毒親と言わないで 08

潔癖症

母の潔癖症は異常だ。
本人は潔癖症では無いと言うが、その対応はハッキリ言って常軌を逸している。
前回記載した「友人の選別」もそうであるが、誰かが家に来ると、その痕跡を徹底的に消してしまう。
マンションの管理会社が来ると言うようなことでもそうだ。
来訪前、既に「来訪者」が通るべき場所にシーツを敷いて、そこ以外通させないようにする。「来訪者」が帰ると、シーツを洗濯機に放り込み、廊下を拭き、触られたドアノブを徹底的に消毒する。
まるで誰も来なかった、自分の家族しかここには居ません、とでも言うような徹底ぶりである。

これは外でも同じである。
3回ほど入院した母であるが、その時は全て個室。
「誰かとお手洗や水場を共有するなんて気色悪い」
と言う理由である。
父も、私も、その感覚は全く理解不能である。
私も5回ほど入院して、都度相部屋なのだが、様子を見に来る度
「気色悪くないの?」
と聞いてくる。
いや、貴方の態度の方が気色悪いよ。


この、母の異常な潔癖症のために、私は幾度となく趣味と呼べる物を止めてきた。

今で言うゆるキャラのアイテムを集めれば
「埃が立つ」「虫が湧く」「ほこりっぽい」
そう言い放って、気がつくと勝手にいろいろと棄てられていた。

プラモデルを組み立てれば
「掃除の邪魔」「埃の溜まり場になる」
ショーケースに入れて隔離しても、その中さえ掃除しようとする。

少し油絵や水彩でもやろうと思い立てば
「油が臭い」「道具箱が掃除の邪魔」「(イーゼルを指して)これ要るの?」「(ペンケースを指して)こんなもの、ただ場所を取るだけでしょ」
何気なくお菓子作りをして見れば
「オーブンに油がこびりついた」「道具のすすぎが足りてない」「チョコレートが排水管にこびりついてる。取るのはお母さんなのよ?」
結局、全部止めてしまった。

実家が転居することになり、そのついでに自立しようとしたのだが
「新しい家はペットOK。犬を飼って良いから、一緒に行こう」
と言うので、とりあえず新居に行ってみれば
「汚い脚で歩かれても困る」「犬の毛がカーペットに絡まったらどうするのよ」「臭いとか考えたらあり得ない!」
と言われて反故にされた。
そこで、当時SONYからAIBO(初代)が発売されていたので、奮発して購入した。流石に、ご飯食べない、臭いは無い、毛も落ちないと思っていたが
「アレが動く度に埃が舞う」「掃除しづらい」「埃を吸い寄せて汚い」
とまで言われ、結局封印した。
(仕舞っただけで、今でも実物は実家にある)


と、こんな感じで
何しろ自分の周りに、少しでも”汚点”を発見すると、発狂してそれを消しにかかる。
自身が出かけたときもそうで、帰ってくると全ての服を洗濯し、全身をキレイに洗い流さないと気がすまない。持ち出した鞄も、ピカピカになるまでいつまでも磨いている。
それ故に、旅行などとても行けない。
よく、両親に旅行をプレゼントとか言うが
父は乗り気なのだが、母がこれなので、プレゼントする気にもなれない。
なにせ、私が旅行に行って、買ってきた土産を受け取ったら、それすら徹底的に消毒してしまうのである。
もはやゲンナリを通り越して、薄気味悪いとしか言いようが無い。


そしてついに
私が強烈な鬱にさいなまれ、医者に行くと言った時
「精神病!?止めてちょうだい、どういうこと?ああ、イヤだイヤだ。精神病院なんて、なんて気持ち悪いんだろう。そんなところに行ったなんて、絶対誰にも言わないで!話もしないで!!」
と、言うと、母は泣き叫んで自室に引きこもってしまった。
母にとっては、子の苦しい思いすら、穢らわしい”汚点”でしかなかったのである。私は、絶望した。

結局今でも母の中では、私は鬱病では無い事になっている。
その話をすることは禁じられている。
病院に行っている事も、見聞きしなかったことにされている。

父も、自身が苦境を耐え抜いた人生があるせいか、私の辛さに対して理解を示すことは無かった。

誰にも理解されないまま
私はただ、薬だけを頼りに、ただとにかく働かざる者食うべからずの精神で、「普通の人のフリ」にしがみつきながら生きていくしか無かった。
それはあまりにも過酷で、孤独で、血を吐くような生活だった。
さらに私は氷河期世代。社会からも使い捨てにされて、理解を得られない環境だった。
それは私の精神に、疑心暗鬼の臆病さと、無感傷であろうという達観を刻み込むには充分だった。

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