トパーズ~虹と共に~〔7〕
≪7≫
【1】
寒さもすっかり和らいで、コートを着込んでいたのが嘘みたい……。目を閉じれば、雪の結晶をジェイと見たあの夜が昨日のことの様に目に浮かぶのに……。
空を見上げると飛行機雲が一筋真っ青な空を綺麗に彩っている。木々も若葉を広げて春の訪れを歓迎している。
今日、この日を全てが祝福している様に綺麗。大きな窓から光が差し込んでいる。
私の目の前には絵から飛び出してきたんじゃないかと思うくらいに綺麗な響ちゃん。
そう、今日、響ちゃんはレノンと結婚式を挙げる。純白の綺麗なウェディングドレスに身を包み、椅子に腰掛け窓から外を見ている響ちゃんは本当に綺麗……。
『響ちゃん、とっても綺麗』
声をかけると響ちゃんはとても綺麗な笑顔で
『ありがとう』
と言った。幸せそうに微笑む響ちゃんは本当に綺麗だった。あの日、突然の告白はこのことだった。
『私達、春に結婚することにしたの』
響ちゃんはそう言ってレノンの腕に手を回してレノンの肩に頭を乗せた。
『よせ、気は確かか? レノン! 血迷ったのか? 考え直せ、レノン』
レノンの肩を持ち、必死な形相でジェイはレノンに詰め寄った。
『あんた、血迷ったのか? はないでしょうよ!』
と響ちゃんは拳を上げてジェイに怒っていた。
『うるさいっ! 俺の親友が間違った道に進むんだぞ! 間違いは改めてやるのが俺の役目だ』
『なんですって〜!』
また始まった。ジェイもレノンが響ちゃんのコト、大事に想ってること知ってるくせに……。響ちゃんのコト、応援してるくせに……。実は誰よりも祝福してるくせに、素直じゃないんだから……。
『俺は響がいいんだよ。それはお前が一番知ってるだろ?』
レノンは自分の肩に置かれたジェイの腕を掴んで笑顔で答えた。
『チッ』
とジェイはわざと大きく舌打ちをした。そして、大きく深呼吸をして、今まで響ちゃんとはあまり見せなかった優しい笑顔で
『よかったな、響。これでようやく心配性が少しはマシになるか? だから言ったろ? 安心していいって』
そう言って響ちゃんの頭を両手で思いっきりグシャグシャと撫でた。
『もうっ! セットが乱れて美人が台無しになるじゃない!』
って思いっきりジェイの肩を殴ってたけど、響ちゃんは真っ赤になって、瞳は潤んでた。
『今日は二つも喜びを味わえて幸せだわ』
って涼パパまで涙を流して喜んでいた。ジェイは響ちゃんとレノンを順番に抱きしめて、祝福のキスをした。
そして、どさくさに紛れてジェイが私の頬にもキスをしたのは言うまでもない……。
新婦の待合室には響ちゃんにお祝いの言葉を言いに次々と人がやって来た。その度に響ちゃんはにこやかに、お礼を言っていた。響ちゃんのお父さんと2人の弟達は声を揃えて
『まさかお前が行くなんてな〜♪ 奇跡に近い』
と言い、そんなお父さんと2人の弟達にゲンコツをお見舞いしていた。
お母さんと妹は
『私がレノンと結婚したいわぁ』
と言い、
『ダメッ! レノンは私のよ!』
と大騒ぎだった。この家族で育ったことが納得なヒトコマだった。パパとママがいたら私もこんな風に? と思ったら、少し羨ましかった。きっと響ちゃんはレノンとこんなに暖かい家庭を築いていくんだろうなぁ。
トントンッ
ドアを叩く音がして、ドアが開かれる。みんなの視線が集中する。響ちゃんの表情がパァッと明るくなる。
ドアの側に立つ人影を見て響ちゃんはパァッと明るくなった顔があからさまに残念そうな顔になった。
『なんだ、ジェイか……』
お母さんと妹は黄色い悲鳴をあげて喜んでいる。
『なんだはないだろ、響。一回殴られたいか?』
『フン、殴り返してやるから』
『やっぱりレノンに考え直させないとな』
またいつものやりとりが始まってしまった……。
『ジェイ!
