『ラークシャサの家系』第3話
◇「オレたちのお仕事」
オレは技術部開発課に配属された。比較的、時間が自由なこと、あの3人のヴァイシャも同じ職場ということが理由らしい。開発なんてガラではないが。
”キダさん、外線4番です、キダさん、外線4番です”
「ほーい!4番、4番ね。はい、お待たせしました、キダです。」
「七瀬です。」
「・・・なんだ・・・あんたか・・・携帯でいいだろ?」
「ちょうど指宿さんにも用事があったので、こちらのほうが効率が良くて。早速ですがお仕事の話です。少し前に寄居であった事件なんですけど・・・
七瀬の説明によると、数日前に林の中で、若い男性の遺体が6体見つかったそうだ。それらはいずれも腹の部分がえぐられていた。死後、10日ほどたっていたので、当初は野犬かカラスが食い散らかしたと思われたが、腹以外には全くと言って良いほど損傷がない。野犬やカラスなどの動物の仕業なら、目や耳などの比較的食べやすい部分にも損傷があるらしい。これは明らかに人間の腹部が目的という結論になったのだが、さて、こんな猟奇的な犯罪を誰がどんな動機で?となったらしい。しかもこの6人は、警察とは顔なじみと言っていいほどの不良青年たちで、このメンバーと対等に渡り合うだけでも相当な戦力が必要だ。鑑識の結果も理解できない点が多く、地元の警察も正直、お手上げ状態だった。そんな状況を察知した県警本部が、内閣府国家公安委員会へ報告、本件を調査した結果、本件は内閣府独自案件と判断され、ここまで指示が来たと言うことだ。
「よくあるパターンか。今回も楽勝だな。」
「そう言って、前回は相当苦労してませんでした?」
「・・・うるせいっ!そういう時もある。」
「一応、資料を鴛海君に送っておきますね。あと現場で採取された、金属か何かの破片と、木の表面についていた毛髪らしき証拠品を茂木さん・・・紗々ちゃんのほうですけど。送っておきます。十中八九、鬼・・・シュードラかアチュートの犯行ですね。このエリアでは初めてかと。」
シュードラは、ヴァイシャよりも下の階級で隷族民を指すが、能力はヴァイシャとさほど変わらない。アチュートは階級のない者たちの総称だ。アチュートの能力は個体ごとで違っている。基本的にはシュードラより劣るものが大半だが、中にはクシャトリヤ級の能力を持つ者もいると聞いている。
シュードラ、アチュートは、長きにわたり人に害を及ぼしている。人間がイメージする鬼=悪は、この2階級の鬼が原因だ。基本、やつらは知性が低く、その身体能力は人間の数倍以上、見た目はオレたち同様で人間と同じ形をしている、そして血の滴る生肉が大好物だ。ちなみに奴らはオレたちのように人間との協力関係はなく、本能のままに暮らしているらしい。そんな奴らが人間界にいたら・・・想像するのは簡単だろう・・・つまり、奴らから人間界を見ると、まさに食べ放題の回転ずしに等しい。だから、そんな危険なシュードラとアチュートは、人間から見ると駆除対象の階級で、オレたちは自分たちの市民権と引き換えに、長年、その駆除に協力しているという訳だ。今ではずいぶんと個体数は減ったらしいが、1000年ぐらい前は個体数も多く、街をウロウロしていたと聞いた。
さっそく現場へ急行!車は?
「キーダさん、車でしょ?」
「えっと、もてぎさんね。あぁ車を借りたいんだけど、あるの?」
「ちゃんと準備してありますよぉ。先ほど社長から指示をいただきましたよぉ~さぁさぁこちらへどうぞぉ。」
事務所から少し離れたところに、開発棟別館という、少し大きめの試作機を組み立てる建物があって、普段、茂木兄はここに籠っている。
「さぁどうぞっどうぞっ! じゃじゃーん!!」
「おぉっ・・・おっ・・・お・お・・・なにこれ?」
「武蔵ダイカスト技術部開発課が当社技術の粋を結集させて開発した・・・武蔵2号!!」
「って、軽の箱バンにしか見えませんが、茂木さん。でなんで2号?1号は?」
「キダさん、まぁ乗ってから文句言いましょ!さっ乗った乗った!!」
「茂木さん、これすげーな。このエンジン、軽じゃないだろ?」
「わかりますかぁー?エンジンには、あの名機ホンダB16Aを少しチューニングしてですね。バモスのシート下に無理やり突っ込みました。で、エンジンパワーを最大限に生かすために、あえての4駆!さらに足回りにはエアサスを装備!状況に応じて車高を変えられます!ですからオンからオフまでガンガン行けますよぉー!!」
「ただ・・・スピード出すと曲がらんのですけど・・・危ねっ!」
「あははは。そりゃそうでしょ?ドライバーいないのにどうやって足回りのセッティングするんですかっ?キダさんが来たから、これからやりますよ!さっまずは現場へ行きますよっ!」
「無茶苦茶だな。」
あの凄惨な殺人事件の痕跡を微塵も感じさせない現場。血しぶきの一滴すら見当たらない。予想通りシュードラかアチュートの犯行とみて間違いないだろう。奴らの手際はいつも驚くほど鮮やかだ。さて、どうやって犯人をあぶりだすかだが、とりあえず会社に戻って作戦を考えるか。
そろそろ夜勤組の出勤時間か。
う~ん、結局、なんの作戦も考えつかない。何か取っ掛かり的なものでもあればねぇ。
「キダさん・・・いい・・ですか?・・・」
「おぉっ! なにか?」
紗々がいつの間にか横にいた。こいつは気配を消せるのか?
「七瀬が送ってくれた資料のチェックと証拠品の分析が終わりました。犯行は2匹、全部アチュート・・・歯形と毛で分かります。あと採取された無機材料ですが・・・これは人工物でセラミックです。具体的にはサイアロンと呼ばれるケイ素とアルミの酸化物で作られたセラミック・・・」
「なぜセラミック?」
「さぁ・・・そこまでは・・・それは私の仕事じゃないですから・・・」
「・・・」
「ねぇねぇ。キダっちー」
「うわっ!鴛海さん!なにか分かったんですか?」
ドヤ顔した子どものような表情で、机の下から鴛海がニョコっと出てきた。
「僕すごいもの見つけっちゃったかも。これさ、少し前に投稿されたものなんだけどさー」
「んん?こいつら被害者じゃないの?」
「そのとおり!」
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