薬剤耐性グラム陰性菌感染症の治療ガイダンス (IDSA)を読み解いていく -CRE編 その5-
本記事は、主に医療従事者向けに記載をしております。また、本記事の内容は、私の所属している施設などとは一切関係がないことを併せてご承知の上、記事をご覧ください。
はじめに
先日、IDSAから公表された、薬剤耐性グラム陰性菌感染症の治療ガイダンス[1]について、記事にしています。
この内容を少しずつ読み解いていくという内容で記事を書いています。
初回は、導入部分の抗菌薬に関するセクションについて、内容を読み解いていきました。
2-4回目は、ESBLについて記述されている部分について読み解いてみました。
前回までは、CREについて記述されている部分の導入部分、Q1-Q3について記事を記載しています。
今回は、CRE編その4として、Q&Aの内容 (Q4)を読み解いていこうと考えています。
なお、CRE=カルバペネム耐性腸内細菌科細菌、CPE=カルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌ですので、ごっちゃにならないようにご注意いただければ幸いです。
Q4. エルタペネムとメロペネムの両方に耐性のあるCREによる尿路外感染症の治療のために、カルバペネマーゼ検査の結果が得られないか、陰性である場合に好ましい抗菌薬は何か?
推奨: Ceftazidime-avibactam、meropenem-vaborbactamおよびimipenem-cylastatin-relebactamは、カルバペネマーゼ検査の結果が得られないか、または陰性である場合に、ertaapenemおよびmeropenemの両方に耐性のあるCREに起因する尿路外の感染症に対して好ましい治療法である。
根拠:米国では、エルタペネムとメロペネムの両方に耐性を持つCREによる感染症の大部分は、カルバペネマーゼを産生しない菌、またはKPC-カルバペネマーゼを産生する菌によって引き起こされている。Ceftazidime-avibactam、meropenem-vaborbactam、およびimipenem-cylastatin-relebactamは、カルバペネマーゼの状態に関する追加情報がなくても、ertaapenemおよびmeropenemの両方に耐性のあるCRE感染症に対する好ましい治療選択肢である。
これらの薬剤は、一般的にポリミキシンベースのCRE感染症の治療に一般的に使用される他のレジメンと比較して、臨床成績の改善および毒性の軽減と関連している。
好ましい薬剤間の有効性の比較研究は限られている。CRE感染症患者131人を対象とした観察研究では、セフタジジム-アビバクタムまたはメロペネム-バボルバクタムで治療された患者間で臨床転帰に差がないことが明らかになった。
イミペネム-シラスタチン-レレバクタムの臨床情報は、CRE感染症の治療に好まれる他の治療法に比べて著しく少ない。しかしながら、この組み合わせのCREに対するin vitro活性、イミペネム-シラスタチンの臨床経験、およびβ-ラクタマーゼ阻害剤としてのレレバクタムの安定性は、イミペネム-シラスタチン-レバクタムがCRE感染症に有効である可能性が高いことを示唆している。
入手可能なデータによると、それぞれの薬剤に曝露した後のセフタジジム-アビバクタム耐性の出現は、メロペネム-バボルバクタム耐性の出現よりも一般的であることが示唆されている。これらの薬剤のそれぞれがより広範囲に使用されるようになるにつれ、耐性および比較有効性に関する追加データが出現することが予想される。
セフィデロールは、カルバペネム系薬剤に対する耐性のメカニズムにかかわらず、CRE感染症の代替治療選択肢である。セフィデロールは、他の方法では高耐性の表現型を持つ分離株を含め、CREに対してin vitroでの信頼性の高い活性を有している。臨床試験では、118人の患者におけるカルバペネム耐性グラム陰性感染症の治療において、セフィデロールがコリスチンをベースとしたレジメンで構成されることが多い最善の治療法と比較された;患者の51%がCREに感染していた。28日目の死亡率はセフィデロール群で高かった。これらの所見は肺炎と血流感染症の治療において最も顕著であった。セフィデロールを尿路以外の感染症で効果的かつ安全に使用できる患者層を定義するためのデータがより多く得られるまでは、本剤は不耐性や抵抗性のために好ましい薬剤が使用できないCRE感染症にのみ使用することが推奨される。
患者がカルバペネマーゼの状態が不明なCRE株に感染しており、メタロ-β-ラクタマーゼが常在する地域(例:中東、南アジア、地中海)から最近渡航した患者である場合、セフタジム-アビバクタム+アズトレオナム、またはセフィデロール単剤での治療が推奨される。メタロ-β-ラクタマーゼ産生菌に起因する感染症に対する好ましい治療アプローチは、KPCまたはOXA-48様酵素を産生する細菌に対する活性も提供する。
