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秋の朝【短編】


#朝のルーティーン

ピピピとシンプルな電子音が鳴るタイプの目覚まし時計で目を覚ます。「目を覚ます」そんな表現をするが、正確には耳ではなかろうか。朝、私たちは耳に飛び込んでくるその音で、目を覚ます。やはり目なのだろうか。どうしてか、言い慣れた言葉はしっくりきてしまうものだ。

そんな理想的な朝を迎えるのが私のルーティン。言っておこう。これは、フィクションだ。私の願望だ。大抵こういうものは、最後にネタバラシが来るはずだが、誰も起きれやしない朝のことだ。フィクションだなんていうのは簡単にバレてしまうだろう。だから、最初にネタバラシをしておくくらいでちょうどいいのだ。

11階。都心の角部屋に住む我が家には、昇りたての朝日が差し込む。朝晩とエアコンの効きすぎかと勘違いするほどに冷え込む昨今は、日の出もだいぶのんびりになってきた。このくらいが、ちょうどいいのだ。すべて。

27階、最上階に住む木崎さんは駅前の高級食パンを片手にいそいそとエレベーターへと乗り込んでいった。昨日のことだ。悪い人ではないんだけど、とかなんとかごちゃごちゃ考えたくなった2秒後。だいたいそれくらい。カチッとどうやらお湯が沸いたようだ。リプトンのティーバックは長めにつけておく。リモコンを手に取りいつものチャンネルに回すと、どうやらグーを出したらしいマスコットが画面越しにみんなの1日にエールを送っていたところだった。中途半端だ。なにもかも。

パンの焼ける匂いが鼻に届く。バターを乗せ、昨日茹でておいたたまごを鍋から取ってきたところで、完全に忘れていたティーバックを取り出す。まあいい。ミルクティーにするならこれくらいがちょうどいい。たまごの殻とティーバックをゴミ箱に捨て、ついでにミルクとマヨネーズを冷蔵庫から持ち出す。余談だが、我が家と書くと一層実家味が増す。なんとか味なんて言葉使いはJK味が増すだろうか。

私がJKでないこと、それだけは確かだ。でも、女子大生でもOLでも、イケおじでも父親でも、一人暮らしでも実家でも構わない。ただ、都心の11階、朝日も降り注ぐ角部屋で生活を営んでいる。16階上には木崎さんが住んでいて、この町には高級食パンの店がある。それだけだ。

私は、自分の分の食器を洗って、ついでに自分の顔も一緒に洗った方が楽だななんて思いながら、その割には慣れた手つきで身支度を整え、最後に服を着替えた。

季節に馴染んだ長袖は、いつ、はたまた誰が、用意したのだろう。秋は、一人でにやってくるが、本当にそうなのか半信半疑だ。クローゼットの秋服は、どこからともなく一人でにやってきはしないから。カードキーだから、後ろを振り向くこともなく、家を出た。駅までは徒歩だ。今日の、私の1日が、始まる。

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