薬剤耐性グラム陰性菌感染症の治療ガイダンス (IDSA)を読み解いていく -抗菌薬編-
IDSAから公表された薬剤耐性グラム陰性菌感染症の治療ガイダンスについて、先日記事にしています(下記リンクを参照ください)
ガイダンスの本編は下記よりご覧ください。
この中で、Table 1に当該ガイダンスで推奨の提示がされている抗菌薬について、正常腎機能症例への各抗菌薬の投与量について記載をされています。
これらの抗菌薬について、読み解いていきたいと思います。
なお、医療従事者向けの記事ですのでご承知の上、ご覧ください。
まずはamikacin (アミカシン)。
日本でも入手可能です。
ガイダンスでは、アミカシンの使用は膀胱炎では15 mg/kg/日 IV、他の全ての感染症には20 mg/kg/日 IV, その後の投与は、薬物動態を評価し、投与量、投与間隔を考慮することが記載されています。これは、日本の添付文書上では認められていない投与量です。しかし、日本では、TDMガイドライン 2016が公表をされており、その中では、上記投与量は推奨されています。
TDMガイドライン2016は下記参照。
ちなみに、TDMガイドラインは近々、改訂予定のようです。
次、Amoxicillin-clavulanate=アモキシシリン-クラブラン酸です。
日本では、オーグメンチンとクラバモックスが入手可能です。
オーグメンチンとクラバモックスの違いは、アモキシシリンとクラブラン酸の配合比率が違います。今回は省略しますが、クラバモックスは日本では、小児用のドライシロップしか製品がないため、実質、成人には、オーグメンチンを使用されます。このため、オーグメンチン+サワシリン (サワシリンはアモキシシリン単剤)を同時に処方されることがあります。
ガイダンスでは、膀胱炎に対しての使用のみ想定されており、配合比率は記載していませんが、アモキシシリンベースで875mg 12時間ごとに内服が推奨量のようです。1日量は1750mgとなり、そこそこの投与量です。
次、Cefiderocolです。
当該薬剤は日本で開発されたにもかかわらず、まだ、日本では、承認されていません。何故か、FETROJA®(cefiderocol)という名称で、米国、欧州で承認されています (なんでやねん!って思いますが・・・)。
近々の承認状況は、シオノギのプレスをみていただければわかるかと思います。
https://www.shionogi.com/jp/ja/news/2020/06/200602.html
ちなみに、当該プレスに記載されている一セクションから下記を抜粋
FETROJAは、多剤耐性菌を含むグラム陰性菌の外膜を通過する新規メカニズムを有するシデロフォアセファロスポリン抗菌薬です。本薬はポーリンチャネルを介した受動輸送だけでなく、鉄と結合する独自の構造を有することにより、細菌が養分である鉄を取り込むために利用する鉄トランスポーターを介して、細菌内に能動的に運ばれます。その結果、FETROJAは細菌のペリプラズム内に高濃度に取り込まれ、細胞壁合成を阻害します。またFETROJAは、ESBLs、AmpC、セリン型およびメタロ型カルバペネマーゼなどの、問題となっているbラクタマーゼを産生する細菌に対してもin vitro活性を示します。グローバルで実施した感受性サーベイランス試験*において、FETROJAはカルバペネム系抗菌薬に耐性を示す緑膿菌、アシネトバクター・バウマニ、ステノトロホモナス・マルトフィリアおよび腸内細菌科細菌を含むグラム陰性菌に対し、in vitroで抗菌スペクトルを示しました。これに対して、FETROJAのグラム陽性菌および嫌気性菌に対するin vitro活性は強くありません。
上記のような特徴があり、欧州では、耐性菌の切り札として承認をされています。(海外の方が、CREの多彩さ、影響は大きいので、やむなしといったところでしょうか・・・)。
投与量はガイダンスの投与量を参照ください。
次、Ceftazidime-avibactam。また、国内では未発売の薬剤です。
セフタジジムは、先発品=モダシンという名称で販売をされています。
