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激闘カップル!!
「あんなおっさん死んだらええねん!!」
を何十年も呪文のように唱えてきた彼女ですが、情が深いと言うかなんというか。
また、「死ね!!」を繰り返されてきた彼も根性が座っていると言うか、何も考えていないのか。
まぁ、なんと申しましょうか、ずいぶん前になりますか。壮絶な殴り合い、空前絶後の罵り合いを繰り返した結果、めでたく婚姻契約を解消したご夫婦のお話。
まあ、この二人のど元過ぎて20年を経て何やら怪しい雰囲気になっているのでございます。
「おっさんと沖縄行ってくるわ」と宣言を受けた私は当然驚くわけです。まぁ、子供の頃から凄まじい夫婦喧嘩をタイムリーに見ていたわけですから。
(オカンからの聞きかじり含む)
彼に髪の毛を持たれて引きずられる彼女。彼女に包丁や千枚通しを投げつけられる彼。お互いが一歩も譲らない。なので毎日が喧嘩、毎日が死闘、激闘の繰り返しだったご夫婦なわけです。いや〜壮絶。
そんな彼女が彼と沖縄旅行に行くと言うのだ。そりゃ為五郎だって驚きますよ。それから一か月後。実家に帰ると彼女がオカンと、とびっきり緑のお茶を啜っていたわけです。
ちゃかし半分で私は彼女に
「おばちゃん久しぶりやな。おっちゃんと沖縄どうやった?」
と口の端を少し吊り上げ、含み笑いを言葉に乗せて言うと
「どうもこうもあらへんわ!やっぱりおっさんと旅行行っても全然おもろないわ!!」
と期待通りのご返答。
「パイナップルパフェ食べた時も、こんなんが1200円もするんかやて、お金の話しかしよらへんねん。」
ご立腹気味の彼女はそう言ってタブレットを私に寄せた。
オカンがニタニタ笑いながら「おもろいで、それ」と顎をしゃくってタブレットを指した。タブレットにタッチすると彼女と彼が並んで仲睦まじくタワーパフェを頬張っているではないか。
2人で行ったと言っていたので、店員に撮ってもらったことになる。
古稀と還暦のツーショット写真である。
めちゃめちゃ楽しんでるやん!!\(゚ロ゚ )ナンデヤネン!
「なんやこれ、おっちゃんとめちゃめちゃなかえーやん。結婚してへんねんからカップルやね。ラブラブやん」
おもいっきりちゃかした口調で私が言うと彼女は
「そんなんちゃうわい!!おっさんも古稀やし、いつ倒れてもおかしないやん。喧嘩別れのままやったらなんや、目覚め悪いだけや!」
そういってぬるくなった玉露をズズっと口に含んだ。ちょっと照れているのが手に取るようにわかってしまう。いい風に言えば裏表のない人である。隠し事ができないと言うか、感情的で分かりやすいと言うか、まぁ平たく言えばいい人なのである。
タブレットの写真をスクロースしていくと、二人で牛車に乗ってピースサイン。ホエールウォッチングで水しぶきを上げるクジラをバックに満面の笑みでピースサイン。どっからどう見ても仲良しカップルにしか見えない。
「あ〜おもろなかった」
彼女はそう言って立ち上がり、心なしか足取り軽くスキップでもするように家に帰っていった。
彼女が帰った後オカンが「なんや2人共、年いってまるーなって、寂しなったんちゃうかな〜」となにやら嬉しそうに笑みをこぼしながら言うのだった。
あの壮絶な戦場を何度も見聞きしている私としては、そんなもんなんかな〜。とまだ見ぬ還暦や古稀の気持ちを想像するのだった。
o( ̄ー ̄;)ゞううむ