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一軒家、死体付き

 私は開け放たれた扉から溢れ出る不快な香りに顔を顰め、鼻栓を押し込んだ。「先生、本日は忙しいのにありがとうございます。」家主である男は申し訳無さそうにこちらをみる。その顔に不快感は浮かんでいない。「いいえ、お気になさらず。ささ、奥さんの様子を見せてください。」
 室内に踏み入れると、異常な臭気を発する家でありながら部屋は驚くほど綺麗に掃除されている。尋ねると、男は照れくさそうに語る「妻がうるさいんですよ。何時も綺麗にしなさいって」彼としてはお惚気のつもりなのであろう。「ああここです。恵那〜!お医者さんだよ。」開け放たれた扉の向こうから一層強い匂いが溢れてくる。匂いの元凶であろうベッドの上には何かが横たわっている。私は差し出された椅子に座りノートを取り出した。「本日はよろしくお願いしますね。早速ですが、旦那さんと奥さんのお名前と年齢をもう一度確認させてください。」男は妻を一瞥し、頷いてから口を開いた。「はい。俺は安祥甲斐といいます。妻は恵那です。年は36と28です。」

 安祥甲斐、この家の6代目の家主にして恵那の6番目の夫。安祥恵那、没年不詳、死体である。生前における安祥甲斐との面識はない。

 甲斐に対する事前検査、という名目の精神鑑定はすべて正常を示した。近所付き合いもよく、私が安祥の場所を訪ねた際には恵那の体調を案じていた程であった。

「では何があったか教えてください。」

「妻の腕が取れてしまって…救急車を呼ぼうとしても住所を聞いた瞬間そこには行けません!なんて!なんとか縫い付けることは出来たんですが…色んな医者に電話しても出来ませんばかりで…妻は最近本当に元気がなくて…本当に…本当に先生が来てくれて良かった…」無論、私の目的は治療ではないし私は医者ではない。「ええ任せてください。かなりの難病だと思われますが。必ず成し遂げましょう」

 私は、笑顔でそう言った。

【続く】


#逆噴射小説大賞2024

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