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【ネタバレ】アマテ・ユズリハは本当に『狂犬』なのか?【機動戦士Gundam GQuuuuuuX】

 先日、ジークアクスを見てきました。
 物凄いものを見たとしか言いようがない。一ガンダム好きとして、大いに楽しませて頂きました。
 シャリア・ブルがこれほどまでにフィーチャーされる日が来るなんて誰が予想できるんだよ。

 宇宙世紀ifストーリーも良かったのですが、それ以上に主人公のマチュです。マチュのあまりの可愛さで完全に脳を灼かれてきました。
 多くのガンダム好きを唸らせたであろう序盤のインパクトに負けないくらい、非常に可愛く魅力的な主人公。ここ数日マジで彼女のことが頭から離れません(仕事しろ)
 というわけで、マチュについて書きます。
 普通にジークアクス全体の感想でも良かったのですが、そういうのは愛にあふれた素晴らしい記事がもういっぱいあるので……私は個人的に気になっていることについて、的を絞ってしたためることにしました。
 なお、パンフは読んでいません。二周目特典のデザインワークスは入手しています。


マチュがやたらと『狂犬』呼ばわりされる件について

 主人公マチュを現時点で評価するにあたって、SNSなどでよく見かけるワードがあります。それが『狂犬』です。
 狂犬――凶暴な気性で、気に入らない・納得いかないものや相手には妥協することなく、相手の立場が上だろうが関係無く誰彼構わず挑んで噛み付いていく人物――そんなイメージでしょうか。
 一緒に映画見た私の友人のマチュ評も「戦闘狂」という、通底する匂いを感じるものでした。 
 お嬢様学校に通う普通の女子高生であるはずの彼女を、そんなイメージたらしめる要因とは何なのか。

『意に反すれば相手が目上の人間であろうと抵抗する反骨精神、一介の女子高生とは思えないほど苛烈な決断力、迷いなく即座に実行できる行動力、それを実現するための高い身体能力』

  こんなところでしょうか。
 これらの要素を鶴巻監督始めスタッフ陣がダイナミックに描写した結果、劇場の巨大スクリーンから伝わる圧も相まって、彼女を狂犬とも呼べるようなエネルギッシュな少女だと感じさせたのではないでしょうか。体格がちっちゃいことも相まって、苛烈さがより際立ってたようにも思います。

 ですが正直、私はこの『狂犬』という表現がどうしても腑に落ちない。というのも、私が映画で見たマチュの印象が
『もっとヤバい娘だと思ったら意外とそうでもなかった』
『不穏な一面があるのは確かだけど、普通に女子高生してる』

 という具合だったからです。それこそ私も映画見る前は、狂犬のような激しいクセのある女の子なんだろうと想定していました。
 詳しく見ていきましょう。

マチュの一般女子高生離れした行動の数々

ニャアンへの弁償要求

 マチュは改札でニャアンの逃走劇に巻き込まれ、スマホを破損しました。どさくさで、彼女の持ち物である謎の装置を手に入れてしまいます。
 こんなのは警察に届けるなりすればいいことです。が、マチュはニャアンが装置を取り返しに来ることを予測し、彼女をワナに嵌めて待ち伏せし、真っ向から対峙しました。割れたスマホを弁償させるためだけに。
 警察に追われるような人間相手に、そこまでするか?という恐れを知らぬ手口。仮にニャアンが拳銃でも持ってたらどうする気だったのか。それでも身体能力で躊躇いなく圧倒しそうな軽業ぶりでしたけども。

軍警相手にモビルスーツ戦を挑み『あいつらをやっつける!』

 モビルスーツ搭乗経験なんて皆無であろう女子高生が、いきなり他人のザクを奪って動かして命懸けの戦闘を仕掛ける……正気の沙汰ではありません。
 加えて「あっちの方が強そう」というあんまりな理由でジークアクスに目をつけ、戦闘の真っ只中にザクのコクピットを飛び出して生身で走り抜けガンダム強奪。シローやガロードでも多分そこまでやらんわ。
 普通なら怯えて逃げる、下手したらマジで死ぬ状況で外に出て戦闘続行を試みる……こんな女子高生いてたまるか!と言いたくなる凄まじいバイタリティ。
 で、なんとか命懸けのバトルを終えたと思ったら、あとは関係無しとばかりに「門限だから帰りまーす」って、まるで塾帰りのような気楽さ。
 家ではフツーに夕食を食べて、母には何があったかも告げず、何気ない会話を交わす。
 ただの女子高生が、初めて乗った(と思われる)モビルスーツで命のやりとりをした直後ですよ。食事も喉を通るかどうか……どうしてそんなにいつも通り平静でいられるんだ?