腹腔内感染症を有する患者では、チゲサイクリンおよびエラバサイクリンは許容可能な単剤療法の選択肢である;高用量チゲサイクリンは、表1に記載されているように、複雑な腹腔内感染症にはより有効であるかもしれない。これらの活性は、カルバペネマーゼの存在や種類とは無関係である。パネルは、腹腔内感染以外のCRE感染症の治療にはチゲサイクリンまたはエラバシクリンの使用を避けることを推奨している。これらの薬剤は投与後に急速に組織内に分布し、その結果、尿中濃度が制限され、血清中濃度が低い。
以上が, Q4の内容と推奨事項, 根拠についてです。
内容を読み解いてみましょう
根拠のセクションが非常に長いです。重要と思われる部分は太字で強調はしてみたものの、日本で入手できる薬剤が相変わらず少ないです。
前回も少し触れましたが、CRE≠CPEなんです。まず、そこをご理解いただく必要があります。また、Q4の本文に記載をされているエルタペネムはメロペネムとの違いがあります。このあたりは、以前の記事(下記リンク)に記載をしていますので、是非ご一読いただければと思います。
Q4は、
●尿路感染症以外の感染症で、菌が検出し、
●検出した菌 (腸内細菌科細菌-グラム陰性菌)がカルバペネマーゼを産生することが否定もしくは否定はされていないがカルバペネム系抗菌薬に耐性を示す場合に、
どの抗菌薬を使えば良いか?という内容ですね。
推奨事項は、相変わらず、日本で入手できないものばかり、挙げられています。
具体的には、
●ceftazidime-avibactam
●meropenem-vaborbactam
●imipenem-cylastatin-relebactam
の3剤が推奨として挙げられています。
しかし、前述のとおり、日本では入手できません。いずれの推奨薬剤も既存のβ-ラクタム系抗菌薬にβ-ラクタマーゼ阻害薬を組み合わせた合剤です。
例えば、ceftazidime-avibactamは、海外 (US)ではAVYCAZという商品名で販売をされています [2]。AVYCAZは、複雑性腹腔内感染症(cIAI)、複雑性尿路感染症 (cUTI)、院内発症の細菌性肺炎/人工呼吸器関連肺炎 (HABP/VABP)に対して適応を有しています [2]。
AVYCAZは1回2.5g (CAZ 2g/AVI 0.5g)を8時間ごとに投与(2時間で注射)で使用するようです[2]。しかも、処方情報によると、推奨治療期間まで丁寧に記載されています ( cIAI: 5-14日間, cUTI: 7-14日間, HABP/VABP: 7-14日間)。
しかし、AVYCAZはカルバペネマーゼのうち、米国や欧州で流行しているKPC型カルバペネマーゼ産生菌等のセリンを活性中心に持っているカルバペネマーゼ産生菌に対しては効果を有するようですが、日本国内で流行しているクラスBに分類される、メタロβ-ラクタマーゼ (MBL)である、IMP型などのMBLには効果を示さないとされています [3]。
つまり、日本国内で流行しているCPEに対しては、ceftazidime-avibactamが国内で入手できたとしても、有効では無い可能性が高いということになりますね。ただ、CPEではなく、CREの場合 (CPEであると否定された場合)は有効なのかもしれないですが、正直なところ、結論は出ていないと思うので、使用するかどうかは微妙ですかね。
では、meropenem-vaborbactamやimipenem-cylastatin-relebactamではどうでしょうか?
まず、meropenem-vaborbactamについては、海外では、VABOMEREという商品名で販売されています。メロペネムにvaborbactamというβ-ラクタマーゼ阻害薬を合剤にしたものです。vaborbactamについては、クラスA, Dのβ-ラクタマーゼだけでなく、クラスBのβ-ラクタマーゼにも阻害作用を有することが報告 [4]をされており、国内で流行しているCPEにも有効かもしれませんが、臨床での使用に関する明らかな報告は現在のところ見つけれませんでした。VABOMEREの添付文書 [5]では、まず、cUTIにしか適応がありません。また、製品の臨床試験時に確認している阻害作用のあったβ-ラクタマーゼは下記のとおりです [5]
VABOMERE demonstrated in vitro activity against Enterobacteriaceae in the presence of some beta-lactamases and extended-spectrum beta-lactamases (ESBLs) of the following groups: KPC, SME, TEM, SHV, CTX-M, CMY, and ACT. VABOMERE is not active against bacteria that produce metallo-beta lactamases or oxacillinases with carbapenemase activity.
