キュートアグレッション
人は可愛いものを見ると、思わず握りつぶしてしまいたくなるような気持ちになることがあるそうで。
キュートアグレッション, または プレイフルアグレッションとは人間の赤ちゃんや幼い動物など、かわいいものを見ることによって引き起こされる皮相的な攻撃的行動・衝動である。
「人は可愛いと思うものを優しく慎重に扱うはず」というなんとなく思い描くイメージとは真逆と言える感覚。私は今日これを苦しいほど味わったのだった...。
『映画 すみっコぐらし 青い月夜と魔法のコ』 で。
(この記事では本編のネタバレは書きませんのでご安心を!)
昨日11/5、ロードショーになったのです。待ち望んでいました。好きなんです。すみっコぐらし。
大画面で動くすみっコたちが出てくるたびにキュートアグレッションが発動していましたが、握りつぶすものが無いのでその代わりに自分の顔をくしゃくしゃに歪めていました。なぜこんなにも愛おしいのか...
私は無表情で人間味に欠けるキャラクターが好きなんです。メジャーなところで言うとハローキティとかミッフィーとか。しかしどちらも公式で声が充てられていて、静止画の世界を出るとまあよくしゃべるしゃべる。そして家族や兄弟がいて人間の幼い少女らしい内面を持っていて...と、ガワは動物のキャラでも人間を模している部分が多く見られます。可愛いなーいいなーと思いつつもマイストライクゾーンのド真ん中は微妙に外していました。ハローキティにいたってはアニメだと口まで登場しちゃって、こりゃもう完全に「解釈違い」(面倒なファン)。
すみっコぐらしはその狭いストライクゾーンをぶっ刺しにきました。まず表情に乏しい。それに加えて、声が全くありません。映画はナレーションで物語が進み、たまにすみっコたちのセリフが画面上に一言二言浮かび上がりますが、それだけです。音無し。そして、たくさん登場するキャラのほとんどが家族がおらず年齢も性別も不詳で、物語になっても人を模した部分が少ないままなのです。
メインキャラクター「しろくま・ぺんぎん?・ねこ・とんかつ・とかげ?」の5体は、それぞれ違った劣等感や後ろめたさを持って生きています。しかし諦めや開き直りはなく、それぞれがそれを克服すべく頑張っています。唯一にして決定的に人らしい要素といえば恐らくここでしょう。
全体的になんか「可哀想」なんですよ。表情の乏しさがまたその健気さを際立たせていて、握りつぶしたくなってしまいます(握りつぶしたくないけど)。可哀想は可愛い。
映画のパンフレットを買って制作者インタビューを読みましたが、キャラクターの主張をかなり抑制して作っていることが分かります。だからなのか、媚びが少なく感じるんですよね。映画化するほど大きくなったキャラコンテンツでここまで「薄い味付け」を徹底しているものって他に無いんじゃないでしょうか。
制作者のよこみぞゆりさんは「子どもだけのキャラクターにはしたくない」と語っています。
今日は親子連れが多かったですが、上映後に「お母さんなんで泣いてるの?」という子どもの声が聞こえてきました。大人にもズブリと刺さる物語として1作目の映画は話題になりました。(今作は2作目)
弱さを抱えるキャラ解釈なども踏まえると、すみっコぐらしは非常に哲学的な世界観にも思えます。
来年で10周年だそうで。まだ歴史が短いキャラクターです。ゆえに時代精神がよく反映されているのかもなぁと思っています。
これからまだまだ人気が高まっていくんじゃないかという予感がします!見守り楽しんでいきたいと思います。キュートアグレッションの気持ちは自分の顔面に向けて、くしゃくしゃに歪めながら。