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叩いて、起こして、縛る、お仕事

「叩いて、起こして、縛るんだよ」


私は、頭上に??を浮かべた。何とも卑猥な・・・いやいや物騒な言葉の羅列。


久しぶりに会う叔父が、突然言い出した。


 この叔父、昔は〇〇商事(一部上場)のエリート社員だったが、どういう訳か突然会社を辞め、人生からも親戚からも、はぐれメタル状態で世間を浮遊するようになった。


 昔はスーツを着込み世界中を飛び回って仕事をしている、文字通り世界をまたにかける男だったのだ。


 数年ぶりに出会い、社交辞令的に「おっちゃん、今何してんの?」
と、私が聞くと、叔父はニヤリとほくそえんで「叩いて、起こして、縛る仕事」

は?


私の頭の中では、4課の刑事さんにお世話にならなければならないようなお仕事なのでは?もしくは、夜の方の……SM的な……。デトロイト・メタル・シティの梨元 圭介的な?いやいや、後期高齢者に足を突っ込もうとしている叔父が夜の仕事って……。


どっちもありえねぇ〜。


「かくちょう団に入ったんだよ俺」と叔父。


やっぱり、暴力団のたぐいか〜。とうとう親戚からやーさんがでてしもうた〜。と、私の脳内お祭り騒ぎ。


「いや〜実はな」


心拍数を上げながら、叔父の話に耳を傾けた。


……


叔父の話をじっくり聞いてみると、なんてことはなかった。拡張団とは、新聞の営業マンさんのことだった。叔父の話によれば、新聞屋さんには特殊な専門用語が山のように有って、それを覚えるのに数か月もかかったというのだ。


叩き・・・いわゆる飛び込み営業のこと。
起し・・・以前自分の店の新聞を読んでいた読者に、もう一度読む契約をしてもらいに行くこと。契約が取れれば、起したことになる。
縛り・・・契約を延長してもらうこと。


このほかにも、叔父の話は意味不明な単語のオンパレードだったが、全く知らない言葉の世界に私は魅了された。


「あのなぁ、団員の中には天婦羅あげたり、まるちょんで稼ぎよるやつもおるんや、まぁ、店も本店(新聞社)から押し紙だされてて、必死やからちゃんと調べへんのや」


てな具合。


何もわからん。


訳すると


「営業マンの中には、存在しない架空の住所名前を契約書に書き込んで店に提出したり、読者の継続契約書を勝手に作成して店に提出し、歩合をかすめ取るのだよ。今自分が勤めている営業所は、個人経営なので、新聞社から無理難題な営業ノルマを課せられていて、営業停止に追い込まれては大変だから、細かいことには、あまりかまっていられないんだ。なので、結構ばれなかったりするんだよ」


と、言っているのだ。


「ガサ行って、乞食相手にカードあげても、飛びよんねん。それやったら、普通のとこ行って置き勧や喝勧であげた方がなんぼかましやねん」


もう、なんのこっちゃ…


お、おもしろい。


団長さんは左右の小指と薬指がなく、他の団員も7分丈の脱げないカラーシャツを着こんでいたり、真っ赤なモヒカン君だったりと、個性豊かなメンバーが揃っているのだそうだ。


これまた、異世界。


そんな中で、もとエリートサラリーマンの叔父がなんだかいきいきと仕事をしているのも、またファンタスティック!


いや〜。世の中知らないことが多いんだなぁ〜。あんなに身近な新聞屋さんが、そんなパラレルワールドだっただなんて。


ん〜。おもしろい!

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