バンコマイシンのトラフ濃度15-20μg/mLでの管理に対し、AUCガイドTDMは腎毒性を減少させるか? (PMID: 32721597)
本記事は、主に医療従事者向けに記載をしております。また、本記事の内容は、私の所属している施設などとは一切関係がないことを併せてご承知の上、記事をご覧ください。
はじめに
どうも、数日ぶりです。
今回もまたバンコマイシンに関する論文を読みました。
バンコマイシン関連の論文、特に薬物動態関連の報告は、ここ10年来でかなり増えているようです。
下記の図は、PubMedでvancomycin+pharmacokineticsで引いた際の論文の年度別ヒット数です。
バンコマイシンは2009年にガイダンスが発行されて以来、TDMの目標 (目標トラフ濃度)が明確に定まり、薬剤師の活躍する場面というものも定着してきた施設も多いのではないでしょうか?
しかし、今年に入り、TDMガイドラインの改訂がありました。その内容は過去の記事を参照ください。
先日以来、私の個人的趣味で、バンコマイシンの薬物動態に関して、色々と文献を読み漁っているところです。
先日までは、体型により、バンコマイシンの薬物動態に影響があるのか?ということを主題にしている論文を読んだので、そちらに関して記事にしておりました。
今回は、バンコマイシンのTDMの実施方法に関して、従来の管理方法 (トラフ値を指標とし、15-20μg/mLで管理)とAUCを算出して管理する方法での腎機能障害の発生に関して違いがあるのか?ということを主題にしているテーマの論文を読みましたので、その内容をまとめました。
今回の報告は、日本 (熊本大学病院のoda先生ら)からの報告です。
この論文の筆頭著者は、日本化学療法学会のTDMガイドラインの作成委員をされているようで、学会が公表しているTDM解析ソフトの作成をメインで行なった先生で、Bms-podという解析ソフトを既に作成し、大変ご活躍されている先生ですね。
Reduced nephrotoxicity with vancomycin therapeutic drug monitoring guided by area under the concentration-time curve against a trough 15-20 μg/mL concentration. Int J Antimicrob Agents. 2020 Oct;56(4):106109. doi: 10.1016/j.ijantimicag.2020.106109. Epub 2020 Jul 25. PMID: 32721597.
本報告は有名ジャーナルに掲載されているもので、IFが4台のジャーナルです。こんなところに掲載されるなんてすごいです。
今回の内容としては、上記スライド1枚にまとめましたが、興味深い点がいくつかありました。
例えば、eGFRにより、AUC>400 μg*h/mLを達成するトラフ濃度が異なるという点です。
上記図がそれにあたりますが、eGFR (日本人の推定式で算出)が84 mL/min/1.73m^2を超えると、AUC=400 μg*h/mLを達成するためのトラフ値は10μg/mLを下回るということです。eGFRがそれ以下であれば、逆にトラフは10 μg/mLを超えてくるという点ですね。
この点は非常に興味深い点で、それでは、eGFRがさらに良い症例群ではどうなのか?という点は非常に知りたいところです。しかし、その点は言及されていませんね、残念ながら。
AKI発生の独立したリスク因子としては、CKDの併存、NSAIDsの使用が上がっていることも押さえておく必要があるかなと思います。
また、AUC-guided TDM群の方がAKIの発生はやはり少ないという結果です。しかし、今回比較している対象群はトラフ値が15-20μg/mLでコントロールされている群との比較という点にも注意が必要です。
最後に
今回もバンコマイシンの論文を読んだものをまとめましたが、日本人でしかも薬剤師が書いた論文が有名ジャーナルに掲載されているというのは非常にすごいですし、まだまだ頑張らないといけないなと痛感しますね(自分には無理ですが・・・)。
今回は読んで損をしないような論文を読みましたので、参考にいただければ幸いです。