「あおい」〜青と息と泡と命、そして中判報告
今日はすごくいい時間を過ごしました。
私が大好きなシンガーソングライターの水咲加奈さん。
1月6日にリリースしたばかりのこちらのMV、素晴らしいのです。
今日はその制作について語られるイベントがありました。
深い青
刺さる言葉
泡と布と水と体
この恐ろしいほど洗練された映像を撮影・監督された池谷友秀さん、水中で見事な演技をされた杉山美紗さんを招いての、加奈さんのトークです。
池谷さんは、しなやかな感性とスピーディーな判断力をお持ちの方のようで、最初からどう撮るか決めすぎずに、杉山さんとのセッションにより、撮影場所の限られた時間内でこの世界を作り上げられたとのこと。
私たちが生まれてきたときに最初にするのは呼吸、そして死を迎える最後の瞬間までしているのが呼吸、その呼吸を可視化できるのが息であり、水中の泡だ、といったお話も心に残りました。
息をせずに行う水中撮影は、大袈裟ではなく、命に関わると思うのです。息を止めた水の中という、生と死の間にあるようなフィールドでお仕事をされている。神秘。だからこそ、「生」の尊さを感じさせる作品が作り上げられるのですね。まさに、加奈さんがこの歌にこめたメッセージそのもの。
また、印象的だったのは、池谷さんが「自己満足」を大事にされるというお話。ものを作る人たちって、自分に厳しくて、周りが「すごいよ」「素晴らしいよ」と讃えても、「いや、ここがだめだ」「もっとできたはず」と反省しきりになりがち。だからこそ「自己満足」はある種の高みなのであって、そこを目指すというか、大事にされるのは、納得というか、ほんと大切だなと思いました。
撮影中の映像で、杉山さんが「こんな感じはどうですか?」と少し動いてみせると「あ、いいね」と即答する池谷さん。杉山さんが「この速さ!」と指摘されていて、確かにこれは現場の空気はポジティヴに上昇し、すごくエネルギーが循環しただろうなと想像されました。
そういう、現場の「プラスのエナジー」って本当に大事で、私もよく、インタビュー現場などで、相手に「〜〜なのでしょうか?」と質問した時に、「いや、っていうか、〜〜〜なんですよね」と答えるか、「そうなんです、〜〜〜なんですよね」と答えるか、実際のところ「〜〜〜」は同じ内容だったりしても、冒頭が「いや」なのか「そう」なのかで、ずいぶんエネルギーの循環は変わります。対人関係において「肯定力」って、結構難しいし、大事なんですよね。同じアウトカムが同じじゃなくなる。
杉山さんのお話で興味深かったのは、水中の動きでよく求められるのが「浮遊感」なのだそうで。ところが今回は、それだけではなかった、と。通常は絵コンテがあって、ここはこういう動きをしてください、というオーダーがあるらしい。「その場合は、それ以上もそれ以下の動きはできない。ところが今回は、あらかじめ決めすぎていなかったから、ここは暴れてみよう、みたいな実験的な動きも出せた。水中の表現の可能性はまだまだあるんです」とおっしゃったのが感動的。
先進的な水中表現の映像作品が、加奈さんのMVに! すごい!嬉しい!
杉山さんはシンクロナイズドスイミング(今はアーティスティックスイミングと言うそう!)の元日本代表で、かのシルク・ドゥ・ソレイユで7年も活動されていた第一線の方!
その方をもってしてこそ、今回生かされたのが、とても美しい真っ白な衣装。担当された中島美保子さんも会場にいらして(ベテランのデザイナーさんとお見受けいたしました)、今回は「杉山さんだからこそ扱いきれると判断し、非常に長いドレスにデザインした。普通はここまで長くはしない。やはり、思ったとおりの表現をなさった」とのことでした。いやぁ、すごい。水を通し、動きの出るメッシュ素材のドレスなのだそうです。ここにもプロのお仕事が!!
加奈さんの音楽が、いろいろな方の手によって、2周りも3周りも、深く大きくなっていく……そのことの大切さを加奈さん自身もわかっていて、だからこそ、ここはこうして、ああしてほしい、と決め打ちで要求することなく、信頼できる人たちの手に委ねるのだそうです。嗚呼、これぞクリエイション!
イベントの終わりは、加奈さんの弾き語りで「あおい」。私はこの、弾き語りバージョンが本当に好きで、初めて聴いたときは驚愕したのでした。左手のオスティナート、右手のまた別の旋律、そして苦しくも慰めのある言葉を伝える歌の旋律。
そのほか、「舞踏会」と「音楽家」も歌ってくれました。
加奈さんの歌には、可憐さや暗さ、そして怒りのようなものが奥底に感じられる。
ところで、今回の「あおい」のジャケット写真は、写真家のKo(ハヤシコースケ)さんによるものですが、このボウッと青く光る不思議な映像から、私はなぜか、宮沢賢治の「永訣の朝」を思い起こしていました。
あらためて賢治のこの文章を読んでみたら、自分でも忘れていましたが、
「青い蓴菜」や「蒼鉛いろの暗い雲」という言葉がありました。
人間の潜在的な記憶ってあるものですね。ちょっとびっくり。
ところで、加奈さんといえば、写真好き・ライカ好きでもありますが、彼女のライブやイベントの会場にはカメラ(とくにライカ)持った人がけっこう来るので楽しいです。「あ、今日そのレンズですね」「ボディおしゃれですね」みたいな会話もできて楽しいし、カメラオタクであることを隠さず(?)どうどうと構えてられるので、居心地もよい。かの超有名な写真家さんもいらっしゃいましたね!
そんなわけで、実は私は今日、午前中に中判カメラGFX 50Rをお迎えしちゃったのですが、それをぶら下げて行きました。まだぜんぜん使って見る前からの一発目のおでかけ。扱いがわかっておらず、ピンボケですが、終演後の加奈さんを撮りました。
プロデューサーの保本真吾さんにも久々にお会いできて嬉しかったです!「あおい」の世界を深化させてくださってありがとうございます(涙)
加奈さん、これからも応援していきます。