つまり、クラスB β-ラクタマーゼに対する有効性という点は確認できていないということだと思われます。このため、これも国内で販売されたところで、使用できるかどうかは現時点では不明です。
imipenem-cylastatin-relebactamは海外では、RECARBRIOという商品名で販売されています [6]。cUTIやcIAIに対して適応のある抗菌薬です。
添付文書の内容 [6]をみてみると、
Imipenem/relebactam demonstrated in vitro activity against some Enterobacteriaceae isolates genotypically characterized for some beta-lactamases and extended-spectrum beta-lactamases (ESBLs) of the following groups: KPC, TEM, SHV, CTX-M, CMY, DHA, and ACT/MIR. Many of the Enterobacteriaceae isolates that were not susceptible to imipenem-relebactam were genotypically characterized and the genes encoding MBLs or certain oxacillinases were present.
つまり、ESBLsやKPCには効果があるけど、MBLsには効果がないですよという内容ですね。このため、これも日本で販売されても日本で流行しているCPEである、IMP型CPEには効果がないと考えられます。
以上から、IDSAから出たガイダンスの推奨薬剤は日本では使用しても治療できない可能性があるということです。
ただ、本Qでは、CPEを産生しないことを確認しているかCPEの判定試験ができない場合と限定されている点が悩ましいですが、CPEの判定ができないということであれば、CPEの可能性を含んだ治療→米国で使える、米国で流行しているCPEに活性のある薬剤が推奨されていると推察されます(個人的見解ですが・・・)。
では、どうすれば良いか?
ここからは、個人的な見解も含んでいるので、ご注意ください。
ガイダンスの本Qの根拠に示されている、チゲサイクリンが候補となるかと思います。また、ガイダンスには示されていないですが、他の例としてはコリスチンや感受性のある抗菌薬の組み合わせしか方法がないかと思います。感受性が残っている可能性がある抗菌薬はアミカシンやゲンタシンなどのアミノグリコシド系抗菌薬などかなと思います。あとはこれに高用量カルバペネムを組み合わせるという方法でしょうか。。。
高用量カルバペネムとの組み合わせの件は前回の記事を参照してください。
以上から、使用可能な薬剤云々の観点からではなく、現実的には流行しているCPE株が異なることなどから、IDSAのガイダンスを日本の実臨床に当てはめるのは難しいのではないかと考えます。
最後に
今回は、Q4だけで、これだけだらだら記事にしてしまいました。
少しでも誰かの参考になれば幸いです。
個人的に思うのは、CPEやCREが日本ではわずかといっても検出をされていますし、CPE菌血症の症例報告などもされている訳です [7]。専門家の不在している施設などもあるわけですから、治療オプションがどこかに示されていないと選択肢もわからないという状況も出てくるんではないかと思います。
こういうことを考えると、日本版のCPE, CRE検出時の治療オプションに関するガイダンス/ガイドラインが公表されることを願うばかりです。
参考文献
[1] Infectious Diseases Society of America Guidance on the Treatment of Antimicrobial Resistant Gram-Negative Infections. (https://www.idsociety.org/practice-guideline/amr-guidance/)
[2] HIGHLIGHTS OF PRESCRIBING INFORMATION. These highlights do not include all the information needed to use AVYCAZ safely and effectively. See full prescribing information for AVYCAZ. (https://www.accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/label/2019/206494s005,s006lbl.pdf, 2020年11月14日アクセス)
[3] Abboud MI, et al. Interaction of Avibactam with Class B Metallo-β-Lactamases. Antimicrob Agents Chemother. 2016;60(10):5655-62. doi: 10.1128/AAC.00897-16. PMID: 27401561; PMCID: PMC5038302.
[4] Langley GW, et al. Profiling interactions of vaborbactam with metallo-β-lactamases. Bioorg Med Chem Lett. 2019;29(15):1981-1984. doi: 10.1016/j.bmcl.2019.05.031. Epub 2019 May 17. PMID: 31171422; PMCID: PMC6593178.
[5]HIGHLIGHTS OF PRESCRIBING INFORMATION. These highlights do not include all the information needed to use VABOMERE safely and effectively. See full prescribing information for VABOMERE. (https://www.accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/label/2017/209776lbl.pdf . 2020年11月14日アクセス)
[6] HIGHLIGHTS OF PRESCRIBING INFORMATION. These highlights do not include all the information needed to use RECARBRIO safely and effectively. See full prescribing information for RECARBRIO. (https://www.accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/label/2019/212819s000lbl.pdf . 2020年11月14日アクセス)
[7] Nakakura I, Ogawa Y, Sakakura K, Imanishi K, Hirota K, Shimatani Y, Uehira T, Nakamori S, Sako R, Doi T, Yamazaki K. IMP-6 Carbapenemase-Producing Enterobacteriaceae Bacteremia Successfully Treated with Amikacin-Meropenem in Two Patients. Pharmacotherapy. 2017 Oct;37(10):e96-e102. doi: 10.1002/phar.1984. Epub 2017 Aug 23. PMID: 28699652.
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