今日は響の晴れ舞台なのよ! そんなこと言いに来たんなら出なさい。
響も響よ。
せっかく綺麗な出で立ちなんだから花嫁らしくお淑やかにしてなさい!』
いつものように涼パパに一喝されて騒ぎは終結を迎えた。
『そういえば、レノンはどうしたの?』
涼パパがジェイに聞くと
『本番まで楽しみはとっとくってさー』
と一言だけ言うとジェイは響ちゃんの傍までゆっくりと歩いていった。
『冗談抜きで綺麗だよ、響。レノンと幸せになれよ』
と手を響ちゃんの頭に手を乗せたけど、
『今日はグシャグシャにしたらレノンに殺されるな』
と肩をポンポンと叩いた。
『うん……うん……』
響ちゃんはジェイの一言に感無量といった感じで言葉にならず、瞳に涙をいっぱい溜めて頷いていた。
『泣くなよ響。せっかくの馬子にも衣装が台無しになるだろ?』
『もう! 一言よけいなんだから、あんたはっ』
涙目になって響ちゃんはジェイにパンチをして笑ってた。そんな2人の傍に響ちゃんの妹が歩み寄ってきた。
『お姉ちゃんがレノンのお嫁さんなら、私はジェイのお嫁さんになる♪』
『…………、やめときなさい。後悔するから……』
『後悔するわけないだろ。でも……』
傍で響ちゃんとのやり取りを見ていた私の腕を掴み、ギュッと後ろから抱きしめた。
『悪いけど、俺、もう売約済みなんだ』
と私の首筋にキスをした。
『……………! もう!ジェイ!』
油断してたらまたしてもやられてしまい、顔から蒸気が上がったのがわかるくらいに私の顔や耳が熱くなってしまった。
『紗弥加、真っ赤よ? 相変わらず慣れないわね〜♪』
とからかう響ちゃんの横で
『えぇぇぇぇっっ!! うっそー!』
妹がショックを受けていた。その横で密かに響ちゃんのお母さんも
『モデルの義理の息子が2人になると思ったのに……。残念……』
と呟いていた。
『一生慣れないっ!』
と力んで叫ぶ私に
『じゃぁ、慣れるまで何度でもしてあげるよ?』
とジェイは不敵な笑みを浮かべた……。
日差しが青々とした芝生を照らして光の絨毯のようだった。緑でアーチが作られ、色とりどりのハート型の風船と白とピンクのリボンで飾られている。神父と白い燕尾服に身を包んだ新郎が新婦を待っている。
今日の結婚式はレノンと響ちゃんの希望でガーデンウェディング。
春の日差しに出席者全員が照らされ、今か今かとアーチの向こうから入場する新婦を待っている。
音楽が鳴り始め、式が始まった。響ちゃんがお父さんに付き添われ一歩、一歩、レノンへと続くバージンロードを歩いていく。響ちゃんが歩く後から出席者達のお祝いの言葉が続いていく。
『響ちゃん、綺麗………』
今日の響ちゃんは今までの中で一番幸せそうで、一番綺麗だった。
『響、君は僕にたくさんの愛をくれた。優しさをくれた。楽しみをくれた。これからも君と居ることで喜びは倍にもなり、悲しみは半減する。
僕の元に来てくれて本当にありがとう』
『レノン、あなたは私にたくさんの愛をくれた。優しさをくれた。楽しみをくれた。
あなたと出会えたことは私にとって奇跡にも近い喜びでした。
あなたの傍でずっと笑っていたい。こんな私を受け入れてくれて本当にありがとう』
レノンと響ちゃんの誓いの言葉はそれぞれの言葉で現され、誓いの口づけをした。そんな2人の誓いの言葉は出席者全員の目頭を熱くした。レノンと口づけをする時、響ちゃんの瞳からは宝石のような綺麗な涙が一筋流れ落ちた。そして、ライスシャワーを浴びながら2人は会場を後にした。
式はほぼ身内だけの少人数で行われたけれど、式で使った庭は沢山の机や、椅子、料理が並びウェディングパーティーへと様変わりをした。
ウェディングパーティーは仕事関係者も沢山来る為、人がごったかえしていた。レノンも響ちゃんも式での衣装とは違う衣装に身を包んでいた。さすがはモデルだけあってどんな格好もサラッと着こなしていた。
『レノン、響ちゃん、本当におめでとう。それに2人ともとっても素敵』
『ありがとう。紗弥加も綺麗だよ。そのドレス、よく似合ってるよ』
『紗弥加ってば元はいいんだから、もっと着飾ればいいのに』
ジェイはスルッと後ろから肩を組み、
『今日のサーヤの衣装は俺の見立てなんだ。よく似合って綺麗だろ?
綺麗だよ、サーヤ♪』
とジェイは自慢気に2人に向かって言ってギュッと抱きついた。首元に絡みつくジェイの腕を必死で振り払おうと私はもがいていた。お祝いのスピーチが始まり、ジェイもスピーチを言わされるらしく朝から文句を言っていた。
『では大トリ!
