卒業式でも怒られました......
春を感じるこの季節。
茉央と俺は卒業式の日の朝だというのに布団を取り合っていた。
「おい、寒いって。」
「まおやって布団でぬくぬくしたいねん。」
「ったく......」
名残惜しいけどひと足先に布団から出て2人分の朝食を用意する。
匂いにつられて茉央も食卓へやってきた。
「朝一緒に食べるのも久しぶりやな、最近寂しかってん」
「お互い忙しかったからね。」
「忙しかったのは知っとるけど、美空とかあーやとかに浮気してたくせに。」
「な、なんのことかな......ははは......」
「次やったら......わかるな?」
「ひぃ......」
俺がびびっている間に茉央はパンをかじり始めた。
「うまぁ......」
「口にジャムついてるよ?」
「取って~」
朝から甘えんぼを出しやがって。
ちょっと強めに口周りをティッシュでぐりぐり。
「いたいわ!」
「はい、可愛くなったよ。」
「あほ......」
そんな甘ったるい時間を過ごし、お互いに準備に取り掛かる。
自分の準備を終えて、リビングで朝の情報番組の録画を見返していると眉毛を45°にして茉央がこちらにやってきた。
「前髪決まらへん......」
「アイロン貸して?茉央もメイク整えながらでいいから」
メイクさんにいじられながら教わったやり方で茉央の前髪を整える。
茉央が惚気けたせいなのに、2人とも顔真っ赤にして笑われたっけ。
「はい、これでどう?」
「さすがまおの彼氏や、ご褒美にちゅーしたんで?」
「ばか、リップ塗ったばっかりだろ。」
弱めに茉央を小突いた所で時計が目に入る。
「そろそろ行こ?」
「せやな。」
「今日、パーティやるんだっけ?」
「うん、ここでやるんやけど飾り付けとかしたい!」
「え......俺らの家?」
「あかんの?」
「いいけど......飾り付けする時間あるかな」
「そんな時のためにスペシャリストに声をかけておいたから安心したまえ、○○よ。」
ドヤ顔の主張が激しすぎる。
なんか、なんかムカつく。
ぺしっという効果音が出るくらい弱めに叩く。
「いてっ、なんやねん!」
騒ぐ茉央をなだめながら通学路を歩く。
「なぁ、くっついたらあかん?」
「すぐ着くよ?」
「最近一緒に学校とか行けてなかったんやもん......」
拗ねたら後で怖いしな......
「ん。」
手を差し出す○○。
しかし、それを無視して腕に抱きつく茉央。
「外なんだけど......」
「ふへへ、れっつごー!!」
卒業式を控えているとは思えない俺たち。
茉央のあたたかさを右腕に感じながら教室にたどり着いた。
教室を開けると咲月といろはがひと足先にお喋りをはじめている。
「あ、バカップル来た!」
「おはよ!いろは!さちこ!」
「おはよ、茉央、それに○○君も!」
「バカップルって言うのやめて、違うから、多分。」
いろはちゃんならまだしも咲月ちゃんに言われるのはちょっとムカつくから反撃。
「てか、咲月ちゃんは卒業できるの?」
「はー?!出来るし!!ギリギリだし!!」
「さっちゃん、落ち着いて?」
「いろは?落ち着けるわけないでしょ!」
「まぁさっちゃんは天才やから、ある意味。」
「卒業するのに......」
教室でこんなくだらない話をするのも最後。
精一杯時間が来るまで青春を謳歌する。
式自体はすんなり終わって、写真を撮ったり卒アルを書いたりする時間。
式は特に何も無かったけど、1組で出席番号1番の茉央の卒業証書が全部読まれた所ではみんな我慢できなくて笑ってしまった。
ずるいじゃん、だって。
「○○、撮ろ?」
「うん。」
茉央と撮る写真も久しぶり。
なんか嬉しい。
「○○君、私とも撮ろ?」
「私も!」
「む、さっちゃんにいろは。」
「いいよ、撮ろっか。」
一人一人と卒業証書片手に写真を撮ってみんなでも撮って。
その度に思い出が溢れる。
出会いは急に話しかけられたなとか。
サインボール顔面に当てられたなとか。
今思えば理不尽なことばっかりしてくる茉央だったけどパズルみたいに隣にいるとしっくりくる。
「そろそろ家行く?」
「え、○○君茉央から聞いてないの?」
「茉央?」
「あー、言い忘れとったけどこれから海行くで!」
「海!?」
