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恐怖のドライブ!
ゴールデンウイーク。シルバーウイーク。盆。正月。
まとまった連休が取れると、どこかに遊びに行きたくなる。それが人情というものだ。
行きたいところは?
カキオコが食べたい!
京都散策!
最近できた巨大モール!
等々
普段の鬱憤を晴らすように、目的地を羅列する家人たち。民主主義に則って、挙手で目的地を決定する。
目的地が決まれば颯爽と車に乗り込み、出発!!
片道約三時間ぐらいが目安で、日帰り旅行を楽しむ。渋滞するから、そろそろ帰ろうと日の高いうちに帰宅を提案。そうだね。と一同の同意を受けて帰路に就こうとするが、必ず誰かがおしっこしたい。ちょっとだけ、おみやげみていい?この卯の花ドーナツだけ買っていい?と、帰るよと言ってからが長い。
ようやく車に乗り込み一路家路へ!!
時はゴールデンウイーク、当然と言えば当然。当たり前のように捕まる大渋滞。戦いの火蓋が切っておろされる。
「おしっこしたい」
サービスエリアまでは、5キロ以上。時間に換算することはできない。車はピクリとも動いていない。
「まだまだ、サービスエリアまでは時間かかるよ」
「だって、もう我慢できないよ!!」
還暦を過ぎた母が車内で叫ぶ。
「しょうがないじゃないか。なんだったら、路肩ですれば?」
「そんなのできるわけないでしょ!!」
還暦を過ぎても女子は女子。羞恥心とやらが立派に発動している。
「じゃぁ。我慢しな」私の言葉に母は、うつむいて瞑想に入った。時折、
「あぁ〜」とか「もう!ダメだ!!」と奇声を上げる。
母の苦痛に歪んだ顔を見かねた妹が、空になったペットボトルを母に差し出した。
「パンツ脱いで、これにすれば?」
「できるわけないでしょ。男じゃないんだから、全部縁から漏れちゃうよ!!」
尿意マックス!ピーク絶頂!怒髪衝天!娘の提案に必要以上に、怒りをぶつける還暦女子。
「そうだ、だったら、これ、これ使いな」
叔母(母のおねえちゃん)が鞄の中から、温泉で貰ったタオルを母に手渡した。母も含めた、車内にいた全員の頭上に?の文字が浮かんだ。
「おばちゃん、それどうするの?」
私の問いに叔母は、母に手渡したタオルを取り上げて、自分の股間に押し付けた。
「タオル、パンツの中に入れて、ちょっとずつ、おしっこして、しみこませていくんだよ。それだったら、漏れないでしょ」
どうだ、ナイスアイデアだろ。とでも言わんばかりに得意げな表情を見せる叔母。
「そ、それは……」
私と妹が声を押し殺して笑っていると。
「そんな事できるわけないでしょ!!ねぇちゃんのバカ!!」
(ノ ゜Д゜)ノ ┻━┻
「バカってなによ!!あんたがおしっこ我慢できないっていうからでしょ!!」
ヾ(゜0゜*)ノ
還暦の妹と65を過ぎた姉との姉妹喧嘩勃発。何とも微笑ましい喧嘩だこと。
サービスエリアまで400mの標識が見えたとき「もう!!あか〜ん!!」
と、母は、鬼の形相で叫ぶと車内から飛び出していった。
牛歩で車がサービスエリア駐車場に入ったとき、携帯が鳴り、母が車内に戻ってきた。母の顔は、菩薩のように穏やかなものに変貌を遂げていた。膀胱が空になって姉妹も仲直り。
それ以来母は高速道路恐怖症になり、どこかに行く際は、サービスエリアの度にトイレ休憩を取るように心がけているようだ。
今でも車が渋滞する度に、私は母に「タオル貸してやろうか?」と、茶化して遊んでいる。
(´∇`)