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割と美人な同居人は嫉妬したみたいです。
夏休みも終わり、少し秋が顔を出してくる季節。
いつも通り学校の屋上で咲月と昼ごはんを食べていた。
「うん、いつも通り○○君のご飯は美味しいね....!」
「あ、ありがと....」
いつまで経っても笑顔を向けられることには慣れない。
「○○君......?」
「なんでもない....ていうか今日は部活無いけど委員会あるから少し帰るの遅くなる」
「分かった!頑張ってね......わわ......」
9月も終わりごろなので屋上には涼しい風が体に吹き込む。
俺は着ていたジャージを咲月に手渡した。
「寒かったら着てていいよ、嫌ならどっか置いといてくれればいいから」
「ありがと......大事に着るね?」
そう言って1度立ってからジャージに袖を通すと、目の前でくるっと回って見せた。
「ちょっとぶかぶかだけど......○○君に包まれてるみたいであったかいかな......なんて」
小っ恥ずかしそうに言う咲月を見て、自然と箸が伸びるスピードがあがる。
「ご、ごちそうさま。先に戻ってるね」
「あ、ちょっと......!」
咲月の少し悲しそうな顔に気づかないまま、俺は屋上を後にした。
・・・
「じゃあ君たちは3-1だから。」
美化委員会の先生からチェックシートを貰い、もう1人の委員の人と目的の教室まで歩く。
仕事は掃除用具の点検や備品のチェック等なので、すぐに帰れるはず。
咲月が料理しだすと色々大変なので今日は家に早く帰っておきたい。
「なんか急いでる?」
少し焦っているともう1人の委員、奥田さんに声をかけられた。
「別に急いでないよ」
「ふーん、この後デートでもするのかと思ってた」
掃除用具のロッカーを開けて、箒を手に取って異常を確認しているフリをしてあたかも自然に振る舞う。
そうでもしていないと、なんだかバレてしまいそうで怖かった。
「デートなんて、第一彼女もいないし」
「さっちゃんは?」
普通のトーンでなんの起伏もなく発されたその名前に、思わず箒を地面に落とす。
「......さっちゃん?」
「菅原咲月、知ってるでしょ?」
「知ってるけど......」
どこまでバレてるのか分からず、様子見で会話を続ける。
「お昼休みにさっちゃんと会ったんだけど、ぶかぶかのジャージ着てたから名前の刺繍見ちゃったの」
確かにそれは盲点だった。
「違う人って可能性も......」
「確かに違う人だったかも......?」
上手くかわせているみたい。
本当に違う人ならへこむけど。
「俺のじゃなかったらなんかモヤモヤするな......って顔してるね?」
急に顔を覗き込んでくる奥田さんに少しびっくりする。
「わ......いやそんなこと......」
「認めないならさっちゃんに聞いちゃうよ?」
2人は中学生からの友達らしく、結構仲良しの友達なんだとか。
だからこそ、同棲がバレるのはまずい。
「まぁ貸したけど......」
「最初から素直に認めればいいのに」
微笑みながらその場の雰囲気をあたたかくする奥田さんを横目に、照れくさくなって頭を搔く。
「付き合ってるの?」
「......付き合ってないよ。」
きっとアイドルになりたい咲月にとってはこの気持ちは迷惑だから。
そっと喉元で飲み込んだ。
「なんか悲しそうな顔してるよ、君の気持ちはどーなのさ」
「......可愛いと思う。いちばん。」
半分正解、半分は自分を納得させるため。
客観的に見て、邪魔しちゃいけないんだ。
「君は少しめんどくさいね、向こうは意外とそう思ってないかもよ?」
「......それはわかりませんね」
「あ、そうだ。いろはって呼んで?」
「なんでよ」
「いーから」
「......分かったよ、いろは」
教室の扉が少しだけ揺れ、木枯らしに吹かれてもう一度揺れた気がした。
・・・
「......」
私は家に帰ってきて制服から部屋着に着替えた後、○○君のジャージをどうするか悩んでいた。
「今なら着ててもいいよね......」
部屋の中でもぶかぶかジャージを着て、揺れる度に○○の香りがする。
「......」
そのまま雑念を弾き飛ばすかのように、ベッドに飛び込んだ。
○○君が帰ってくるまでスマホをいじっていると、中学生の時からの友達の茉央から連絡が来る。
「いろはが珍しく男の子と楽しく喋っとったわ、委員会中にいいもの見れたわ~」
そのトークと共に写真が送られてきて、私は目を疑った。
いろはと話していたのは○○君で、写真を見る限りでは仲良さそうに喋っている。
「こーやってどきどきしてたのは私だけか......」
普通にふて寝しても面白くないので、○○君の部屋のベッドに行きそのまま目を閉じた。
「咲月、起きて。」
目を覚ますと、○○が部屋着姿で椅子に座っていた。
「○○君......おはよ......」
「なんか元気ない?」
誰のせいなんだ、と言ってやりたいくらいとぼけた顔。
私はそっぽを向いてしまった。
すると後ろからそっと頭にが触れて、撫でられる。
「咲月はいつも頑張っててえらいよ、一番可愛いんだから自信もってね」
「う、うん.....」
恥ずかしくなって借りていた大きめのジャージで顔を隠すと、○○君は思い出したように声をかけてきた。
「あ、そういえばいろはと委員会一緒でそのジャージバレて危なかったんだから」
「いろは......?!」
いきなりいろはを下の名前で呼んで、私の心はまたモヤッとしてしまう。
「いろはと知り合いなんだよね、聞いたよ」
「うん......」
いろはは可愛いし、愛嬌もある。
歌も上手いし、なによりいい子で私よりアイドル向いてるんじゃないかってくらい。
○○君もきっと仲良くしはじめたらいろはの方に行っちゃうのかな。
そう思うと体が勝手に○○君の方へ吸い寄せられ、制服の袖をちょこんと掴んだ。
「○○君は......私単推しだよね?推し変しないよね?」
「え......うん......」
私の心にある気持ちはきっとアイドルとしては良くない、でも今だけは......
「ちょっとごめんね」
すぐに彼の後ろを取り、そのまま抱きしめる。
「さ、さつき......?」
○○君は困惑しているようで、ちょっと顔見てみたいかも。
「私のファン1号をいろはに取られる訳には行かないから」
「わ、わかったから離れて......」
「なんでよ、そんなに私にぎゅーされるのいや?」
○○君の困った感じはかわいいからもっと困らせてみたい。
それにいろはに持っていかれる訳にはいかないし。
「は、恥ずかしいから......」
そう言って彼は部屋を飛び出してしまった。
夜、○○君の部屋をノックする。
「まだ起きてる?」
「うん、起きてるよ」
その返事をもらって中に入ると、ベッドに腰かけた。
「ごめんね。さっきは」
「ううん......俺も逃げちゃってごめん......」
俯く○○君の頭をそっと撫でる。
それに応じてか、場の雰囲気もあたたかくなった。
「私しか見えないような魅力ある女性になるから、一番近くで見ててね?」
「......うん」
「目逸らしちゃだめだよ?」
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「うん」
「よし、じゃあおやすみ。」
そのまま彼の部屋を後にした。
そこから1時間、もう一度彼の部屋に入る。
○○君は心地よさそうに寝ていた。
「しつれいしまーす......。」
そのまま同じベッドに入り、私も意識を手放す。
翌朝、○○君が起きる前に目が覚めた。
「ふふっ、可愛い顔で寝てる」
彼の頭をそっと撫でた後、自分の部屋に戻り2度寝をはじめる。
○○のベッドからは金木犀の香りが顔を覗かせ始めていた......