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割と美人な同居人は褒めに弱いみたいです。
「大事な相談があるんだ、○○。」
父が真剣な顔をしてこちらを向く。
父子家庭の俺からしたら再婚だと思った。
「俺の親友の娘さん、ここで預かってもいいか?」
「え、何言ってんの?」
「俺の親友が海外出張に行っちゃうんだと、娘さんは残りたいらしくて。」
「ふーん、別にいいけど。」
「じゃあ今日の学校の後来るから、説明は連絡しとくから任した!」
そう言い残して父は仕事へと駆け出してしまった。
「娘さん、何歳なんだろ。」
そもそも家に女性がいることが当たり前になるってだけで追いつかないのに。
「はぁ...」
・・・
「.......ってことがあったんだよ...。」
「まじか...父さんの友達ってことは同い年くらいなんじゃね?」
たしかにそれは盲点だった。
「この学校の人だったりして。」
ほんとにそんなことが起きたらどうするんだ。
そんな重たい足を引きずりながら足を家まで運ぶ。
今日は部活も無いし説明するのに家主がいないとおかしな話だ。
早く帰らないと。
教室を出て廊下の曲がり角に差し掛かった所で自分の体に弱めの衝撃が走った。
「きゃっ...」
女性とぶつかってしまった。
サッカー部に所属している自分のガタイの良さからか、彼女の細すぎるウエストからか女性は少し吹っ飛んだ。
「すいません..!大丈夫ですか?!」
俺は焦って頭を地面にめり込ませてすぐさま土下座。
相手の顔など確認している暇も無かった。
「だ、大丈夫だから!頭あげて..?」
この子が優しくて助かった...。
「えっ....」
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前言撤回。
菅原咲月さんじゃないか。
「どうかした.......?」
頭をコテっと横に倒し頭の上にはてなを浮かべているのは隣のクラスの菅原咲月さん。
可愛い子がいたらそりゃ部活でも話題になる。
でもみんなすぐ転校してきた井上さんに興味が向いたみたい。
俺は菅原さん派だ!なんて大きい声じゃ言えなかったけど。
「ほんとに申し訳ないです!それじゃ!」
「え?ちょっと!」
何となく雰囲気的にその場に入れなくなって走って逃げ出した。
・・・
家に帰ってきて自分の部屋と今日来る子の部屋を掃除しソワソワしながらリビングに座った。
「ふぅ....」
父さんから貰った説明の紙を見返して、手持ち無沙汰になってクッションを抱く。
傍から見れば不審者だけど、16年間住んできた所に突然女性が来るんだから。
するとインターホンからチャイムが聞こえた。
「はーい。」
1度深く深呼吸をして、玄関の扉を開ける。
「はーい、どちら様ですかって....」
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見間違いでなければ目の前には先程ぶつかってしまった美人がいる。
これ、夢だ。
そう思って1回扉を閉めてみる。
「え?!ちょっと!?」
もう1度深い深呼吸をして扉を開けた。
「なんで閉めたの?」
頬を膨らませて若干怒っているみたい。
「夢かと思って...てかなんでここに?」
「まさかさっきのこと怒ってます...?」
「そんなわけないでしょ。」
焦りすぎて本題から目を背けすぎていたせいなのか、目の覚めるような一言を告げられる。
「私、今日からここに住ませて貰うって聞いてたんだけど...?」
「は?!?うそ?!?!」
「嘘じゃないよ?」
「絶対嘘だ?!こんな美人が来て耐えられるわけないでしょ!!」
「あ、ありがと...」
やってしまった。
「と、とりあえず中にどうぞ....。」
「うん。」
いきなり困らせてしまって、申し訳ない。
部屋や場所の説明などを済ませ、家事の説明に入る。
「部活で出来ない時以外は基本俺がやるので。」
「洗濯は分けます?」
高校生だし、配慮も必要だよな。
「ううん、一緒で大丈夫だけど洗剤と柔軟剤は決めてもいいかな?」
「はい、大丈夫です!」
女性のこだわりはわかんないけど分けなくていいなら楽だし嬉しい。
「私も家事やるよ?」
「今日ぶつかってしまったので...」
「じゃあぶつかった分は君が敬語を使わないってことでチャラにしよ!」
なんという提案、出来れば敬語で過ごしていたかったのに。
「それでいいですよ。」
「いいです?」
「.......いいよ。」
全ての感情がはじめてで感情のパレットに色をつけられているみたい。
「よし、じゃあよろしくね?えっと...」
「小川○○だよ、よろしく。」
「よろしく、○○君!」
目を捉えた真っ直ぐな微笑みは俺の心を塗りあげるには充分だった。
「かわいい.....。」
気づいたら出ていたその小さな声は彼女にも聞こえてしまっていたらしく顔を赤く染めている。
「.......」
なんとも言えないような時間。
「ごめん、変なこと言って...。」
「ううん、嬉しかったよ....。」
まだ耳まで真っ赤だから本当だろう。
「夜ご飯、作らなきゃ。」
その場にいれなくなって逃げるようにキッチンへ。
冷蔵庫と相談してメニューを決める。
「カレーにするか。」
嫌いな人いないし。
リズム良く野菜を切っているとカウンターから菅原さんがひょこっとこちらを覗いていた。
「あれ、荷解きとかいいの?」
「うん、今は○○君を見てたい。」
勘違いするって、男子高校生なんだから。
そんな一言でウッキウキになったのでいつもよりカッコつけながら肉やら野菜やらを炒める。
作り終わってひと煮立ちさせたら盛り付ける。
彼女に確認を取りながらお皿に盛り付けて冷蔵庫のサラダを出した。
「お父様は?」
「父さんはいつも遅くに帰ってくるから、連絡だけしといてあげて?」
「うん。」
「いただきます!」
彼女が元気よく挨拶をしてカレーを口いっぱいに頬張る。
「美味しい!お店出せるよ!」
嬉しいことを言ってくれる、でもその前に。
「口にカレーついてるよ。」
ちょっと笑いながら言った。
「え、恥ずかしい....。」
そう言ってティッシュで逆側を拭く菅原さん。
「ほら、こっちだよ。」
そのティッシュを取ってカレーを拭いてあげる。
「ありがと...。」
みるみるうちに顔が赤くなって、恥ずかしかったんだろう。
ちょっといじわるしたくなった。
1回聞かれてしまったし、タイミング的にもダメージがないので言える。
「可愛いね。」
微笑みながら言うと菅原さんは顔から湯気が出るほど赤くなってしまいには倒れてしまった。
「ちょっ?!菅原さん?!」
「..............」
これが俺たちの同居人としての1日目だった。