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パンの中には(4)

クリームパンの中には何も入っていなかった。
クリームという期待しているものが存在しなかったという喪失感。
失ったわけではないのに、失った以上に落胆してしまう。

私たちは自分には〝中身〟があると期待している。
しかし、その中身が「なかった」と分かった時に、自分自身に裏切られたと感じる。
才能、運、境遇、人間関係…
自分の中身が空っぽなことに。

「クリームは入っていないが、このパンはきっととても美味しいぞ。」

小さな黄色いパンダは、私に囁く。
私は中を覗くためにちぎったパンのかけらを、口にそっと含んだ。
焼きたての暖かさはもうないが、焼きたてのパンの香りが鼻からすっと抜ける。

「…美味しい。」

そういった次の瞬間、小さい黄色いパンダの姿はなくなっていた。ただ、さっきまでクリームが入っていなかったパンには、クリームがたっぷり詰まっていた。

〈完〉

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