「そうそう、私たちと言えば青春でしょ?」
「青春といえば海!」
なるほど、とはならないけど今日はそれも悪くない。
「よし、じゃあ行くか!」
「おー!!!」
・・・
「綺麗......」
「海を見る茉央の横顔が1番綺麗だよ......」
「咲月ちゃん、心の中読むのやめて。」
悪ふざけ好きだよな咲月ちゃん。
とりあえずちょっぷ。
「いたっ、やったな~?」
「ちょっ!?水かけんなよ!」
「へへ~」
「さっちゃんとイチャイチャしてる......」
どうやらお姫様が拗ねちゃったみたい。
「茉央もおいでよ、いろはちゃんも。」
「とりゃ!」
意外にもノリノリで俺に水をかけてくるいろはちゃん。
「ちょっ?!いろはちゃん?!」
「私もバカップル見せられてムカついてたもん......!」
「ほら、茉央もおいでよ!」
「くらえ○○~!!」
「なんで俺だけ?!」
そこから水を掛け合ったり、写真を撮ったり、日が傾き出すまで青春を浴びた俺たち。
帰りの電車ではすっかりみんな寝息をたてていて着く頃にはぐっすり。
前の駅で3人を起こして、家までの道を歩く。
・・・
「ただいまー!!!」
「茉央元気すぎる......」
「さっき寝たもん!」
「私も!」
「私はまだ眠いかな......」
いろはだけが頼りだというのを再確認し、リビングへ向かうと装飾がされており、書き置きとインスタントカメラが置いてあった。
「なにこれ?」
「言ったやん、スペシャリストに頼んだって!」
「書き置きは?」
ペラっとめくるとそこには
けるべろす参上!!
と書かれていた。
「これ誰?」
茉央は笑ってるし、咲月ちゃんといろはも笑っている。
「ねぇ、誰?」
「横に置いてあるカメラの下に置いてあるチェキ見てみなよ。」
そこには中西さん、池田さん、岡本さんが変なポーズで写っていてためしどり!とマジックで書いてあった。
「あの人たち、ケルベロスなの?」
「なんか、らしいよ。」
よくわかんない。
あの人たちの考えてそうなことはわかんないからなぁ......
「とにかく!」
「楽しもー!!」
買ってきたご飯を広げ、食べ進める俺たち。
「はい、○○あーん。」
「ん!うまい!」
「せやろ~」
「ねぇ、イチャイチャ禁止!」
「そーだそーだ!」
そんなこんなでご飯も食べて、騒ぐだけ騒いで。
学校には行けないくらい忙しい時もあったけど、4人揃えば青春を感じれるこの空気感を大切にしたい。
みんな疲れて気づいたら寝てしまっていて、机に突っ伏している咲月、どこか品のある寝方をしてるいろは、ソファを占領して寝ている茉央。
一人一人をいつもの寝室の広めのベッドに運び込む。
みんな軽すぎてびっくりしたけど。
自分の部屋に一応あるチープなベッドに向かうとチェキと書き置きが1枚。
チェキには中西さんが写っていて可愛らしいポーズをしている。
書き置きには、
誕生日プレゼントありがとう。
仲良くしてくださると嬉しいです。
なかにしは待ってます。
追記
チェキは池田と岡本がどうしてもと言うので仕方なく。
茉央だけじゃなくて私の方もたまには見てね。
あるの
と書かれている。
「......」
お話したことが無いだけで歌の上手さ、スタッフ対応など尊敬する部分が多くあっただけにびっくりだ。
「さすがに浮気は......疑われないか。」
メンバーなどからの溜まっていた祝福のメッセージを返すと、茉央が部屋に入ってきた。
慌てて先程のものを隠す。
「どうしたの?」
「起きたらおらんくて......」
「一緒に寝ようや......」
「うん、シングルベッドだけど大丈夫?」
「くっつけば大丈夫やろ......」
「そっか......よいしょ、おいで?」
「うん......」
くっつくとすぐに寝る茉央。
「いつもありがとね。」
茉央の頭をそっと撫でて、俺も眠りについた。
微かに茉央の口角が上がっていた気がしたけど、そんなこと考えてる余裕もなかった。
「○○こそいつも支えてくれてありがとうな。」
「大好きやで......」
リビングの机の上には今日の思い出達が光り輝いている。
俺たちの青春はまだまだ続きそうだ......
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