新郎の友人でもあり、事務所の同僚、新婦の先輩でもあるジェイからお祝いの言葉を頂戴したいと思いまあす』
司会の人がジェイを呼んだ。ジェイはブツブツ文句を言いながらも前へ進みだした。
『キャァッ!』
『なんだ、なんだ?』
『冷たぁい!』
突然庭に張り巡らされているスプリンクラーが回り始め水が吹き出した。スタッフの人達が慌てて止めに行き、無事に水が止まった。
太陽の光にスプリンクラーから吹き出した水がキラキラと輝き、虹が現れた。
その姿に出席者からの歓喜の声を浴びながら虹をくぐるようにジェイがマイクの前まで歩いていった。
『ジェイ、お前は一番美味しいトコ持っていくよな。主役の俺達より目立ってどうする』
そんなレノンの一言に会場全体がワッと笑いを誘った。
『まっ、スター性の違いだな♪ と、そんな当たり前のことはさておき……。レノン、響、今日は本当におめでとう。ストーカー響と付き合い出したのにも驚かされたが、まさか結婚までするとは………』
『ちょっと! 新婦のあたしを貶してどうすんのよ!』
とまたいつもの掛け合いが始まり、レノンはその横でただ、面白そうに微笑んでいた。
『それも、とりあえず今日はさておき……。レノンとは俺達が所属する事務所の立ち上げ時期からの付き合いだ。お互い突かれたら痛いとこも知ってる。だからこそ、最高の友だとも思ってる』
そんなジェイのスピーチを聞きながら私は不謹慎にもおばあちゃまのお葬式を思い出していた。
さっき、偶然にもスプリンクラーから吹き出した水が作り上げた虹。
あの日も虹がかかっていた。
あの日、差し出された優しい手……。
あの日、あの手を握った時から運命は決まっていたのかもしれない……。
こうして、今、ジェイの手をとってしまったこと。
ジェイの傍に居ること……。
私の目の前に手が差し出された。我に帰り、その手の繋がる先にはスピーチを終えたジェイがにっこりと微笑んでいた。
あの日と同じ綺麗な笑顔で……。私は差し出された手を握り、レノンの終わりの言葉を聞いていた。
そんな私にジェイは耳元で
『サーヤ、ずっと俺の傍で笑ってて。ずっと、サーヤの笑顔を守るから』
そう言って頬にキスをした。
『………うん』
一言だけ答えてジェイの肩に頭を預け、レノンのスピーチを静かに聞いた。繋がれた私の指にはジェイのネックレスに付いているのと同じ琥珀色の石が輝いている。ジェイと同じ優しい光を放ちながら……。
パーティーが始まる前にそっと渡された可愛くラッピングされた小さな小箱。その小箱にはシンプルだけど、綺麗な指輪が入っていた。
『俺のネックレスと同じ石を付けてもらって知り合いに作ってもらったんだ。だから、世界に一つしかないんだよ。サーヤと同じでね』
そう言って私の指にそっとはめてくれた。
『素敵。ありがとう。ジ……ジェイ、少しかがんで?』
『?』
不思議そうな顔をしながらもかがんでくれたジェイの頬に私からキスをした。
『大好きよ、ジェイ』
思いもよらない私の行動にジェイは柄にもなく顔を赤くした。そして、自然に私達は引き寄せられキスをした。太陽の光が差し込み、まるで私達を祝福しているかのような気がした。
エピローグ
『ジェイ、私たちからのプレゼントのネックレスのトップに付いている琥珀色の石、トパーズはね……。
ギリシャ語の「探し求める」が由来なの。
あなたが探し求めるものが見つかるようにって願いを込めているのよ』
『ミスター、ヨーコさん。俺、ようやく見つけたよ』
〜END〜
あとがき
初めましての方、初めまして。
何か他のところでお会いした方、またお会いしましたね。
ここまで読んでいただいてありがとうございました。
実はこの作品、随分と前に書いた作品でして、つたない文章など、読みづらいところもあったと思います。
今思うと設定もとってもベタだなと思いつつ、あまり手を加えずに投稿しました。
ただ、この作品の登場人物たちは私個人的にとっても大好きな面々なので、読んでくださった方も好きになって頂けたらとっても嬉しいです。
そんな方がいらっしゃったら天にも昇るぐらい有頂天になっちゃいます(笑)
この先、どこかでまた違う作品でお会いできることを心よりお待ちしてます。
ではでは、また(^▽^)/
おまけ
智香 『ちょっとぉ! どういうことよ!これで終わりってー!
後半私の出番がメールだけってどうよ!』
紗弥加『まぁ、まぁ……』
ジェイ『智香、俺のサイン入り生写真あげるから落ち着けば?』
智香 『そんなんで誤魔化されるかー!
……………でも、貰っとく♪』
レノン 響『やっぱり貰うんだ……』
涼 『やっぱり智香は楽しい子ね〜♪』
智香 『でも、やっぱり納得いか〜んっ! ウェディングパーティーも出席してたのにー! 若いモデル連れて来ーい!』
騒ぎ続ける智香にジェイとレノンは優しく抱擁した。
智香 『し・あ・わ・せ〜♪』
目はハートになり背後はピンクに染まりハートも沢山飛んだ。
紗弥加 響 涼『やっぱりそんなオチになるのね、智香……。』
〜おしまい〜
おまけのおまけ
実は下の作品、このお話の始まる少し前のお話になってます。
もし、ご興味がございましたらぜひ、ぜひ、是非ともお読みください。
勘違い? と思ってくださった優しいあなた、
間違いではなく、これは紛れもなく、間違いようもなく宣伝です( *´艸`)