トパーズ~虹と共に~〔5〕
≪5≫
【1】
さっきまでの雨が嘘のように綺麗な星空。
雨が全てを綺麗に押し流したように雲を探すのが大変なくらいに空には星が散らばって月と一緒に俺を見下ろしている。
言ってしまった……。一生言うことはないだろうと思ってたのに……。
おっきな目を更に大きく見開いて驚きを隠せない……。そんなサーヤの顔が頭から離れない……。
『あぁぁっっ!』
俺は叫びながら目の前にあった小石を蹴って頭をかいた。
カツ、カツ、カツ……。
誰もいない夜。辺りに響き渡るのは俺の足音。それと風に揺れる木々のざわめきだけ。百合の花束とワインを右手に、左手にはワイングラスを持ち、奥へ奥へと進む。自分の衝動的な行動に俺自身も動揺してた。丁度いいところに響が帰ってきてくれて助かった。響がサーヤの部屋に入っていくのが見えた。俺は階段の下からそっと様子を伺っていた。
何か話し声は聞こえてくるが小さい声なのと、下に居る為に話の内容まではよくわからない……。そんな状況からも少しだけ聞こえてくる声。
―――『嫌いなわけない!』―――
というサーヤの声。俺のコトか? 俺のコトだよな……。嫌われてはいないと少しだけ胸を撫で下ろした。とは言え、沈黙を破ったのは俺……。不安は俺の心を支配する。
暫くするとサーヤの部屋から笑い声が聞こえ始めた。たまには響が役にたつこともあるもんだ。サーヤの部屋から笑い声が聞こえてきたことに安堵感を覚え、俺は玄関のドアをそっと閉めて車のエンジンをかけた。
目的の場所に着いた。花束を置くとバサッという音と同時に揺れて月明かりに照らされた。
ポンッッ。
トクトクトク……。
ワインを開けた音と二つのグラスに注がれるワインの音が静かに響く。
『ごめんな、俺、車で来てるから一緒に飲めなくて……』
そう言ってネックレスを握り締めながら前を見つめた。そう、ココはミスターとヨーコさん、それからばあちゃんが眠る墓地。生きてる時からミスターとヨーコさんは
『眠るなら星がたくさん見える丘の上がいい』
と言っていたから突然の訃報の後、涼さんと俺が必死で走り回って見つけた墓地だった。意外にもサーヤの家から車で40分も走れば着く所に売り出し始めたばっかりだったこの墓地を見つけたんだ。
俺と涼さんは迷うことなくココに決めた。
ばあちゃんも
『いい所をみつけてくれてあの子達も喜んでるわ。ここなら私達の街も見えるもの。本当にありがとう』
って涙ぐんでたっけ……。まさかそのばあちゃんも後を追うようにココに眠ることになるとは思わなかった……。
『ごめんな、ばあちゃん。今日もミスターとヨーコさんと話があるんだ。今度来る時はばあちゃんにもお土産買ってくるから……』
百合の花はヨーコさんが大好きな花。ミスターからのプロポーズも百合の花と一緒だったって嬉しそうにヨーコさんが話してた。ワインはミスターが大好きだった銘柄を持ってきた。
『ミスター、ヨーコさん。
ごめんな、俺……、俺は……。サーヤには手は出すまいって決めてたんだ。ミスターとヨーコさんの分まで見守り続けていくつもりだったんだ……。こんな感情、抱くつもりなかったんだ……』
丁度鎖骨の窪み辺りにあるネックレスに付いた琥珀色した石。その石を握り締め、俯きながら言った。
―――『素直になったっていいんじゃないの? いつまでも今のままじゃい
られないんだし……。許されない状況でもないでしょ?』―――
あの日の涼さんの言葉が頭の中を駆け巡る。
『涼さんの言うように……。俺、いいのかな?突っ走っても……。ミスターとヨーコさんの宝物に……。俺……、このまま感情に流されてもいいのかな?