アビバクタムを含む薬剤は国内では、2020年9月現在販売されていないと思います。
Ceftazidime-avibactamはβラクタマーゼのうち、クラスA、C、Dには有効らしいですが、クラスBには無効、つまり、日本国内で流行しているIMP型カルバペネマーゼ産生菌の治療には使えないというのが現状のようです。
投与量はガイダンスの表を参照ください。
次、aztreonam。国内ではアザクタムという名称で販売されている薬剤です。良い薬だと思うのですが、あまり使われていないように思います。
ガイダンスでも、当該薬剤は、先ほど提示した、Ceftazidime-avibactamとの併用で使用を推奨しているようです。投与量は2g 8時間ごと、1回3時間以上かけて投与する。→PK/PDを考慮して、Time above MICを稼ぐためだと思われます。
次、 Ceftolozaane-tazobactam。日本国内ではザバクサという名称で販売されている薬剤です。
当該薬剤は、日本国内では、敗血症、肺炎、尿路感染症、腹腔内感染症に対して承認をされています。ちなみに、腹腔内感染症に対しては、メトロニダゾールとの併用が必要です。これは嫌気性菌への活性が良くないためのようです。
耐性菌への使用は、CREへの効果は認められていません。しかし、ESBL産生菌やAmpC産生菌などへの効果は認められています。また、緑膿菌への活性も有しているため、緑膿菌感染症に対しても使用をされます。
投与量については、ガイダンスと添付文書では異なっているので割愛します。
次、Ciprofloxacin。先発品はシプロキサンの名称で販売されており、国内でも入手可能です。内服薬、注射剤があります。
ガイダンスの投与量は、注射の400mg 8時間ごとは、日本国内では、重症感染症に対して適応があります。
内服の投与量は、日本国内の添付文書では、
シプロフロキサシンとして,通常成人1回100〜200mgを1日2〜3回経口投与する.
なお,感染症の種類及び症状に応じ適宜増減する.
炭疽に対しては,シプロフロキサシンとして,成人1回400mgを1日2回経口投与する.
とされており、ガイダンスの750 mg 12時間ごとは添付文書を逸脱しています (使うことがあるのだろうか・・・)
次、colistin。コリスチンは日本では、オルドレブという商品名で販売されています。昔からある薬ですが、"コリスチンに感性の大腸菌、シトロバクター属、クレブシエラ属、エンテロバクター属、緑膿菌、アシネトバクター属
ただし、他の抗菌薬に耐性を示した菌株に限る"と添付文書上は記載されており、実質、多剤耐性グラム陰性菌感染症に対して、日本では適応を有しています。
ガイダンスでは、国際ガイドラインの内容を参照せよとなっています。
国内の添付文書では、
通常、成人には、コリスチンとして1回1.25〜2.5mg(力価)/kgを1日2回、30分以上かけて点滴静注する。
とされています。
次、Eravacycline。日本では販売されていません。チゲサイクリン (タイガシル)と似たような薬剤のようです。あまり情報を知らないですが、FDAよりファストトラック指定を受けているようです(Wikipediaベースの情報ですが・・・)
次、Ertapenem。これも日本で販売されていません。カルバペネム系抗菌薬だが、緑膿菌への活性はない。米国では2002年に承認されているよう(http://www.chemotherapy.or.jp/journal/jjc/05212/052120761.pdf)。
次、Fosfomycin。日本ではホスミシンという商品名が知られています。日本のホスホマイシンはカルシウム塩(BA 10~30%)で、海外製はトロメタミン塩(BA 34~58%)で、日本で販売されている内服薬は吸収が悪い。注射剤はNa塩で14.5mEq/gナトリウムを含んでいる。
投与量は、海外製のものであり、日本では適応なし。
次、Gentamycin。日本では、ゲンタシンという商品名で販売されています。ブラック〜〜〜〜という芸人さんが、ブツブツの治療に使っているというあのゲンタシンです。とはいっても、これは注射の話。
投与量については、日本のTDMガイドラインで示されている内容と差異はないです。
