エスパルスのサッカーと平岡監督のミッション(前編)
こんにちは、今回は今クラブが作ろうとしているエスパルスのサッカーと先日2022シーズンの指揮を執る事が決まった平岡監督が求められているものについて書いていきます。(長くなったので前編と後編に分けます)
エスパルスのサッカーとこれまでの流れ
まずは今クラブが作り上げようとしているエスパルスのサッカーを考える上で、これまでの流れを振り返っていきます。ここで言うエスパルスのサッカーとはよく言われる「清水・静岡のサッカー」ではなく、あくまでエスパルスというクラブのサッカーになります。
このエスパルスのサッカーという言葉が明確にクラブから発信されたのが2015年になります。当時社長に就任した左伴さんが会見で口にしていたのが「気迫・走力・球際で負けない」・「ハードワーク」といった言葉でした。そして2015年の時には実際にどんなサッカーをするか具体的に示されています。それがこちらです
(エスパルスHPより引用)
そのサッカーが出来ていたかと試合での結果は別として、大榎監督は実際にこのようなサッカーをしようとしていたのは間違いありません。
そして翌年の2016年は小林監督が就任しましたが、左伴社長が掲げた「ハードワーク」というベースはそのままにこのようなサッカーをするという事が会見で示されています
(クラブHPより引用)
この2つを見ると、社長が言った「ハードワーク」という根幹の部分は変わらないものの、監督が変わって全く違うサッカーを指向しているように思われます。実際に2015年と2016年でエスパルスがやったサッカーは全く別物でした。これがどういう事か、またこの時のクラブがエスパルスのサッカーというものに対してどういった認識だったか考えていきます。そしてそれを考える上で見ておくものがあります。
フィロソフィーとクラブのサッカー
まずはこちらの図を見てみましょう。
こちらはJリーグが出している「Jリーグ クラブ経営ガイド」の中にあるクラブ経営における原理原則のクラブフィロソフィーの部分になります。
これによるとサッカークラブにおけるフィロソフィーは3つに分かれています。①「クラブのフットボールフィロソフィー」・②「トップチームのフィロソフィー」・③「アカデミーのフィロソフィー」です。この3つは相互に関わり合いますが、順番としてはまずは①のクラブのフットボールフィロソフィーを定め、そして②③に繋がっていくという流れになるでしょう。
そしてこのまず最初に制定される①はクラブのサッカーに対する価値観であり、それまでの歴史や文化、ビジョンが要約されているものとされています。そして②はそのクラブのフットボールフィロソフィーに沿って選んだ監督が体現するサッカーと言えます。
では先程の2015・2016年をこれに当てはめるとどうなっているでしょうか。まず①には左伴社長が言っている「気迫・走力・球際、ハードワーク」が当てはまる事になります。そして②は大榎監督と小林監督が掲げた具体的なサッカーのスタイルの部分になります。
こうして見ると①の部分では確かに「ハードワーク」はどんなサッカーでも根幹の部分ですが、これだけではエスパルスやその地域の歴史や文化、ビジョンを含んだものとは言えません(左伴社長はあくまで意図的にこれだけに抑えたとは思いますが)。監督にしても①に沿って連れてきた監督ではなく、大榎監督は2014年からの流れ、小林監督は昇格をする為とフィロソフィーとは離れた部分で選ばれています。もちろんそれぞれ理由があったわけですが、この様にクラブのフットボールフィロソフィーが定まっていない状態では、監督が変わればサッカーが変わってしまうのは当然であったと言えます。
エスパルスのフットボールフィロソフィー
このようにエスパルスのサッカーというものがクラブの中で分かっていない状態でしたが2018年に大きな出来事があります。それが鈴木健一郎会長と久米GMの就任です。
左伴社長は2015年の就任会見で、ある程度経営規模が大きくなったらGMを置いてサッカーの面は任せると話をしていましたが、健一郎氏が要請して久米さんをGMとして迎え入れた事でクラブの経営面は左伴社長、チームの強化に関しては久米GMという体制が出来上がりました。
