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【連載小説】プラネット・ナイン|12

第12話・音のない轟音

「…思ったより早かったな…。」

ここに居たままでは、攻撃の割を食う。
そう判断し、ガランは銃を下ろす。
早急に乗ってきた戦闘機に戻り、軍の仲間と合流しなくては。

「おい、お前もここに居たら死ぬ。私が奪わなかった命を大切にしたいと思うなら、早く逃げろ。」

マレニアにそう告げ、ガランは来た道を戻り始める。
リボルバーを腰のホルダーに収める音。
それを聞いたマレニアは、壁に手を付けたまま恐る恐るガランを振り返った。

『…待ってください。』

響いていた足音が、止まる。

「…なんだ。」

ガランは体の向きを変えない。
無機質な言葉だけを返し、マレニアの行動を待つ。
その目には映らずとも、彼女が壁につけていた腕の力で体を起こし、こちらへよろよろと歩いてくる姿は容易に想像が付く。

不規則に響く足音が、自らの真横にまで到達した。

『…これを。』

マレニアが手渡してきたのは、小さなチップ。
ガランの左耳に装着されている端末に、丁度入るサイズである。

「…。」

それを受け取ると、ガランは何も言わずにチップを端末に読み込ませた。
敵国となる場所のど真ん中で、その敵国の首長から受け取ったチップを、である。

「…命を、大切にすることだ。」

それが自分のものであれ、他人のものであれ。
いよいよ地球軍の攻撃が始まろうとしている。
その場に立ち尽くすマレニアを置いて、ガランは暗い路地の向こうへと消えていった。
 





「艦隊長、帰還されました!!!」

戦闘機に乗ったガランが、第一艦隊一番艦へと帰還。

「みんな、すまない。総裁を守ることはできなかった。」

艦隊員の誰もが思う。
『一番辛いのはあなたでしょうに…』と。
だが、ガランの目や顔つきに、悲壮感は現れてはいなかった。

「ならば、せめて地球は守ろうではないか。」

そう。

「総員に告ぐ!!!」

これから始まるのは攻撃戦であるが、同時に防衛戦でもあるのだ。

「我ら地球連合の興廃この一戦にあり。各員一層奮励努力せよ…!!!」



 

2677年2月2日、地球標準時20時27分。
惑星アテナ外殻内。
地球連合宇宙軍第一主力艦隊は、惑星アテナ軍主力艦隊(仮)と戦闘状態に入る。

ガランの指令でガラン本人よりも一足早くアテナの地表を離れ、宇宙空間に移動していた一番艦。
外殻外にて待機していた二番・三番艦の砲撃によりアテナの外殻を打ち破り、外殻内にて艦隊全艦が合流する。

「二~四番艦は本艦右舷、五~七番艦は左舷にて本艦を中心とする弓系陣を組め。」

『Yes, sir.』

弓形陣とはその名の通り、艦を弓の弧状に並べた陣形を指す。
古代の艦隊戦で多く見られ、大砲が主力となってからは姿を消していた陣形である。
しかし、この宇宙での戦闘が行われるようになった現代では艦が前後左右、そして上下にも自由に動くことができるこの陣形が多く取り入れられるようになった。

海上で行われる通常の艦隊戦と異なり、宇宙空間での戦闘は三次元的な感覚の鋭さが求められる。

『レーダーに複数の敵艦反応アリ!アテナの艦隊と思われます!!!』

「了解。各艦主砲装填を急ぐと共に、四番・七番艦対宙魚雷発射用意。」

この戦闘の意義は、どれだけ相手側の戦力を削げるかにかかっている。
お互いが光速で移動できると知っている今、両惑星の距離はあまりにも近すぎる。

おまけに、現在地球側に光速を超えて情報やモノを伝達する手段はない。
一度地球に戻ってしまえば、敵襲の情報が届くのはアテナ軍が襲来した後になってしまう。
地球近辺の領域に、全軍を配置して警備する必要がある。

できることなら、ここで決着を付けておきたい。

『主砲有効射程圏内に入りました!』

しかし、相手も相手。
技術力は数段上だということが分かっている。
ガランには、勝てるビジョンは一つしか浮かんでいなかった。

「どんなに技術を鍛え上げても、モノの硬さには限度がある。」

そして、地球に存在するどんな物体も破壊できる力が、この艦には備わっている。

「先に、相手に当てたほうが勝つ。」

先手必勝。
正確な射撃と、その速さを両方維持するのだ。

「弾薬庫を狙え。この初撃に、地球の運命がかかっている。」

各艦の主砲が、唸りを上げて動き出す。

辺りは暗く、雨天時の街灯のような人工太陽の灯りのみが照らす。
外殻に囲まれた周囲には、星の灯りすら届かない。
本来の太陽も、惑星たちの反射光も、太陽系外の恒星たちの輝きも。
その全てが無い中、アテナの人々は5000年を過ごした。

だが。

だから何だというのか。
我々にも、戦う理由がある。
地球に暮らす全ての人々、その命と未来がこの艦隊に乗っているのだ。

さあ、明らかにしようじゃないか。
あなたたちの5000年と、我々の悠久の未来。
そのどちらが重く、勝ち取るに値するのか。

敵艦がレーダーに映ってから、丁度1分が経過しようとしている。

57。
58。
…。

「…撃てぇッ!!!」

大気の無い宇宙空間に、音のない轟音が響いた。


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