……一度、一度堰を切ったら感情の流れは塞き止められないよ?』
フワッと俺の頭を、頬を風が触れた気がした……。ミスターがよく俺の頭をグシャグシャっと撫でて誉めてくれたみたいに……。ヨーコさんがよく俺の頬に手をやって話すみたいに……。その瞬間、俺の瞳から涙が一筋流れ落ち、百合の花びらを揺らした。
次の日、涼さんがレノンより一足早く帰国して帰宅した。
『ただいまー♪』
『なんで涼さんだけー! 涼さんじゃなくてレノンが帰ってきてくれたらいいのにーっっ!』
って響はふて腐れていた。
『仕事なんだからしょうがないでしょう。私は一緒に仕事をするは初めてのスタッフだったから今後の為にも、ちゃんと挨拶しに行っただけなんだから』
『ぶーーーっっ!』
携帯を響に向けてフラッシュを焚いてやった。
『ぶっさいくだぞー響。この写メ、レノンに送ってやろっ♪』
『レノンだったらそんな私も可愛いよって言ってくれるもん』
『もんって……。女子高生じゃあるまいし……。んなわけないだろ、奴もお腹抱えて笑うさ』
『そんなことないわよっっ! そんなこと……』
『はぁ、あんた達のやり取り聞いてると現実に引き戻されるわ。
あら? 紗弥加は?』
『……………』
俺が黙っていると響が代わりに答えてくれた。
『紗弥加は明日休みだし、智香のトコに泊まりに行ったよ』
『そう、珍しいわね。どちらかというと智香の方が来そうなのに……』
『本当にね〜?』
そう言うと響は俺の方をチラッと見た。さすがは女(?)の勘が働いたようで涼さんが俺の頭を叩いた。
『イテッッ!何すんだよ!涼さん!』
『うるさいっっ! あんたが何かしたんでしょっ!』
『うっ………』
口ごもった俺を見て響が気を利かせてくれたのか
『私は友達とご飯食べに行ってきまぁす。今日はレノンもいないことだし……。ジェイ、あんた、迎えに来なさいよ!』
『おまっ……。タクシーで帰ってくりゃいいだろっ。
………、電話しろよ』
『じゃぁね♪』
ポンと俺の肩を叩いて響は賑やかに出掛けていった。
『ジェイ、コーヒー、入れてくれない?』
沸かしてあったコーヒーをマグカップに注ぎ涼さんの目の前に置いた。
『あんたも飲まないの?』
『……………』
俺のカップにもコーヒーを注いだ。
『座んなさい』
『……………』
俺は黙って涼さんの前に座った。
『で、何かあったんでしょ? 話してみなさい』
俺は俯きながら昨日あったことを話し始めた。その後ミスターとヨーコさんのお墓に行ったコトも……。暫くの沈黙が怖かった。
そして、大きく溜め息にも似た息遣いで「ふぅー」っと息を吐き、静かに涼さんは話し始めた。
『やっと素直になったのね。正直、今まであんたはよく演じてきたと思う。前にも言ったでしょ? 別に許されない状況でもないんだからって。後は紗弥加が決めることだわ。一樹も遥子も怒りはしないと思うわ。
ようやく探し物を見つけたねって笑って言ってる気がするもの』
てっきり怒られると思っていた。確かにあの日、素直になれと言ったのは涼さんだけど、昨日のあの状況下での行動には絶対に怒ると思っていたのに……。サーヤのあの精神状態につけこんだ形になってしまったから……。
『ただしっっ』
ハッと顔を上げて涼さんを見ると、
『数多いる女どもとは縁を切りなさい! 今のあんたの素行では紗弥加が傷つくのは火を見るより明らかだわ。わかった?』
『ばっ………、当たり前だろ、そんなこと……』
そう、昨日、ミスターとヨーコさんにも誓って帰ってきたんだ。
『まぁ、昔からあんたのその素行の理由はわかってたけどね……』
そう言って俺の肩に手を置いて留守中に貯まった仕事を片付けてくると事務所に向かっていった。
涼さんは知ってたんだ……。
