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不妊症②電話の勇気が出ない

わたしは今どき珍しい6人きょうだい。
6人を安産した親の子。
姉も、今どきにしては子だくさん。

だから、「わたしは授かれる」という謎の自信があった。

11ヶ月。ゆるく区切れば一年以上。
時間をかけて、それは打ち砕かれていった。

できないことに苦しんでいるのに、できない事実を認められなかった。
認めてしまうのが怖かった。
その後に待っている未知の治療が、恐ろしかった。

でも、夫は違った。
周囲に経験者がいたので、夫にとって不妊治療は、比較的身近な手段だったそうだ。
夫側が非協力的なことも多いこのご時世、なんて幸運なことだと思った。

行くならここのクリニックかしら?
と、近場の不妊治療を謳ったクリニックの診療内容や実績、専門医の数などを調べ、目星はつけていた。

ただ、勇気が出なかった。
検査を始めたら、原因がはっきりとしてしまう。そうしたら、今の夫婦の関係が変わってしまうのではないか。
不妊といってもまだ1年未満。今周期こそ授かれるのではないか。

「不妊治療を希望していて…」と、言葉にして、声に出すと、事実が確定してしまう。それが恐ろしくて、初診予約の電話をできずにいた。

そんな風に1ヶ月、また1ヶ月が過ぎた頃、
生活の忙しさが落ち着き、夫は突っ込んで聞いてくるようになった。

「専門病院の予約はとれた?」

…いいえ、神風怪盗ジャンヌのまろんちゃんみたいに、最後のワンプッシュができずにそっ閉じしました。きょるん…。


「1週間経ったけど、電話できた?」

…じゃあ君が電話してよ!と言いたかったが、そのクリニックは「婦人科」を掲げていた。妻がする方が自然だ。仕方ない。
「まだ…仕事終わりに電話すると時間外になっちゃって…。なかなか繋がらないんだからね!」

院田唐音。ツンデレのふりをして引き延ばすのも、遂に限界がきてしまった…。


わかってる。
このまま同じことを続けても授かる確率は低く、夫婦は年齢を重ね、いざ取れる手段は減っていく。
だから、やるなら早い方が良いことは。



週末の12:00。診療時間ギリギリまで勇気をねるねるねるねし続け、観念した。
話を進めたければ、事実を認める他ないのだ。

ピポパポパ。

粘りの強くなった勇気を絞り出した指で、
電話番号を打ち込み、
えいやッと通話ボタンを押した。

「はい、〇〇クリニックです」
「…あの、不妊治療の初診を予約したいのですが」
「今からだと、○月○日の予約になりますが、それでもよろしいですか?」
「はい。その日の〇〇時でお願いします」
「承知しました。受診お待ちしております」

ガチャッ。

終わった。
なんとシンプルな通話。
なんて簡素なコミュニケーション。
こんなすぐに終わることならば、もっと早くかけておけば良かったかな…。

頭がすっきりしていく一方で、なんだか気持ちの方が追いつかず、泣けてしまった。

泣きながら夫にLINEをおくる。
「予約とれたよ。」


良かったんだ。
これで、前に進むことができる。

わたしたちは、不妊症。

恐ろしいけど、きっと二人で乗り越えていける。
あとは、覚悟を。


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