ブルーにこんがらがって
2009年5月に書いた旅雑文です。
最高気温28度
五月晴れがつづく四万十は、陽ざしが暑く、はやくも夏の陽気です。 雨量がめちゃ少ない春から初夏。 川は、水位がじこじこ下がり、流れが痩せ、川原がグンと広くなっています。水の透明度もあまりよくありません。 そろそろまとまった雨が降ってほしいなぁ。
風さわやかな初夏の午後。
木陰に吊ったブラジル製のハンモックに、もぐり込んだ僕は、グラスのカンパリを飲みながら、先日のインタビューを思い出していた。
「本当の豊かさってなんだと思います?」と記者。 インタビューの最中、不意打ちのような予期せぬ質問に、僕の頭の中は小さく混乱した。—ん?なんだか大雑把な質問だな・・・—と思いつつも、なにか答えなくては!と思ってしまう(悪しきサービス精神ですね)。 そして、それまでの話のながれから、「四万十川をカヌーで下りながら、その自然の素晴らしさ、楽しさをゲストに伝えるガイドの仕事は、充実した豊かな時間ですね」と答えた。 —あれ?今の答えは、arkガイド佐野としての返答だな、本当の豊かさ?ホントウノユタカサ?—混乱の度合いが増した僕。 そのあとは、しどろもどろ、脈絡もなく思いついた事を話す展開に・・・。
その要領をえないだらだらとした話に、質問者である記者は冷笑を浮かべた。たまたま同席してた知り合いの「お前もっと考えてしゃべれよ、それに日本語、もう1度勉強しなおしたら」との言葉に僕は顔色を失った。 —ああ、やっやっちまった・・・— へこんだ僕は、それ以降の質問にも答えるごとに、うわっつらな言葉の泥沼にはまっていった。そして、ブルーな気分でインタビューを終えたのだった。
5月のある晴れた日。 僕は、家の近くの川原で、地方誌の記者のインタビューを受けていた。
「四万十川特集」のためのインタビュー。移住してきて、自立した仕事をしてる人間は記事にしやすいのだろう、たまにこういった取材を受ける。
記者の最初の質問
「他所から移り住んだそうですが、この川の魅力とは?」
僕の返答 ・四万十川には、ダムがあるけど、護岸や堰堤が少ない。他の大きな川と 比べ、まだ、自然河川としての魅力が残っている。 ・川の水も、まだそこそこキレイ。(汚水も入るが、川の浄化作用、支流や伏流水の流入などで良い水質が保たれている)。 ・大きく蛇行した川は、水の流れがゆるく、平均水温が高く、バシャバシャ川遊びが楽しい。 ・鮎釣りのシーズンも、江川崎から下流には釣り師があまりおらず(釣るポイントではない)、カヌーが自由に下れる。 ・流域に人が少ないので、空がキレイ。夜空がキレイ。静かさがある。規制が少なく、キャンプに最適な景色のよい川原で、焚き火も自由にできる。 ・川も良いが、そこに繋がる海と山の自然もまだ濃く豊か。
そしてなにより、移住する前に、このフィールドでゾンブンに遊んで、めちゃ面白く楽しかった。頭で考えるより、五感と体で感じた手応えが良かった、と答えた。僕の経歴(旅のハナシなども)もまじえながら。
その次に記者は、初対面の僕に唐突に「本当の豊かさってなんだと思います?」と質問したのだった。
記者と知り合いが帰った川原でひとり、僕をへこませた質問について、落ち着いてよく考えていると、だんだんむかっ腹が立ってきた。相手と自分に対して。単純でアホな僕は、一聞すると美しく思える言葉や大きな声に弱く、たやすくだまされやすい。そしてあとになって(よく考えてみれば)、相手の策や落ち度に気がつき、チッキショーと思う事が少なからずある。
今回の「本当の豊かさってなんだと思います?」という耳あたりのよい質問も、焦点(主語?)がぼやけていて(どこのナニに向けて本当の豊かさを問うてるのか?)わかるようでよくわからない質問、というコトに遅まきながら気がついたのだった・・・。と言う訳で「佐野個人が豊かだなと感じる時は?」といった質問で考え直してみました。とても記事にはできない、きわめて個人的なコトですが。 ・気のおけない仲間や、家族、好きな女の娘と美味しい物を飲んだり食べたりしているとき。 ・好きな女の娘と、気持ちE事をしてるとき。 ・充実した仕事が、人や社会の役にたつ仕事や行動が、できたとき。
・良いフィールドで、気持ちよい風や水とたわむれているとき。
・何かにチャレンジし、見える風景や自分が変わったなぁ、と思えるとき。
・星空の下でお酒を飲みながら、ぼおっと焚き火を見つめているとき。テントの中で本を読んでるとき。 etc、まだまだ沢山あるのだ・・・(なんだかしょぼいようなコトばかりで・・・ちょいと恥ずかしいけど)。
「生きてて良かったぁー、時間よ止まれ!」と思うシアワセな瞬間(永遠の一秒)は、一粒のしずく。記憶の地図の川を流れる、キレイなしずく。
もちろん汚れたしずくも入るけど、できるだけ沢山のキレイなしずくを集め、記憶の川もそこそこ美しく豊かでありたいと思う。四万十川のように。
—生きる旅が、川のとろ場に吹くきつい向かい風の中を、わっせわっせと懸命にカヌーを漕ぎ、海に向かう事に似ているのなら—
ココロの中の川も美しく豊かなほど、良い流れにのって悠々と、気持ちよく海まで漕いでいけると思う。
~大切なものは、目には見えないんだよ、心でみなくてはね~
言葉にするのが難しいコトを、美しい言葉や大きな声で、たやすく口にする人には注意しましょうね。