≪5≫
【2】
響ちゃんとは昨日ジェイと今まで通り接するって約束したもののやっぱり昨日の今日では顔を合わせ辛い。幸か不幸か響ちゃんと話しているうちにジェイは何処かへ出掛けたようで朝起きてもジェイは居なかった。智香に電話して
『泊まりに行ってもいい?』
って聞くと智香は何か勘づいたのかすぐに
『待ってるね』
と言ってくれた。一泊するだけだからそんなに大きな鞄もいらない。必要な物だけ鞄に詰め込んでドアを開けると響ちゃんと会ってしまった。
『響ちゃん……。あの……、智香の家に泊まりに……』
言い終わる前に響ちゃんは優しく微笑んで、優しく抱き締めた。
『ゆっくりしておいで。智香にもいっぱい聞いてもらったらいいよ。明日にはそんな強ばった偽物じゃなくて本物の笑顔で帰ってきて』
『響ちゃん……。ごめんね、昨日、約束したのに……』
私は『いってらっしゃい』って言って手を振る響ちゃんに手だけを振って家をでた。自転車を走らせ智香の家に向かう。智香の家に着くと笑顔で出迎えてくれ、智香の部屋に向かった。智香はジュースとお菓子を持って部屋に戻ってきた。いつもはそう感じないんだけど、昨日の出来事があっただけに今日はこの部屋は少し居心地が悪い……。
だって、あっちこっちにジェイがいるんだもの……。レノンや響ちゃんはいいんだけど……。四方八方からジェイに見られてる気がする……。
智香、今日だけはそのミーハーっぷりを恨むよ……。
俯いたままの私の目の前に机を挟んで座り智香は
『なんかあったんでしょー』
『…………』
無言は当たりと受け取ったようで
『昨日別れてからってことは俊介がらみじゃないよね?』
す……スルドイ……。
『ジェイがらみ?』
何故にそんなにするどいの、智香……。
『実は……』
とジェイに「好きだよ。」と言われたことを白状した。
『やぁっぱりぃ〜』
『? なんでやっぱりなの?』
チッチッチッ
と智香は舌をならしながら人差し指を顔の前で左右に振った。
『智香さまの眼力を舐めてはいけません。前々からふとそんな気がし始めてたんだよね〜。で、この前の体育祭で悟っちゃったのよね』
と今度は腕を組んで目を瞑りウンウンと頷いた。そう言えばあの日、響ちゃんが言ったことに智香は「しっくりきた」って言ってたっけ……。
『智香、なんで悟っちゃったの?』
『ん? だってさ、あの日、ジェイってば俊介に異様に反応してたし、それに響ちゃんが「俊介ってどの子?」って聞いてくるし。で、その後響ちゃんがあんなこと言うし。そこでピピピとアンテナたっちゃったってわけ♪』
組んでいた腕をほどき人差し指を立てて今度は頭の上に持っていった。どうやら人差し指はアンテナを表しているらしかった……。
『そっかぁ……。告白された上にキスされちゃったのかぁ』
じぃぃぃっと私を見つめて
『紗弥加とキスしていい? そしたら私もジェイと間接キスだよね』
って真剣な顔をして私の両頬をつかんだ。
『と……智香っっ!』
『プッッ、冗談だよ♪』
智香のは冗談にならないんだってば……。
『智香、私、どうしたらいいと思う?』
『私は響ちゃんが言うようにゆっくり決めればいいと思う』
『うん……。やっぱりそれしかないよね……』
と響ちゃんと同じコトを言われてしまった。確かに、考えたってすぐには答えなんて出ないもんね……。ひとまず納得したところでタイミングよく智香のお母さんがご飯ができたことを告げる声が聞こえた。久しぶりの智香の家にお泊まりだったからなんか二人とも妙にはしゃいでしまってなかなか「寝よう」という言葉も出てこなかった。でも、時間も時間だったし、一応布団に入って部屋の電気も消すことにした。
『………、紗弥加、寝た?』