『まともな奴ならやらない』クランバトルへの参加

 マチュはスマホ代、シュウジはシンプルに無一文――おカネで利害が一致したので、ニャアンを巻き込んでクランバトルに参加する。
 『まともな奴ならやらない』と言われる、下手したら逮捕されるどころか命も危ないバトルにカネ目当てで参戦。
 やはり並大抵の女子高生の行動力ではない……。

問題児マチュ

 これらの行動以前に、マチュは問題児の節がありますね。
 特に分かりやすい、逆立ちプール飛び込みのシーン。普通に危ない。1人でやってるならまだしも、下から多数の生徒が見ている。
 そんな衆人環視の前で普通に逆立ちしてぱんつ丸出し。ボックスショーツとはいえ、スパッツでも見せパンでもないガチの下着。
 正直に言うと、私が『ジークアクス』を早く見たかった理由の半分くらいはこのマチュ逆立ちシーンの真実を確認するためでした(余談)
 この時、ガヤで教師が「危ないからやめなさい」的なことを言っています。マチュは逆立ちのまま物思いにふけり、おそらく聞いてすらいません。見ている生徒が「ぱんつ見えてるよ」と困惑の声を上げても、一切気にする様子無し。
 独白で淡々とコロニーの現状と自身の悶々とした胸の内を述懐し、着衣状態で飛び込みを決める身体能力の高さを見せつける。彼女のアイデンティティを描写する秀逸なワンシーンだと思います。
 あまりに動じていないことから、このような奇行は彼女にとって日常茶飯事なのでしょう。偽りの大地と見せかけの重力の中で暮らさざるを得ない閉塞感に満ち満ちた日常、それを打ち破って『どこか』へ飛び立ちたい……反骨精神がこの逆立ちからも垣間見えます。社会に迎合しきった教師の言葉程度でそれが止められるはずもなく。


……とまぁ、彼女の不穏な部分を色々論ってみましたが、実際のところはどうなんでしょうか。


軍警との戦い、本当のところは?

 マチュが軍警に戦いを仕掛けた大きな理由は、『義憤に駆られたから』ですよね。
 軍警のザクは治安維持という大義名分を笠に着て、難民の住処を破壊したり、とにかく横暴に振る舞いました。まだ戦争の遺恨も癒えていない0085年です、このような軋轢はそこら中であるのでしょう。難民の一人であるニャアンも被差別的な扱いを目の当たりにし、悲痛に顔をゆがめました。
 この時点でマチュにしてみれば、ニャアンはスマホ壊した闇バイターとはいえ根っからの悪い子じゃないと既に分かっている。クライアントに会うのを躊躇する彼女の世話まで焼いてあげる程度には、悪しからず思っています。
 マチュもまた、理不尽に上から抑えつけるような暴力にさらされ、ハラワタが煮えくり返る思いがしたのでしょう。理由はどうであれ、相手が国家権力であれ、子供より立場が上の大人であれ、こんな暴挙を許して良いはずが無い。この怒りをぶつけてやりたい! でも相手は体高20メートル近い機械の巨人。それだけの力が自分にもあれば…………

 あ る や ん け 。

 彼女のすぐそばに、モビルスーツという巨大な力。ここで正義の怒りをぶつけろガンダム(ザク)を迷いなく実行できるのがマチュという主人公だったわけですね(ま、彼女は『正義』なんてモノにはこれっぽっちも興味無いんだろーなとは思いますけど)
 同時に、ガンダムという圧倒的な力を手にしたことによる“閉塞の打破”を予感させる高ぶりもあったとは思います。どちらにせよ、ただナメられたからブチキレてやり返した鎌倉スピリッツとかそんな単純な話ではないでしょう。
 この義憤をして狂犬と呼ぶのはいかがなものだろうか。

「何だかよく分からないけど分かった!」

 というのは、まずオメガサイコミュを通じてジークアクスの動かし方が分かったということでしょう。あとは、ニュータイプ能力を介してニャアン等その場の人々の様々な想念を受け取ったか。それらはゴチャゴチャして『何だかよく分からない』けど、『(いま自分がすべきことが)何かわかった!』という感じか。
 モビルスーツ戦闘に関してはド素人、ジークアクス&オメガサイコミュの性能頼りとはいえ、どうにか必死に勝とうとする姿は勇ましい。マニュアル片手にザクを撃退したアムロ始め、歴代ガンダムパイロット達に勝るとも劣らない主人公ぶりでした。

ちゃんと女子高生やってる

 マチュ本人からすれば平常運転な奇行の数々、命がけのモビルスーツ戦をこなしてもケロッとしている胆力、他人を巻き込んで非合法バトルに参加するしたたかさ。
 一方で、教室では普通にクラスメイトから話しかけられています。特に距離を取られているような雰囲気はありません。ごく普通の女子高生らしいやり取りです。
 しかもデザインワークスによれば、『体育の時間のマチュのファンは多い』とのこと。やはり身体能力の高さは間違いないし、ここの髪を留めたマチュはやたらカッコいいです。モテても不思議ではない。

デザインワークス6Pより。髪留めるだけでだいぶ印象変わる

(マチュが『女子校の王子』みたいにSNSで言われてるのは、このイラストからの拡大解釈なんですかね。他にソースがあるなら知りたい)

 荒事が絡まない平時は、非常に表情豊かでかわいらしい女の子なのは劇中で見られる通りです。キービジュアルの股開き座りやアートワークスに載っている淑やかさのカケラも無いあぐら、あのジト目のインパクトなどが凄いので印象が上書きされそうですが……ちょっとカッコイイ謎の男子に匂い嗅がれたら赤面する程度には乙女心もあります。

