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不妊症⑤出会えないわたしたちの選択

検査の結果、出会う場所である卵管が使い物にならず、医療の手を借りなければ、ほぼ授かれない現状がわかった。これまで一年の妊活がほとんど無駄だったことも、わかってしまった。

子どもが好きな夫。我が子とはどんな風に遊ぶんだろう。その子はどんな子だろうと、わたしも楽しみにしていた。
ごめんね。
わたしのせいで、できるはずがなかった。いつからだろう?なぜだろう?心当たりも病歴もない。

悲しみに暮れるのは得意だ。

だが、ここで立ち止まるような時間はない。
道は途切れてなどない。
松明を灯し、敵を倒しながら、行くしか。

神は乗り越えられる人にしか試練を与えない?
うるせぇ。わたしの病気だ。神は黙ってろ。

独り帰宅する電車の中。
もうわたしの心は決まっていた。


右卵管閉塞、左卵管狭窄(ほぼ閉塞)

原因分析よりも、この病名と、夫の検査を含む各種結果を共有する任務を全うしよう。

男性より女性が受ける種類が圧倒的に多い、不妊の検査。検査当日に、独りでそのまま結果を聞けてしまっていたので、どうしてもわたしの方が持っている情報が多くなる。

妻は、夫への説明責任を負うのだ。
くそう、医者と同じ説明が一般人のわたしにできるわけなかろう。やはりずるいぜ、男。仕方ないが。

エビデンス武装作戦

うちの夫は理科系の男なので、もしものとき押し負けないように、エビデンスのある情報を用意しておきたい。

図書館で、とある本を探す。
あった。『病気がみえる』シリーズの産科婦人科の巻。早速借りて帰った。

ネットは、医学とスピリチュアルと商売と体験談と、色々な情報が混在していると感じることも多く、精査が難しい。通院先は混雑しているし、根掘り葉掘り全ての疑問をぶつけるのも気が引ける。
『病気がみえる』は、生殖医療の基礎知識が書いてあり、わたしにとっては正しくわかりやすかった。

夫には、臓器の絵があるページを見せながら、できるだけ医師に言われた通りに説明を試みた。
今、わたしたちが置かれた状況は。

この作戦はなかなか良かった。
夫だけでなく、わたしも、メンタルに引きずられず、客観的に事実を捉えることができた。

選んだ分岐路の先は

医師から提示されていたのは、三択。

①通水治療
残された左から排卵することを期待して、通水しながら自然妊娠を目指す。ただし、左の狭窄部を卵が通れる保証はなし。左右交互に排卵するものでもない。(後からわかったことだが、わたしはほとんど毎回閉塞側の右から排卵していたので、この方法を選んでいたらさらに半年程無駄にしている。)

②手術で卵管を通す
年齢と検査所見からは、FT(卵管鏡下卵管形成術)をやってみる価値がある。
日帰り手術で詰まった卵管を広げた後、自然妊娠を狙う。20-30万円の保険適応の手術で、高額療養費制度が使える。術後再閉塞の可能性があるので、半年を目処に体外受精を勧める。

③体外受精
卵管を使わなくて良いなら、勧められる。
Q.注射とか大変なイメージのやつですか?
A.そうなりますね。




できるだけ誘導しないように伝えたつもり。
夫に先に聞いてみる。
「あなたは、どう思う?」
すると、逆に君はどうだと返されてしまった。君の身体だから、まずは君がどうしたいかだと言ってくれた。


自分の思いを伝える。
選ぶには、どんなときも勇気がいる。

「運頼みも、怖いのも本当は嫌だ。①は絶対なし。あと、自分に何回もホルモン注射するのが今はまだ恐ろしい。可能なら③も避けたい。無駄足かもしれないけども、わたしは②を選びたい。」
「じゃあそうしよう!!」え、

え、返事早くない?ちゃんとわかってる?一緒に考えてくれた?一旦悲しみに暮れたり恐れたりしないの??
あまりにも応答が早かったので、確認してしまった。
だけど。理解したうえで、納得してくれていた。
推進力のある人は、まるで生態が違う。


いくつか残る疑問を聞きに、週末にまたクリニックを受診した。今度は、夫とともに。

質問で不安が消えたと見るやいなや、あれよあれよと治療計画書が作成され保険診療の手続きが完了し、あっという間に月末の手術が決まった。

こうして、卵管を手術で治してもらい、自然妊娠を目指すことになったのだった。

二人で選んだ道を、ぐんぐんと進んでいく。
この道はどこまで続いているのか。抜けた先は暗闇か、夜明けか。
わからない。
わからないけど、行く。
進む先があるってありがたい。



そして、現実を受け入れつつも、やっぱり、
手術を受ければ「じゃない方」から抜け出して、きっとすぐにでも授かる側の人間になれると信じていた。


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