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カリンさんは好きなポケモンで勝てるように頑張れって言うけどさ

我が青春、ポケモン。

わたしのゲーポケは初代版の小学館公式攻略本から始まる。幼すぎてゲームを買ってもらえなかったので、姉のプレイを横から眺めつつ、適宜攻略本を読み上げガイドする役割だった。あと旅の合間のレベル上げ。今思うとひどい舎弟扱いだ。

自分はプレイ出来ないのに穴が開くほどマップや図鑑を見つめ、妄想し、若かりし記憶力を無駄遣いしていた。


小2の頃にやっとお古のピカチュウ版を譲ってもらうと、もう嬉しくて仕方なかった。メモ帳にちまちま151匹のチェックリストを作って、覚えた攻略本の知識を駆使し、どんなに出現率が低くても野生で出るポケモンは全て野生で捕まえる。今思えば立派な縛りプレイだ。カモネギが全然出なくて永遠に12番道路に居た記憶がある。遂には通信しないと手に入らないの以外の図鑑は揃えたっけ。


その次は、友人Aちゃんから公認借りパクしたクリスタル版。この頃友達とゲームすることを覚えたので、マップ攻略や図鑑収集もさることながら、対戦で勝つことが目標になった。尚更に姉の攻略本が千切れるくらい読んで取り組んだ。

何の意図か、公式から「レベルが上がるまでに数を倒す方が強くなる」だの、各ポケモンの絵の横に★★★の三段階能力評価が添えられるだの、「強いポケモン」に関する情報を小出しにしてくるようになった。だから幼きわたしは大真面目に、ワカバタウンの横でレベル2のオタチとポッポの屍を積み上げまくった。

『ほんとうに つよい トレーナーなら すきなポケモンで かてるように がんばるべき』

あの頃のわたしはカリンさんの言葉を純粋に受け止めていた。好きなポケモン。苦労して捕まえた思い出のカモネギ。ピカチュウ版から連れてきて、一生懸命育てていた。★⭐︎⭐︎ばかりのお前だけど、オタチとポッポを積めば、長ネギを持てば、きっと強くなれる。


でも、Aちゃんに勝つことは出来なかった。伝説ポケとかカイリューとか平気で使ってくるのがそもそも汚いし(言いがかり)、日夜パパと対戦スキルを磨く猛者だから、きっとわたしにはがんばりが足りないんだ…。己の弱さを呪った。


そんなこんなを経て、多くの子どもが思春期にポケモンを卒業するのに追随して、わたしも中学卒業の頃にはポケモンを遠ざけた。


リメイク商法にまんまと引っかかって戻ってきたのは、大学生になってからだったか。大学生のわたしはネットを自在に操る。


ひとたび検索をかけると、ネットは攻略本では知り得ない生々しい情報に溢れていた。種族値個体値努力値、遺伝に厳選、性格補正、etc.etc.……己の無知に驚愕した。
Aちゃん。やたら裏技に詳しかったAちゃん。勝てなかったのは、友情努力勝利とかそういう単純な話ではなかった。明らかにパパからの入れ知恵じゃねぇか!!!!!


ポケモンは、就活に疲れきった心に寄り添ってくれた。自尊心がゼロになったわたしはBWの世界に2週間引きこもり、シャンデラとコジョンド、ムシャーナの努力値を貯めまくった。厳選はそこそこでも、手塩にかけて育てれば強くなる。愛情もわく。思い描いた通りに動いてくれる子はかわいいんだ。


でも、ああ。人は失敗を積み重ねて強くなる。


実は、この前にヤドランを育てていた。ちゃんと育てればめっちゃ強いポケモンだ。しかし、このシャンデラたちと比べると、どーーも中途半端な働きぶりだった。突破力もないし、耐久力も欠ける。なぜ。

それもそのはず、石橋を叩いて叩いて叩くだけの性格のわたしは、一つの能力を選びきることが出来ず、3.4種の能力に努力値を振ってしまっていたのだ。もちろん性格も気にしていないのでマイナス補正。

初めて沼の中で育てたポケモン。愛着があるので手放しはしない。しかし、後任の専門アタッカーが成熟してしまうと、ヤドランは試作品のレッテルを貼られ、活躍の場の多くをシャンデラとコジョンドに譲った。


ゲーポケは、ストーリーが子どもっぽいなんて言われるが、わたしからすれば
あまりに世知辛いゲームシステムをオブラートに包んでいるだけだ。


半端な努力で就活に敗れ続けたわたし。
何もしなけりゃ泥、足掻いても三番手くらいまでにしかなれないわたし。
今でも願望を叶えられないわたし。
あの日のカモネギとヤドラン。

ポケモンは、社会の縮図だ。


種族値は悪かないけど、個体値はそんな高くないし、世渡り上手な性格ではない。情報を掴みにいって、努力値をもっと真面目に、戦略的に振って生きるべきだった。


本当にやりたいことなら、
好きな自分で勝てるようになるべき。

カリンさんの言葉をこう言い換えて、己に鞭を打つ。みっともなくていい、嫌いなら好きになれるように戦えばいい。経験値だって力だ。でも年齢は可能性だ。

大体、カリンさんは表現に手を抜きすぎだ。小学生に「がんばるべき」なんて言っても真意まで伝わるわけがない。ササンさんなら、カリンさんみたいに優しくないのでぼやかさずにこう言う。


『にんげんも ポケモンと おなじ
種族値と 個体値は
うまれたとき から きまって いるの

努力値を いつ どう ふるか
じんせい それで きまりね』


強いと弱い、どっちが好きかは人の勝手だ。
でも、選ばれやすいのは強い人間。
努力値をリセットする道具は現実にはない。
弱い人間が勝とうとするなら、失敗すら計算して強くならなければならない。


考えすぎない方が幸せなんだろうけど、楽しいものには毒があるもんだ。







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