そしてこの年ですが、久米GMが入った事でクラブの目指すサッカーについても少し変化が見られます。まずこちらは新体制会見時のものですが
ここにあるサッカービジョンの部分がクラブのフットボールフィロソフィーにあたります。昨年までと同様に「ハードワーク」が一番に置かれていますが、今シーズンは次に「清水らしい魅力的なサッカー」とあります。昨年までは「ハードワーク」のみをクラブのフィロソフィーに置いて、その次はトップチームのフィロソフィー、つまりその時の監督のサッカーがきている状態でしたので、ここに入った「清水らしい魅力的なサッカー」に大きな意味があると考えられます。
これはその後の左伴社長のサッカービジョンの部分についての説明です
ここに強化部に対して「エスパルスというクラブとしての価値観を体現できるサッカーとは何かということを問いかけています」とあります。先ほど書いたように、このクラブとしての価値観が正にクラブのフットボールフィロソフィーになります。
その後に練習等を通して表現していくと左伴社長は言っています。同じ新体制の会見で健一郎会長が「「もう一度エスパルスの目指すサッカーとは何かを明確にした。それに基づいて招集した監督」と述べています。つまりこの「清水らしい魅力的なサッカー」はどういったものかクラブとしてはある程度イメージができていて、あとはそれをトップチームに体現してもらうという形ができているという事です。
では会長が明確にしたといったエスパルスが目指すサッカーとはどんなものでしょうか。これはクラブとして外に発信しているものはありませんが、久米GMが新体制会見でこう述べています。
ここで久米GMは清水のサポーターが望んでいるものとして、素早くゴールに向かっていくこととパスを繋ぐ技術が必要と述べています。技術的なミス・判断のミスをしない選手、つまりは上手い選手でないとこの地域では認められないといった感じでしょうか。個人的には今までの静岡の高校サッカーやエスパルス・ジュビロ等を見ても、こういったものが求められているという認識にはとても納得できます。しかし残念ながらシーズン途中で久米GMが逝去され、エスパルスのサッカーについてこれ以上具体的な話はGM自身の口から発せられる事はありませんでした。
ただ久米GMの後を継いだ大榎さんから興味深い言葉が翌2019年の新体制会見で出ています。それがこちらです
ここで大榎GMは「エスパルスのサッカーはどんなサッカーかまだ言えることは無い」と発言しています。このコメントは色んな捉え方ができるのですが、前年に明確にしたと言っていたクラブのフィロソフィーの部分が定まっていないのか、もしくはもっと具体的にどんなサッカーをするか明確にしていきたいのか。
少なくともシーズン8位の成績ではありましたが、まだトップチームでそのサッカーが体現できていないと考えているようには思います。ちなみにこの年の補強選手はエウシーニョ・中村慶太・西澤健太・梅田透吾でした。
エスパルスのサッカーの確立へ
前年8位からトップ5入りを目指してスタートした2019シーズンでしたが、ドウグラスの離脱等もあり開幕から中々勝ち星をあげられず、ヨンソン監督が11試合で解任されます。クラブは残りの試合を「残留する為のサッカー」に切り替え篠田コーチを監督に昇格させ、最終節で残留を決め14位でシーズンを終えます。クラブとしてもエスパルスのサッカーというものを表現しようとしたシーズンであったと思いまいますが残留という目標を達成する為に放棄しなければならなくなりました。
そして翌2020シーズン、クラブは大熊GMを迎え再度クラブのフットボールフィロソフィー、そしてエスパルスのサッカーの確立に動きます。2021シーズンが始まる前に雑誌のフットボール批評で大熊GMが岩政さんと対談していますが、ここで大熊GMは就任してすぐに「新しい事をチャレンジする時に苦しい時は絶対にある。そういう時に立ち戻るところ、これだけはサッカーに必要なもの」として次の3つをアカデミーを含めてクラブで共有したといっています。そして大熊GMはこれを「理念・コンセプト・哲学」と述べています。それが
この3つです。
前編はここまでです。後編は大熊GMが掲げたこの3つについて書いていきたいと思います。では今回はこの辺で、読んでいただき有難うございました。