『………、寝てない』
『ねぇ、紗弥加。ちょっと疑問なんだけど、好きって言われてキスされたのはわかったけど……。なんでそんな状況になっちゃったわけ?』
『………………』
智香は知らないんだった……。そして、私が雨と雷のコトを初めて話したらびっくりしてた。あれから随分経ってるし、誰かしら傍にいるからあんな状況に一人になることもなかったし……。
確かに小さい頃はひどかった……。雨と雷の日は泣き叫んでパニックになってた……。その度にジェイや涼パパが必死で私を宥めてくれていた。
そうだ……。
いつだって私のところに駆けつけてくれた。どんなに仕事が入ってても何故か早く終わったりして必ず駆けつけてくれた……。
『それを聞くとさぁ、なんか昔からジェイとは不思議に繋がってる気がしてくるよねー』
『うん……、そうだね……』
言われてみればそうかもしれない……。
『なんかそう思ったら縁の無さそうな俊介が気の毒になってきた……』
と神妙な口振りで俊介の名前が出てきてびっくりしてしまった。
『だってさ、俊介の時はそんなに悩まなかったじゃない? ある意味、そんな対象にはならないってコトなんだよ』
そういえば、智香と響ちゃんに相談はしたもののあんまり悩んだりしなかったような……。そう考えると俊介は何か違うような気がしてきた……。
月曜日、俊介にちゃんと返事をしよう。返事はいらない。って言われたけど、それに甘えてあやふやにお茶を濁すようなコトもできないし……。ひとつ心からシコリが落ちたような気がした。
涼パパはジェイのコト、気がついてたのかなぁ……。響ちゃんもレノンも知ってたんだもん。やっぱり女(?)の勘で気がついてるかも……。
パパ、ママ……。
こんな時はやっぱり居て欲しかったなって思う……。相談にのって欲しかったよ。
『紗弥加、俊介にはごめんね、って言うの?』
えっ? 智香、あなたはエスパーなの? なんでわかっちゃうの……?
『何年一緒にいると思ってるのさ。紗弥加の行動なんてお見通しだわよ。おやすみ♪』
『うん……。そうだね。おやすみ♪』
智香はやっぱり凄い。智香パワー貰ったよ。ちゃんと前を向いて進めそうな気がした。
≪5≫
【3】
サーヤは智香の家でどんな会話をしてるんだろう……。酷いっ……とか、やらしい……とか、不潔よ……とか……?突然の出来事に驚いたけど嬉しい♪……とか?
それはないよな、智香じゃあるまいし……。そんな考えを張り巡らせて悶々としながら過ごしていると
♪♪♪♪〜
携帯が呼び出し音を鳴らした。画面も確認せずに携帯を耳にあてる。
『ジェイ〜♪ 私〜♪ ミイナだけど、今から出てこない?』
『……………』
『ジェイ? 飲みに行きましょうよ♪』
『行かない』
そう一言だけ言って電話を切った。
♪♪♪♪〜
『ジェイ? リオ〜♪ 今仕事終わったの。デートしよっ♪』
『しない』
♪♪♪♪〜
『私よ。ジェイ。今日、こっちに来てるの。〜ホテルに泊まってるから』
『帰れ』
♪♪♪♪〜
あぁぁぁぁぁっ! ウルサイッッ!
『誰だ?』
少し苛つきながら携帯を耳にあてた。
『誰だとはあんた何様のつもりよ!』
犯人は響だった……。
『あぁ、悪い……。今ドコだ? 迎えに来いって言うんだろ?』
『そうよ。駅通りの○△☆□ってバーに居るから♪』
『わかった。近くなったらまた連絡する』
車のキーを手に取りジャケットを羽織って響の言うバーに向かった。
♪♪♪♪〜
はぁ、今度は誰だ……。
携帯用のイヤホン付けて耳に着けてスイッチを押す。
『今どこにいるの〜♪ 音からして運転中でしょ? ●◆■に居るから来て〜♪』
『嫌だ』
はぁ、今更ながら俺ってやっぱりモテモテ? イヤ、そうじゃなくて素行悪すぎ?
