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割と美人な同居人と海に行きました。
登校する直前の朝。
バタバタしながら準備をしていると、浮かない顔の咲月が目に入る。
「咲月?どうかした?」
「ううん......なんでもない......!」
長い付き合いでは無いものの、その笑顔がハリボテだということはすぐにわかった。
「咲月、忘れ物してない?」
「え......あ、お弁当!」
明らかに怪しい。
どう考えてもいつも通りとは程遠い。
「咲月、なんかあった?」
「......なんにもないよ?ほら、早く行かないと遅刻しちゃうよ!」
玄関の扉に手をかけた咲月の手を掴み、こちらに引き寄せる。
「今日はさ、サボっちゃおっか。」
「え......?」
「よし、ついてきて!」
咲月の手を引き、駅へと向かう。
いつもと違う駅のホームへ進み、学校とは逆方向の電車に乗った。
「ねぇ、どこに向かってるの?」
「着くまでは内緒。」
電車に揺られて少し経ったところで空いた席に座ると、隣から可愛い欠伸が見えた。
「ふーん......ふぁ......」
「眠いなら寝ててもいいよ、肩で良ければ」
「○○君が1人になっちゃうから寝ないよ......」
明らかに船を漕ぎだす寸前で、頭が上下に揺れている。
こちら側でない方に倒れられても困るので咲月の頭を優しくこちら側に倒すと、そのまま眠りについた。
「やっぱ可愛いよな......」
・・・
「咲月、着いたよ。」
「んぅ......」
○○君に優しく起こされて目を覚ますと、潮の香りを正面に受けた。
「わ.....!」
「ちょっと歩こっか」
○○君に手首を引かれ、ゆっくりと歩いていく。
○○君は私に気を使って手のひらに触れないようにしているのかもしれない。
○○君は優しいから。
それでも、勇気を出して○○君の手を握ってみる。
「......もうちょっとで着くよ」
こちらを振り向いてはくれないものの、しっかりと握り返された手とほんのり赤い耳に嬉しくなった。
「ふふっ」
「なに。」
「なーんにもっ」
平日の朝ということもあって、あまり人もおらず2人だけの世界を進んでいく。
細い道に入っていき、お互いの歩幅を合わせて進んでいくと綺麗な海が視界全体に広がった。
「わぁ......」
「あの辺に一旦座ろっか」
近く砂浜にレジャーシートを引き、2人並んで腰掛ける。
「ここ、いい所だね」
「うん、考え事があったりした時に来るんだよね」
○○君はきっと私のことを心配してくれているんだろうな。
「話したくなったら話してくれればいいから......それまでは横にいるよ」
優しく私の頭を撫でて微笑んだ○○君に、私は少しもたれかかった。
「ちょっとだけ......このままがいいな」
お日様も少し仕事を雲に邪魔されて、ちょうどいい気温。
気がつくと短針が1周するくらい○○君にくっついていた。
「私ね......考えすぎてたみたい......」
○○君から離れて私は話し始めると、○○君は優しく私の方へくっついてきた。
「ふふっ......」
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「なに笑ってるの」
「なんでもないよ」
「私と同い年とか、年下の子がアイドルになって頑張ってるのとか見てさ。私には眩しすぎるなーって思っちゃって。」
気持ちを明確に言葉にするだけで、キュッと締め付けられ涙腺が刺激される。
「......」
○○君の制服を私の涙が濡らす寸前に、○○君は立ち上がって靴下を脱ぎ始めた。
「咲月も靴下脱いで、ほらはやく!」
言われるがままに靴下を脱ぐと、ズボンを捲った○○君が既に海に入ろうとしていた。
そしてすかさず水をかけてきた。
「わっ!」
「せっかく来たんだし、楽しまないと!」
「......やったな~!」
「ちょっと!強いって!」
海で遊び終えてまたレジャーシートへ戻って来ると、咲月の顔はすっかり明るくなっていた。
「咲月にはさ......咲月にしかないいい所があるから......」
