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小説『あなたのご希望の条件は』問われた30代

閉館5分前の図書館で、ジャケットだけで選んだ一冊。久しぶりに読み切れて、直感が当たって嬉しい。


会社員のお話が好き。ファンタジーやサスペンスみたいに激しい起承転結はないが、友だちの話を聞かせてもらう感覚で読めるから。

主人公は、転職エージェントとして働くバツイチ40代女性、千葉香澄。仕事ができるのだが、周りから「もっと自信を持って」と言われている。

もし香澄にキャリア相談に乗ってもらって「あなたの希望の条件は?」と聞かれたら、
わたしは何と答えるのだろう。

転職で希望する条件は?

今は仕事が好きな人たちと働いて、それなりに楽しくやれている。けど業界が狭くて、一般企業の5年遅れと言われているので、作中の一ノ瀬みたいに、転職でキャリアアップを目指したいな。え、給料?そんな、そんな〜。

どこまでやれるか 自分を試したいの
本当は転職したいのよ 私

事務のままで 業界未経験で
裁量あって プライベートもちょうど良い
そんな30代 向けの求人
少しもないのでは

はい。何を隠そう、わたしのステータスは、結婚済み出産希望の女。最近は月に2-3回かそれ以上突然休むので、我ながら、扱いづらい人材なのは事実。現状に感謝。

就労と通院との両輪の生活は、誰もが体験するものでもないから、ある意味興味深く、人生経験になっている。管理職とかになれば活かせるとは思う。でも、職務経歴ではないんよ。

仮に子を産めたら、むしろ新たな課題発生。
四谷という登場人物は、家庭持ちでリストラにあった男性。彼の転職条件を聞いても、仕事と家族経営は、男女関係なくいつの時代も、切り離して考られないのだなと思う。

不妊治療をいつ、どう締めくくるか。
その運と選択の先に、キャリアの分岐点もある。

20代に比べて、やり直しが難しい30代の転職市場。プレッシャーは日々増大している。のを、見ないようにしている。気持ちだけが先に行きすぎたら空回りするって、痛いほど学んだから。

やりたいことは渋滞してるけど、自分はそんなに器用じゃない。急がば回れの順番こで。


プライベートで希望する条件は?

同期入社の栄子は、ちゃきちゃき、はっきりしている。主人公香澄とは性格もライフステージも逆だけど、仲が良い。栄子は、離婚で心が立ち止まって動き出せずにいる香澄を放っておけず、物語中何度も進もうと働きかけてくる。眩しい存在。

わたしは、なんかもう30超えてから、ライフステージも考え方も人それぞれ過ぎて、踏み込めなくなってしまった。
それが大人だと思っている。
心地良くて、寂しい。

そんなだから、わたしは人に上手く自分を伝えられていない。今のどっちつかずの生活を、ポジティブに受け入れていることとか。

もし栄子が友だちなら、
自己投資の優先度下げて、前進するのを縛って諦めて、不幸の沼にはまっているように見えるのかな。だとしたらお誘いは善意なのに、その度断るなんて、改めて、つまらないネガティブな人間だなぁ。

ディスコミュニケーションを積み重ねると、自己肯定感を勝手にどんどん下げてしまう。


さて、希望の条件は?

揺らぐ。わたしだって、面白くなりたい。
でも、だけど、今一番優先したいのは…。

わからなくなる。好きなものたちが近くにあって、安心して美味しいもの食べていけるなら、もうそれでいいや…。
香澄を見てたらそう思える。この小説、ごはんとお酒のシーンがいつも美味しそうなんよ。


漂っている時間は、無駄じゃない

白馬の王子様も、異世界の運命を告げる使者も、現実には来ない。
疎ましくすら思える周囲の誘いに刺激をもらって、燻って、本当に今のままでいいのか、自問自答する。地味なもんだ。

香澄は、辛い言葉と甘い言葉を道標に、停滞の中に大事なものを見出した。

ああ。停滞しているからって、卑下することないのか。この物語に、無駄に思える時間も、一つ一つ誠実に向き合った経験は積もっているから、あなたも大丈夫だよと言ってもらえた気がした。

漂っている自分にも自信を持って良い。
思う存分探索したから発見できることもある。

ずっとバタ足してると疲れちゃうから、
時々休んでは景色を見回して受け入れて
自分のタイミングで、続きを泳げばいいや。


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