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幼少期の約束が尾を引いて、転校生に結婚を迫られています。
新学期、クラス替えをすると馴染みのある人とそうでない人が交わる出会いの季節。
どうでもいい始業式を終えて、新たな教室に入り全員が席に座る。
「はぁ......」
ため息は隣のクラスまで飛んでいって、気分と共に頭が落ちる。
「お前、まだ気にしてんのかよ。」
友達の大輝からの声が傷に響く。
とても気になっていた綺麗な子と別のクラスになったと分かってからかなりダメージを受けた。
「池田さんと同じクラスじゃなくたって、きっと話せるって。」
「そんなもんかなぁ......」
またしても机に突っ伏していると、大輝が急に大きい声をあげた。
「あ!そういえば転校生来るらしいぞ!」
「......なんでそんなテンション上がってんの?」
「女子なんだってよ!わんちゃん可愛い子かも知れないだろ!」
期待すればするほど、落胆した時にその転校生に失礼だろう。
期待なんて微塵もせず、朝のホームルームまで机に突っ伏していた。
チャイムが鳴り、先生が朝のホームルームがはじまる。
「おはよう、知ってると思うけど転校生いるからな。」
ドライな先生の紹介から、教室前方の扉が開いた。
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「綺麗......」
男子たちだけでなく女子からも声が漏れるほどの美しさに少しだけ自分も視線も奪われる。
「じゃあ、簡単に自己紹介してくれ。」
「愛知県から来ました!岡本姫奈ですっ!」
なんか心なしかこちらを見ている気がする。
自分の隣の席が空いているからだ、と腑に落ちてそのまま自己紹介を聞いた。
「はい、じゃあ○○の横空いてるからそこな。」
「はい!」
いや、気の所為なんかではなく明らかに岡本さんの視線はこちらを捉えていてズカズカと隣の席へ歩いてくる。
「○○、結婚しよ?」
「は......?」
頭の中で情報が完結せず、結婚という言葉だけが独り歩きする。
「え、ちょっと、え?」
「だから、結婚しよ?約束してたじゃん!」
あたかも当然のように聞く岡本さん。
昔の記憶を思い出しても、結婚しようなんて言うバカはいなかったはず......
考え込んでいると、岡本さんが悲しそうな顔をする。
「ひなのこと......忘れちゃったの......?」
顔の整った転校生悲しませた原因があるわけで当然クラスからは避難の声にさらされる。
「あの......失礼ながら出身は......?」
「愛知だけど......ほんとに覚えてないの......?」
確かに幼少期を母の実家の愛知で過ごしたのは間違いない。
うーん......
「あ!もしかしてひーちゃん?」
幼稚園の時、なんかくっついてきてた子が確かにいた。
それがこんなになるとは......
「そうだよ!○○ー!!」
「うわぁ!」
嬉しくなった姫奈が抱きついてきて、男子からの視線が刺さる。
「ちょ、岡本さん......」
「前みたいにひーちゃんって呼んでよ......!」
「おい、その辺にして授業はじめるぞ。」
一限が担任の授業ということもあり、助けられて席についた。
「○○、教科書見せてよ。」
「いいよ。」
ひーちゃんと机をくっつけ、同じ現代文の教科書を見る。
「近いね......」
顔を近づけて、髪を耳にかけるひーちゃん。
正直、とても色っぽい。
「近いよ、ひ、ひーちゃん。」
「えへへ~」
普通の男子高校生なら、幼少期に婚約した美人が迫ってきてたら妥協してしまうだろう。
でも!俺には池田さんがいる!
その心持ちでなんとか授業を耐えきり昼休みを迎えた。
「○○!お昼一緒に食べよ?」
「いや、大輝に聞かないと......」
「いや、俺は他と食べてくるよ、じゃあな!」
ここを回避する手段が無いので、大人しく岡本さんとご飯を食べることに。
「屋上!ひな屋上行きたい!」
「分かったよ......」
腕に抱きつかれながら廊下を歩くと、周囲の視線が突き刺さる。
隣のクラスを通る時、偶然にも池田さんと目が合った。
テンションはむちゃくちゃ上がったが、池田さんはなんとも言えない顔でこちらを見る。
よくよく自分の状況を思い返すと、顔が青ざめていくのが分かった。
「はぁ......」
重たい足とひーちゃんを引きずりながら屋上の扉を開けた。
「食べよ!」
「うん......」
弁当を取りだし、座って食べようとするとひーちゃんが箸を突き出してくる。
「はい、あーん。」
箸には卵焼きが掴まれていて、明らかに食べさせようとしている。
「えっと......」
「食べないの?」
ここで変なこと言っても、悪い方向に転がる予感しかしないので、仕方なく食べることにした。
「あむっ。」
「どう......?」
「美味しいよ。」
そう言うとひーちゃんが顔を抑えて泣き出した。
「え、なんかだめなこと言ったかな......?」
「いや......○○のためにこれまで花嫁修業してきたから嬉しくて......」
ここまで思ってくれてるのを無下にする訳にもいかず、とりあえず落ち着くまで胸を貸してあげることにした。
「ほら、泣いてるとこ誰かに見られたくないでしょ?おいで。」
「ん......好き......」
「落ち着いた?」
「うん......」
落ち着いたみたいで、少し距離をとった。
「卵焼き以外も食べる......?」
「いいの?」
「うん!」
そうしてひーちゃんのお弁当の具材を1種類ずつ食べ進める。
「どれもほんとに美味しい!毎日食べても飽きないと思うよ。」
「もしかして......結婚してくれる気になった......?」
ここまで思ってくれてる美人が居たら、思いにこたえない訳には行かないよな......
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って、普通の人なら思うはずだが自分はそうでは無い。
「いや、結婚するなら池田さんがいい。」
「は?!ちょっと誰よその女!!」
取り乱すひーちゃんを他所に、池田さんの良さを語る。
「まず可愛いし綺麗。もう3次元かどうか疑うレベルだしミステリアスな雰囲気も全部良い。」
「......」
「ひーちゃん......?」
ぷるぷる震えていながらも、その場を動かないひーちゃん。
その間に予鈴が鳴った。
「そろそろ戻ろ?」
立って少し歩いても、ひーちゃんはまだ動かない。
すると突如こちらに向かって走り出した。
「○○ー!!!!ひなの良さも教えてあげるからおいでー!!!」
「やばっ!俺は池田さん一筋なの!!」
そうお互いに叫びながらの逃走劇。
2人の足音と周りの音は青春の空にこだまする。
この春は忘れられない春になりそうだ......。