-
先日、IDSAから公表された、薬剤耐性グラム陰性菌感染症の治療ガイダンスについて、記事にしています。
この内容を少しずつ読み解いていくという内容で記事を書いています。
初回は、導入部分の抗菌薬に関するセクションについて、内容を読み解いていきました。
2回目は、ESBLについて記述されている部分の導入部分について読み解いてみました。
3回目は、ESBLのセクションのうち、Q&A 1-4の部分について読み解いています。
今回は、ESBLのセクションのうち、Q&A 5-7の部分について読み解いていきたいと思います。
Question 5: Is there a role for cefepime in the treatment of infections caused by ESBL-E when in vitro susceptibility to cefepime is demonstrated?
質問5:セフェピムに対するin vitroでの感受性が示された場合、ESBL-Eによる感染症の治療にセフェピムの役割はあるのか?
以下、本文の和訳です。
推奨: ESBL-E に起因する感染症の治療には、たとえセフェピムに対する感受性が示されていても、セフェピムは避けるべきである。セフェピムが後で ESBL-E として識別された微生物によって引き起こされる膀胱炎のための経験的療法として始められ、臨床改善が起これば、抗菌薬療法の変更か延長は必要ではない。
根拠: 観察研究と、侵襲性ESBL-E感染症の治療のためにセフェピムとカルバペネム系抗菌薬を比較した無作為化試験における23人の患者のサブグループ分析では、セフェピムの方が転帰に差がないか、または転帰が悪いことが示された[36-39]。ESBL 酵素が存在する場合、セフェピム の MIC テストは不正確であるかもしれないし、再現性が低いかもしれない [33, 34, 40]。
前回のピペラシリン-タゾバクタムと記述している雰囲気的には同様ですね。基本的にはESBL-Eの治療にはセフェピムは使わない、使えるのは膀胱炎で、Empiricalに初めた場合で、効果がみられた場合と限定しているようです。これは、安全に患者さんの治療をするためには抑えるべき点ですね。
Question 6: What are preferred antibiotics in the treatment of infections caused by E. coli, K. pneumoniae, K. oxytoca, or P. mirabilis not susceptible to ceftriaxone if confirmatory phenotypic ESBL testing is negative?
質問6:確認的表現型ESBL検査が陰性の場合、セフトリアキソンに感受性のないE. coli, K. pneumoniae, K. oxytoca, or P. mirabilisによる感染症の治療における好ましい抗菌薬は何か?
以下、本文の和訳です。
推奨: 抗菌薬治療の選択は、局所的に検証されたESBL表現型検査でESBL産生を示さない場合、感受性検査の結果に基づいて行うことができる。
根拠: 現在、CLSI(Clinical and Laboratory Standards Institute)が承認したESBLの確認検査用の表現型検査法は存在しない[18]。ESBLの表現型検査を実施していない臨床微生物検査室を持つ病院では、セフトリアキソンのMIC > 2 mcg/mLを大腸菌、K. pneumoniae、K. oxytoca、またはP. mirabilisによるESBL産生の代理として使用すべきである [18]。臨床分離株によるESBL産生の可能性を除外するための表現型検査(例えば、ダブルディスクシナジーテスト、ETEST®、自動化された感受性プラットフォームアルゴリズム)は、注意して解釈すべきである。結果は、臨床的な意思決定のために、現地の研究室で検査の妥当性を確認した後にのみ使用すべきである[41, 42]。
解説するまでもないですね。本文の記載のとおりです。
感受性試験の結果に基づいて、適切な抗菌薬を選択する必要があります。
Question 7: What is the preferred antibiotic for the treatment of bloodstream infections caused by ceftriaxone non-susceptible E. coli, K. pneumoniae, K. oxytoca, or P. mirabilis, if a blaCTX-M gene is not detected using a molecular platform that includes this target?
質問7:セフトリアキソン非感受性大腸菌、K. pneumoniae、K. oxytoca、または P. mirabilis による血流感染症の治療に好ましい抗菌薬はどれか? このターゲットを含む分子プラットフォームを用いて blaCTX-M 遺伝子が検出されなかった場合の治療に好ましい抗菌薬はどれか?
以下、本文の和訳です。
推奨: blaCTX-M遺伝子が検出されないことは、他のESBL遺伝子の存在を排除するものではないので、セフトリアキソンに感受性のない大腸菌、K. pneumoniae、K. oxytoca、および P. mirabilis にblaCTX-M遺伝子が検出されない場合には、カルバペネム療法を行うことが望ましい。
根拠: 陽性血液培養物からのβ-ラクタマーゼ遺伝子検出のための市販の分子プラットフォーム(例えば、Verigene® グラム陰性血液培養検査、GenMark ePlex® 血液培養識別グラム陰性パネルなど)は、ESBL の検出を blaCTX-M 遺伝子に限定している。セフトリアキソンに感受性のない大腸菌、K. pneumoniae、K. oxytoca、および P. mirabilis に blaCTX-M 遺伝子が存在しない(すなわち、セフトリアキソン MIC > 1 mcg/mL)ことは、他の ESBL 遺伝子(例えば、blaSHV、blaTEM)の存在を排除するものではありません。したがって、少なくとも初期には、カルバペネム療法が推奨される。
ESBLの種類はCTX-Mが国内でも多数の種類の報告がされています。しかし、CTX-M以外のタイプも知られており、CTX-Mが検出できなくても、ESBLとして考えて方が良いよということですね。ただ、ESBLの治療として、変わりなくしなさいよという内容ですね。
3回に分けて、薬剤耐性グラム陰性菌感染症の治療ガイダンス (IDSA)のESBLの部分を読み解いてみました。
米国のガイダンスなので、日本の作ったエビデンス (そもそも米国ではほとんど使用されていない)で提示された、セフメタゾール などの使用の可能性についての内容が盛り込まれていないことが残念ですね。。。
このガイダンスの良いところは活用し、日本から出されているエビデンスはそれはそれで活用できたら良いのではと思います。
あとは、感染症の種類によっても異なると思いますが、治療期間はどうするか?っていう疑問は残ります。通常の考え方は、耐性菌であっても、非耐性菌と同様の治療期間で良いとは思いますが・・・。
本ガイダンスの内容を使えるところは使い、使えないところもたくさんある、背景がどんなことなのかという点を知ることは非常に重要かなと思います。