♪♪♪♪〜
『ジェイ〜♪ わ〜た〜しぃ、ミチィ、今ね〜、友達と飲んでるのぉ〜♪ うふふ〜♪ 好きよ〜♪』
『好きじゃない』
♪♪♪♪〜
『キャシーだけど、ジェイが前に興味があるって言ってたヤツ……』
『興味ない』
あぁぁぁぁぁっ! イライラする。
『響か? 着いた』
そう一言だけ言ってバーの傍で響が出てくるのを待った。
♪♪♪♪〜
『レイナ♪ 明日の夜なんだけど空いてる?』
『ずっと空いてない』
ムカついてイヤホンを携帯から引っこ抜き後部座席に投げ捨てた。
『何やってんのよ、あんた』
そう言いながら助手席のドアを開けた。
『あぁ、響。引く手あまたなお誘いが多くてな』
『日頃の行いの悪さが仇となったわけね』
『降りろ……』
『早く車だしてよ』
チッと舌打ちをして車を動かした。カーステから流れてくる音楽に鼻歌を歌いながら上機嫌な響。
♪♪♪♪〜
『携帯鳴ってるわよ?』
『もういい……』
俺の携帯を手に取り表示された名前を見て
『レイナだってー。あの子、まだあんたに付きまとってたわけ? っていうか、あんたがいいように振り回してんだろうけどさ……』
そう言って響は携帯を元の場所に戻した。
『早く真面目にならないと紗弥加に愛想つかされるわよ?』
『……………』
痛いところを突かれた。
『そんなこと言われなくてもわかってるさ……』
『ふ〜ん、で、全部お断りしてたってわけね』
『……………』
それだけ言うと響はまた黙って鼻歌を歌い出した。
『…………、響。サーヤ……、いや、何でもない』
響に聞くのもなんだか筋違いな気がして……。本当は昨日のサーヤの様子を聞きたかったが言葉は飲み込むことにした。聞いたところで舞い上がることを言われることもないだろうし……。かといって落ち込みたくもないし……。
『響、この時間でも開いてる携帯屋知らないか?』
『あんた、寝ぼけてんの? この時間で開いてるトコなんてないにきまってるじゃん』
『だよな……』
『レノン、早く帰ってこないかな〜♪』
とレノンと二人で写ってる携帯の待ち受けを眺めながらほざく響。
『レノン病のストーカーがいなくてあっちで伸び伸び遊んでるだろ』
『レノンはあんたと違うのよ! 浮気なんてしないのっ、絶対に!……たぶん』
『おっ?いつも自信たっぶりな癖に意外に小心者なのか?』
携帯の待受を見つめながら俯いて
『自信がないわけじゃない……。かといって、自信満々にはなれないわよ……。だって、やっぱり私が追いかけて、追いかけて実ったわけじゃない? だから、私の方がいっぱい愛してると思うわけよ……』
としおらしく言った。
『レノンとはお前がレノンに出会う前からの付き合いだ。だからアイツのコトはよくわかってる。まぁ、それは逆のコトも言えるけど』
『うん……』
チラッと響を見ると携帯の待受を指先で撫でながら見つめてた。実は意外にも心配性なんだよな、こいつは……。だからなのか、大袈裟なくらいに「レノン、レノン」って言うんだ。
『その俺が保証してやる。浮気なんてしないよ。お前と付き合いだした頃はあれだけど……』
とうっかり口を滑らしてしまったが響は「知ってる」と意外にも認めた。
『今はちゃんとお前を見てるよ。心配するようなコトはしないさ。安心してろ』
グシャグシャと響の頭を撫でてやった。
『もうっっ!せっかくのセットが乱れるじゃないっ!馬鹿ジェイ!』
俺にグシャグシャにされた髪を直しながら、俺の腕にパンチを食らわしてた。
『ジェイ、私もレノンも応援してるのよ。頑張りなさいよ!』
バシッッ!
響は俺の背中を思いっきりひっぱたいて家の中に入っていった。
頑張るさ……。
言われなくたって……。
次の日、俺は仕事に向かう前に携帯を買い替えた。携帯の電話帳に必要な分以外は全部消去した。それから直接話すのは少し憚られたから、メールでサーヤに新しい番号を入れて送信ボタンを押した。意外にも早く「了解」と笑ってる絵文字を添えて返してくれた。そんな些細なコトにホッとする俺って結構単純?
仕事場に行くと何人かの女どもに
『ジェイ、携帯番号換えたでしょう? 教えてよ』
と言われたがきっぱりとお断りさせて頂いた。不良少年(青年?)とはおさらばだ。