リストラ 1
リーマンショックで、世間では失業者が増加傾向にあるとニュースで取り上げられていた頃、我が家では何の問題もなく平和な生活を送っていた。テレビを見ながらまるで他人事のように、「職を選んだら仕事は見つからないよ」と夫婦で同じ感覚だったのだろう。
愛知に転勤で移動し、1年が過ぎようとしていた初夏だった。この頃から、我が家に想像もしていなかった事が起こり、ガラガラと音を立てながら人生設計の歯車が壊れ出した。ある日、
「今日は部長面接が社員全員あるらしいわ。不景気だし嫌な話だろうな」
と言いながらも、自分には全く関係ない話だと思い、普段通りに出勤した主人から連絡があったのは夕方だった。
「早めに帰るから家に居てくれ」
と連絡が入り帰って来た主人が口にしたのは、
「仕事、辞める事にする」
との突然の思わぬ言葉だった。
「え?誰が?何言ってるの?」
「え?会社が倒産したの?それともパパだけ辞めるの?」
と理解出来ない私は、彼に色んな質問をしても彼は何も答えず、沈黙の時間が続き長い夜を過ごす事になった。少し落ち着いた時、主人の口から会社で話し合ってきた辞令と、自分の会社や仕事に対する気持ちを聞くことが出来た。
世間一般に耳にする、リストラだった。
色んな条件の話など私にはわからない事ばかりで、彼の気持ちを考えて「辞めちゃえ」と言ってあげたい気持ちもあるけれど、そんな簡単な事じゃない。今まで有給も殆ど取らず、会社の愚痴も家で話さない主人がリストラ対象になるとは想像もしておらず、誰よりも驚いていたのは彼本人だろう。この返事を数日で決断しないと言う状況に追い込まれている主人に
「どうするの?辞めて仕事すぐ見つかるの?」
と言っている私がいた。言葉も出ない彼を見て我に返り、その時私が出来た事は黙って抱きしめてあげる事だけだった。
「パパが辞めたいんなら辞めちゃえ。パパならすぐ仕事見つかるよ」
と彼に言うと、私の言葉で安堵したのか、彼の目から涙がこぼれ2人で言葉に出来ず涙したのを思い出す。