「咲月の笑顔......すごい好き......」
顔を逸らしながら言う○○に、こちらまで照れてしまう。
「あ、ありがと......」
二人の間にはむず痒い、青春の空気感が漂っていた。
レジャーシートを畳んで駅の方へと歩くと、アイスのお店が営業を開始している。
それとなくつられて2人ともそっちの方へ向かっていた。
「咲月何味がいい?」
「うーん......桃にしようかな。○○君は?」
「オレンジにするよ。買ってくるね。」
そう言い残してレジの方へ向かってしまった。
「あ、お金......」
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○○君がアイスを受け取ってこっちに歩いてくる。
「はい、これ。」
「ありがと、お金渡すよ。」
「いや、いいよ。かっこつけさせて。」
○○君はそう言ってアイスを食べ始めた。
申し訳なさと罪悪感を感じてしまう。
そんな私の表情を察したのか、○○君はひとつ提案してきた。
「じゃあ帰りの電車は起きてて貰おっかな?」
「そんなのでいいの.....?」
「うん。うまっ!」
本当に優しい人。
出会った時からずっと。
はじめは男の子と住むなんて心臓バクバクだったけど、今は落ち着く存在にまでなった。
「○○君、やっぱり申し訳ないからひと口あげるよ?」
「さ、さつき......?」
「ほら、あーん。」
「あ、あーん......」
○○君にひと口あげることで、少しだけ罪悪感が減った気がする。
けれどそれでも足りない。
頭を悩ませていると、○○君は顔を赤くしてしまっていた。
気温が高くないとはいえ、熱中症のリスクもある。
「○○君?!大丈夫?!熱中症とか?!」
「その......関節キス......」
その言葉を聞いた瞬間、私の顔は音を立てて爆発しものの数秒で耳まで真っ赤になった。
「ごめんなさい......」
「ううん......」
少し気まずい空気感の中、少し早足でアイスを食べ終えた。
駅へ向かうと、朝は注視していなかったためか気が付かなかった笹がある。
まだ2枚ほどの短冊しか括られてなくて、笹は原型を保っていた。
「今日七夕か、なんか書いていこうよ。」
「うん、私も書きたい......!」
2人ともお互いに見えないように短冊を書いていく。
「よし、書けた。」
「私も、書けたよ。」
○○君から聞かれて、はじめは言うのを躊躇った。
それでも、今の私の気持ちを見て欲しい。
「なんて書いたの?」
「人に夢を見せるアイドルになりたい。って......」
少し恥ずかしくなって、髪の毛で顔を隠した。
「凄いいいと思う。なれるよ、咲月なら。」
「そ、そういう○○君はなんて書いたの?」
話題から逃げるように○○君に話を振ると、バツが悪そうにしている。
「な、ないしょ......」
内緒にされると気になってしまうのが人間という生き物。
私は○○君の隙をついて短冊を確認した。
「あ、ちょっと......!」
「え......」
そこには 咲月の願いが叶いますように。と書かれていた。
その文字を見ただけで心の奥底がキュンとして、あったかい気持ちが溢れ出す。
「えーっと......」
私は目を泳がせる○○君に近づき、こちらを向かせた。
「ありがと......私、頑張るから見ててね。」
「うん......」
帰りの電車では、寝ている○○の頭を肩に乗せて帰路を進んだ。
可愛い寝顔にこちらまで癒された。
・・・
「ただいま」
「ただいまー」
家に帰って手を洗い、部屋着に着替えようとした所で咲月に呼び止められる。
「○○君!」
「なに?」
咲月はおもむろに近づいてきて少し背伸びし、そのままほっぺに軽く口付けしてきた。
「は......?!」
「ちょっと恥ずかしかったけど......今日のお礼だから......ありがと!」
恥ずかしさが残る笑顔を残して、咲月は自室へと戻って行った。
ほっぺたからは、少しだけ桃の香りが微かに香っていた.....
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to be continued......