薬剤耐性グラム陰性菌感染症の治療ガイダンス (IDSA)を読み解いていく -ESBL編 その1-
先日、IDSAから公表された、薬剤耐性グラム陰性菌感染症の治療ガイダンスについて、記事にしています。
この内容を少しずつ読み解いていくという内容で記事を書いています。
先日は、導入部分の抗菌薬に関するセクションについて、内容を読み解いていきました。
今回は、ESBLについて記述されている部分について読み解いていこうと思います。
Extended-Spectrum β-Lactamase-Producing Enterobacterales (ESBL-E)とはそもそも何ぞや?っていう話から記述してみようと思います。
微生物は、環境を生き残るために、様々な工夫をしています。抗菌薬 (抗生物質)に晒されると、それに耐えるために、耐性化という現象が起こります。
耐性化のメカニズムには、
(1)抗菌薬の効果をなくす
(2)抗菌薬を細胞内に入れないようにする (外膜変化、バイオフィルムなどがこれにあたります)
(3)細胞内に入った抗菌薬を汲み出す
(4)抗菌薬が微生物に効果を示す場所を変形 (変性)させて、効果をなくす
というような内容が良く知られています。
詳しくは、AMRクリニカルリファレンスセンターのHPがわかりやすく書いています。
医療従事者向けは下記が参考になります。
ESBLは、基質拡張型ベータラクタマーゼのことで、β-ラクタマーゼのうち、4世代セフェム系抗菌薬までを分解してしまう、酵素のことです。これを産生する菌をESBL産生菌と呼び、ESBL産生菌は、主に、大腸菌、クレブジエラ属などを含む、腸内細菌科細菌のグラム陰性菌が産生します。
日本国内では、年々増加をしており、2019年時点で、大腸菌におけるCTX耐性 (ESBLとみなすと)28.3%とされており (https://janis.mhlw.go.jp/report/open_report/2019/3/1/ken_Open_Report_201900.pdf)、国内では、10-30%程度の発生率とされています。
ガイダンス本文に記載されていますが、ESBLの特徴として
ESBLは、ほとんどのペニシリン、セファロスポリン、アズトレオナムを不活性化する酵素である。
EBSL-Eは一般的にカルバペネム系薬剤に対して感受性を維持している。
ESBLは、非β-ラクタム系薬剤(例えば、シプロフロキサシン、トリメトプリム-スルファメトキサゾール、ゲンタマイシン)を不活性化しない。しかしながら、ESBL遺伝子を有する生物は、しばしば、広範な抗菌薬に対する耐性を媒介する追加の遺伝子または遺伝子の変異を有する。
という特徴があります。
一般には、β-ラクタム系抗菌薬を使用するなら、カルバペネムが第一選択薬とされています。代替薬としては、非複雑性尿路感染症などでは、オキサセフェム系抗菌薬のフロモキセフやセファマイシン系のセフメタゾールが使用されます (下記リンクがCMZやFMOXが有効とした論文)
ESBLの種類は1種類という訳ではなく、たくさんあります。
ガイダンスは米国のものなので、その点は記述されており、CTX-M-15が多いようですが、日本では、CTX-M-1, 9, 2, 8, 15などが検出されているようです。
その他、TEM型やSHVβ型などがあるとされています。
ESBL産生菌に対する治療は、ガイダンスでは、下記の図で示されている抗菌薬が推奨されています。
しかし、日本国内で入手できない薬剤も多く提示されています。
日本国内で使用可能なものとして
膀胱炎:第一選択=ST合剤、代替薬=アモキシシリンークラブラン酸、単回アミノグリコシド系抗菌薬、シプロフロキサシン、レボフロキサシン、メロペネム、イミペネム-シラスタチン
腎盂腎炎もしくは複雑性尿路感染症:第一選択薬=メロペネム、イミペネム-シラスタチン、シプロフロキサシン、レボフロキサシン、もしくは、ST合剤 (代替薬の記載はなし)
尿路感染症以外:第一選択薬=メロペネム、イミペネム-シラスタチン。経口薬へのステップダウンは、シプロフロキサシン、レボフロキサシン、もしくは、ST合剤を考慮 (代替薬の記載はなし)
となります。
ちなみに、キノロン系抗菌薬のシプロフロキサシン、レボフロキサシンは、日本国内においては、大腸菌などで、耐性化の懸念があり、使用に際しては、患者背景等を考慮する必要があります。
なお、尿路感染症における薬剤耐性菌の話は、少し前の総説になりますが、下記を参照ください。
本日は、ここまでにしておきます。
次回は、ESBLの治療に対するQ&Aを読み解いていきます。
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