次、Imipenem-Cilastatin。チエナムという商品名で国内では販売されています。日本の添付文書では、
通常成人にはイミペネムとして、1日0.5〜1.0g (力価) を2〜3回に分割し、30分以上かけて点滴静脈内注射する。
小児には1日30〜80mg (力価)/kgを3〜4回に分割し、30分以上かけて点滴静脈内注射する。
なお、年齢・症状に応じて適宜増減するが、重症・難治性感染症には、成人で1日2g (力価) まで、小児で1日100mg (力価)/kgまで増量することができる。
とされており、日本の重症感染症に対する投与量とガイダンスの投与量と差異はないですね。
次、Imipenem-Cilastatin-relebactam。先ほどのチエナムにレレバクタムというβラクタマーゼ阻害剤を配合剤として添加した薬剤です。日本での販売はなし。もともとチエナムも配合剤なのですが、さらに配合するっていう発送、すごい。
次、Levofloxacin。クラビットという商品で日本では販売されています。
日本の添付文書で定められた用法用量は
レボフロキサシンとして1回500mgを1日1回経口投与する
ですので、ガイダンスの750mg 1日1回は適応外ですね。
次、Meropenem。みんな大好きな、メロペンとして国内では販売されています。
ガイダンスは膀胱炎には、1g 8時間ごと、その他は2g 8時間ごとと3時間投与とされていますが、日本では、1回2gは髄膜炎にしか認められていません。 (髄膜炎ではなく、CREや緑膿菌による感染症では、使っていることもありますが・・・)
次、Meropenem-vaborbactam。βラクタマーゼ阻害薬のvaborbactamを配合している薬剤です。日本では販売されていません。
次、nitrofurantoin。日本では販売されていません。海外では、単純性尿路感染症の治療または予防に対して適応を有しています。このため、ガイダンスでも膀胱炎の項目しか投与量の記載がないです。
次、Plazomicin。多剤耐性(カルバペネム耐性を含む)腸内細菌科細菌に対して殺菌活性を有するアミノグリコシド系薬。日本では販売されていないため、使用はできません。アミカシンの投与量と同様のため、PK/PDは似ているのかも?
次、Polymyxin B。日本では、経口薬 ・外用(散、錠)しか販売されていません。経口投与しても、吸収はほとんどされませんので、消化管殺菌などに使用されています。
次、Tigecycline。日本では、タイガシルという商品名で販売されています。チゲサイクリンはグリシルサイクリンに分類されるテトラサイクリン系抗菌薬で、
本剤に感性の大腸菌、シトロバクター属、クレブシエラ属、エンテロバクター属、アシネトバクター属
ただし、他の抗菌薬に耐性を示した菌株に限る
日本の添付文書では、
チゲサイクリンとして初回用量100mgを30〜60分かけて点滴静脈内投与、以後12時間ごとに50mgを30〜60分かけて点滴静脈内投与する
とされています。
ガイダンスでは、上記投与方法は、非複雑性腹腔内感染での推奨投与量ですが、複雑性では高用量で、上記添付文書用量の2倍量を推奨されています(日本では適応外)。
次、Tobramycin。トブラシンという商品名で販売されています。
アミノグリコシド系抗菌薬の中でも、緑膿菌に対する活性が高いということが言われており、使い慣れている先生は、緑膿菌感染症にチョイスしますね。
投与量はTDMガイドライン2016と同様です。
次、Sulfamethoxazole - Trimethoprim。いわゆるST合剤で、バクタ、バクトラミンなどの商品名で販売されています。
色々な感染症に使用されていますが、PcPなどの治療・予防に使用されることもあります。ガイダンスでは、内服、注射で、同様の投与量が示されています (トリメトプリムベースで投与量は記載されています)。
以上のような薬剤が提示されています。
多剤耐性グラム陰性菌に対する抗菌薬は、日本で入手可能な薬剤が限られているため、使用に際しては、効果・副作用を十分に考慮し、使用を行うことが必要かなと思います。