◆秋の七草~藤袴の香り
「春の七草」は、これから始まる一年の無病息災を祈念して、お正月明けに七草粥(ななくさがゆ)としていただくことから、ご存じの方も多いと思いますが、秋にも「秋の七草」と呼ばれる草花があります。
秋の七草とは──萩(ハギ)、尾花(ススキ)、葛花(クズ)、撫子(または瞿麦:ナデシコ)、女郎花(または姫部志:オミナエシ)、藤袴(フジバカマ)、桔梗(キキョウ)の七草を指し、その由来は古く、『万葉集』に所収されている山上憶良(やまのうえのおくら)が詠んだ歌にちなんでいるということです。
秋の七草は、春の七草のように粥にして食べたりすることはありませんが、山上憶良のように、当時の人は、厳しい夏の暑さが去った秋のこの時期に、月の光を愛でながら秋の夜長を楽しんでいたのではないでしょうか。
秋の七草の多くは、色とりどりの可憐な花をつけますが、その中でも、フジバカマは、花だけでなくその香りでも、秋の訪れを知らせてくれます。
フジバカマは、8~10月頃に白やピンク色の花を咲かせ、以前は空き地などに多く自生していましたが、いつしか数が減って、現在では絶滅危惧種にまで指定されているほどで、京都などでは、原種のフジバカマを保護する活動も行われています。
フジバカマは、その花がほのかに藤色で、花の形が袴のように見えることから名づけられたそうです。葉を乾燥させると桜餅の葉のような香りがするのが特徴とされ、別名「香水蘭」「蘭草」とも呼ばれ、ポプリや芳香剤としても使用されてきました。
このフジバカマの香りには、クマリン系と呼ばれる成分が含まれており、この香りは桜の葉や、マメ科の植物、トンカビーンズの種子にもふくまれており、柔らかく控えめで、みずみずしい甘さの香りが特徴です。
クマリンには抗酸化作用が認められ、血行を促進したり、身体に溜まった余分な水分や老廃物の排出に役立つといわれています。そのほかにも、抗菌・抗ウイルス、さらにはホルモンバランスの調整にも有効といわれています。
ただし、長期間多量に使い続けると、肝臓や腎臓に負担がかかることがあり、紫外線に反応することから、肌に成分を塗布したまま日光にあたると、皮膚のトラブルの原因になる恐れがあるので、注意が必要です。
アロマテラピーで使用する精油としても、製造されていますが、流通量が多くないので、手に入り難く、高価なことが多いのが現状です。
それでも、上記のような効能もあるので、使用にあたっての注意事項を守りつつ、ぜひアロマテラピーで活用したい和精油の一つではあります。そして、何より、私たち日本人にとっても、この時期に暮らしの中で体験したい、懐かしい秋の香りに違いありません。
もし、野山で、また植物園や園芸店などで、フジバカマを見つけたら、その可憐な花を愛でるとともに、そっとその香りを嗅いでみて下さい。
秋の野原の香りを感じ、季節の移り変わりを感じられるかもしれません。