『ラークシャサの家系』第20話
◇「36年前の真実」
白石さんが指さした顔写真は、上野村広報課の山野だった。
野性的な勘と言うか、なんとなくではあるが、白石さんと話している途中に山野の顔が浮かんだ。会った時から、この男が今回の件に深く絡んでいるような感じを受けていた。
しかし、なぜ山野が山崎正のアパートに? その後、小久保たちはアチュートに殺害されたことは間違いない。その状況を、山野が撮影してホームページにアップした? 仮にそうだとしたらどこからアップしたのだろうか?
・・・ん?
「白石さん、ありがとうございました。」
「あら、お兄さん、もういいの?」
「はい、ご協力ありがとうございました。」
白石さんをしばらく見送った。オレには、急ぎで確認したいことがある。
「七瀬参事官!鴛海さんに確認したいことがある。すぐに連絡とってくれないか?」
「えぇ・・・いいですけど。なんで私が?」
「あっ、このあいだ上野村で戦った時、スマホ壊しちゃった。わりぃ。」
「もう、そういう言ことはちゃんと言ってください。少々お待ちを・・・」
”プルルルル、プルルルル、プルルルル・・・”
”カチャ”
「なになに?七瀬?なにー?」
「あっ鴛海君?今キダさんに代わりますね。」
「?」
「残念でした。用事があったのはオレです。ちょっと鴛海さんに聞きたいことがあって。」
「なんで七瀬の電話?」
「あぁこの前、アチュートと戦った時、壊されちゃって。」
「ふーん。で、何?」
「小久保たちがアチュートに成敗されている写真って、どこからアップされているとか、わかるの?」
「あぁ、それねぇ。一応IPアドレスは捕まえたけど、ごめん、その後に時間がかかってる。とりあえず、このIPはISPのってわかったんだけど、このISPが、また頑丈なセキュリティーかけてて、なかなか位置情報を見られない。」
「そっか。じゃ、引き続きお願いということで。」
「ほーい。あっ、茂木さんが話したいって。」
「おぉ。なんだろう?」
「じゃ茂木さんに代わるね。」
「茂木だが。キダ氏、この後、斉藤和也もしくは上野英のところへ行って欲しい。奴らに山野の写真を見せれは、山崎正と山野の関係が明らかになる。それと興味深い事実を発見した。スピーカーに換えてくれ。これは七瀬氏、井村氏にも聞いていただきたい。」
「あぁ、ちょっと待って。」
”七瀬氏、井村氏、小生の声が聞こえるか?”
「あっ七瀬です。聞こえます。」
「井村です。大丈夫です。」
”今から話すことなのだが、正直なところ、井村氏に話すべきかどうか迷った。小生にしては珍しく、ここは社長に意見を伺った。その結果、井村氏にも話すこととした。井村氏には、どう扱ってよいものなのかが、少し難しい内容かもしれない。少々覚悟して聞いて欲しい”
少し間を置いた後、茂木兄が語り始めた。
”今を遡ること1985年8月12日、 羽田発大阪行のJAL123便が、上野村の高天原山に墜落した「日航機墜落事故」は、皆存じておるな。
その事故で、生き残ったのは4人の女性なのだが、当初の報道では、生存者は7人とか8人とか言われていたのだ。その後の報道で、現場が混乱していたため、人数を数え間違えたと弁明されているが、実のところ、生存者は6人であり、さらにその時、墜落現場にいた2匹のアチュートを数えて、8人となったのだ。これは、内閣府に保存されている最重要ファイル123にも記載してあるのだが、朝読新聞社のサーバ―に保存してある当時の取材メモ、現場にいち早く駆け付けた、上野村消防団員の証言からも確認ができた。
そして、ここが最も重要なのだが、6名の生存者から消えた2名は誰なのか?と言うこと・・・”
「七瀬ですけど、茂木さん、どうしたんですか?」
”うん、わかっておる。続けるぞ。生存者から消えた2名。いや、消されたと言うべきかな・・・
その2名と言うのは・・・
それは・・・バラモンのメツキ様と、生後4か月の娘、つまりメツキ様と前夫の間にできた半鬼の娘であったのだ。”
「えっ、お母さまが?」
”事故後、墜落で負傷したにもかかわらず、メツキ様は必死にアチュートからの攻撃に応戦していたらしい。自分を守るのに精いっぱいだったのだろう、交戦中に娘は行方不明になってしまったようだ。誘拐された可能性もあるが、結局のところ、娘は、その生死すらわからずじまいだ。これも、内閣府のファイルに記載があった。
生存者4名も、皆、口をそろえて、墜落直後に、赤ん坊の泣き声と、なにか金属同士がぶつかるような音を聞いたと言っておる。おそらくこれは、メツキ様の娘の泣き声と、メツキ様とアチュートの交戦時の音であろう。
そもそも、この「日航機墜落事故」は、メツキ様を狙ったある組織のテロ行為であったと推察されたのだが、ラークシャサと日本政府の関係を、公にできないといった背景があって、当時は、多くの情報がもみ消されたり、調査や捜査などのグループも、異例の速さで解散となった。そのため、真実はわからずじまいなのだ。
今回の事件が当時の事故と、どんな関係があるかは、現状、不明ではあるのだが、関わる者たちの顔ぶれを見ると、何か嫌な予感がする。”
「つまり、なにってこと?茂木さん。」
”七瀬氏よ。小生も正直なところよくわからんのだ。”
”一見、北関東のチンピラが、野良アチュート2匹に喰われただけの事件であったのだが、調べていくと何か組織的な匂いがしてきた。誰かが後ろで手引きしているような。
この予感が、単に小生の心配し過ぎであるのなら良いのだが。”
「茂木さんが言うのなら、そうなのかもしれない。でも、オレたちの仕事はシュードラとアチュートの駆除なんだろ? 奴らが束になってかかってきたら、このオレが全部やっつけてやるよ。安心しな。」
”なら良いのだがなぁ・・・”
あら、意外と頼りにされてないのかな。
「上野村では散々ボコボコにやられましたよ。」
七瀬まで・・・。
”さて、この「日航機墜落事故」には、さらに謎があるのだが、それらに関する小生の証明を聞きたくはないか?
例えば、一度墜落現場に到着した米軍が引き返した理由は、2匹のアチュートの存在、つまり彼らはアチュートの攻撃力に恐怖したためとか。
また、いまだに見つかっていない墜落の原因となった垂直尾翼は、キダ氏も見たように、アチュートが武器として使用しているからとか。
現在でも多くの謎が残る事故であるのだが、ラークシャサ、日本政府、そして敵対する組織、これらの存在を肯定すると、その多くの謎は矛盾なく説明できるのだ。
さらには・・・”
「茂木さん、そろそろ良いですか? 私たち、そろそろ斉藤和也か、上野英のところへ移動しよう思いますので。」
”うぐっ・・・七瀬氏よ、安定の塩対応・・・さらに助言を加えると、その後は、上野村の山野のところへ向かったほうが良いぞ。ここまでの事実を奴に”
”プチ”
「さっ、行きましょっ!キダさん、明子ちゃん」