 先述した逆立ちの一幕とて、 思いっきり青春してるじゃないですか。
 誰しも覚えがあるはずです。子供の手が届く範囲でしかない、狭い環境から飛び出ていきたい。どこかはわからないけど『どこか』に行きたい、なのに子供の身ではそれが叶わないもどかしさ。
 マチュにとっての『どこか』は、遠心力から解き放たれた本物の宇宙なのかもしれない。くらげが泳いでる本物の海なのかもしれない(彼女はくらげグッズ好き)
 彼女の奇行の数々の根っこがそこにあるとすれば、思春期特有の等身大の悩みを抱えた、あまりにも普通の女の子していると言わざるを得ない。

『自分』を持った少女

 軍警との戦い後に平然としてたり、大勢にぱんつ見られても全く気にしてなかったり、有名人シャアの姿を見て「変な仮面」と大して興味無さそうだったり。ザクを取られてキレるジェジーのことを半ば無視したり。
 彼女は自分に関係無い・気に入らないことには塩対応なきらいがありますね。周囲に流されない、ものすごく『自分』という軸をしっかり持って、現状からの解放を追い求めているようです。だからこその決断力と行動力。
 一方その裏返しで、『キラキラ』やシュウジなど、求めているものには一直線な雰囲気も見えますね。だからこその決断力と行動力(2回目)

マチュだって怖い

 マチュは戦闘中に『己の死』を悟って恐怖する一瞬があったと思います。
 またクランバトルの時、シュウジがMAVとして来た際に「来てくれた」って嬉しそうに呟くマチュはかわいい内心かなり不安だったのでしょう。
 つまるところ、彼女も戦闘は怖いはずなんですよ。
 軍警との戦いだって、ニャアンの悲しみもあって半ば衝動的に戦闘を仕掛けたものです。初陣のくせに物凄い勢いで戦ったからまるで生粋の戦闘狂のように見えた人もいるかもしれないが、あれは義憤と高揚が恐怖に勝っていただけなんじゃないでしょうか。アドレナリンが激痛をごまかすように。
 そして戦闘のあとに残ったのは、恐怖ではなく、閉塞を強いる大人を自らの力で打破した、反骨心を満たせた満足感だったのでしょう。
 この感覚を覚えたことが、後にクランバトルに参加する気を起こす一助になったと考えると辻褄が合いそうです。

女カミーユ?

 なんて意見も見ました。
 たしかに、こちらに支配的な立場の人間にすら果敢に食って掛かる反骨ぶりは、彼とマチュとで通ずるものがありそうです。
 でもマチュ、ちょっと名前をからかわれただけで見ず知らずの軍人ぶん殴るか?(因みにマチュはあだ名だが海外なら男性名だったりする。1stガンダムにもいる)
 それで逮捕されて暴行を受けたとして、軍のガンダム強奪して生身の人間にバルカン乱射して「一方的に殴られる痛さと怖さを教えてやる!」さらに爆笑しながら「ザマァないぜ!」なんて言うか?
 いやいや、マチュとてナメられるくらいなら抵抗する方だとは思うが、さすがにここまではやらないと思いたい……。
 やっぱ1話カミーユのほうが100倍ヤベーよ。まぁ、彼もあの時は虫の居所が悪かったし、ちょっとだけ人よりセンシティブなだけなんですけどね。

総評

 彼女は決して戦闘狂でも狂犬でもない。イズマ・コロニーという閉塞環境と、その支配体制に対する反骨精神に依って立つ『自分』という図太い1本の軸を持ち、その自己肯定感ゆえに流されることなく迷いなき決断と行動ができる少女なんじゃないかなぁ、と思います。別にムカついたら何にでも噛みつくわけじゃなくて、己の理念に反する敵をきちんと選ぶ分別くらいはあるはず。
 それでいて戦闘など関係ない場所では、偽りの重力に縛られた中でもそれなりにファッションを楽しんだり。
 一方で母親の庇護のもと暖かい家に住み、遠くの塾にまで通わせてもらえるという恵まれた身でありながら、自分ひとりでは未だこの偽りの世界から脱出できないという贅沢な悩みを抱え、あえて逆立ちなんかしてみたりする。
 そんな思春期らしい苦悩を抱きながらも、コロコロ可愛らしく表情が変わるくらいには学生生活を満喫できている、ふつうの女子高生
 ……という風に私には見えました。まぁ一言で言えば『やる時はやる女』ってところか。決して理不尽な暴力に手を染めるような狂犬には見えません。
 こう書くと「信念を貫く子どもなど薄気味が悪い!」なんて声も聞こえてきそうですけどね。

 オメガサイコミュを起動できた一件からして、マチュに戦闘への何らかの素質があるのは間違いなさそうです(個人的にハロ説は懐疑的)
 思春期少女の内から溢れんばかりの反骨と情動を大爆発させる手段『ガンダム』を手に入れたことは、彼女の運命をどのように変えてしまうのか。
 彼女の行く、もう一つの宇宙世紀が楽しみでなりません。

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