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あんドーナツの思い出

高校生のころ、豆腐屋で1年ほどアルバイトをしていた。

従業員は雇われ店長(たぶん50代)とわたし(高1)、2人だけの小さい店。

店内で豆腐を手作りしているわけでもなく、毎朝工場から運ばれてくる豆腐を店頭に並べて売るという仕事だった。

わたしは高校が遠いうえに終わるのも遅かったので、土日だけ、その豆腐屋で働いていた。

ある日の日曜日。

いつもどおり出勤して朝の作業を終えたころ店長が

「じゃあ休憩してくるから」

と言って店を出て行った。

一人になったわたしはレジ番をしながら、鼻歌を歌ったり、腹筋に力をこめたりしながら(当時なぜか腹筋に力をこめることにハマっていた)、まったくお客の来ない店頭をずうっと眺めていた。

1時間ほどで店長は帰ってきた。手には食べかけのあんドーナツを持っている。

(ええ、なんか食べてるぅ)

そうは思いながらも別に口には出さなかった。

店長とわたしは全く全然さっぱり打ち解けていなかったのである。

あんドーナツ店長は引き続きあんドーナツを食べながらレジ番をはじめた。

わたしは奥で指示された雑用をこなしていた。

「絹ごし豆腐2丁ください」

声がした。

そっちを向くと豆腐を購入するお客さんと、あんドーナツを片手に持ち、モグモグと頬張りながら接客をする店長が見えた。

ヒェッ!?となった。

あんドーナツという食べ物は、知っている人がほとんどだと思うが、ドーナツのまわりがお砂糖でいっぱいなのだ。店長の全指先にお砂糖がついている。さらにはまあまあ長い口髭が生えている人だったので、口ひげもお砂糖でいっぱい。雪が降った日のクリスマスツリー状態。ていうか食べ物食べながら食べ物売るなよ!という感じ。わたしがあのお客さんだったら非常ベルを鳴らしにいっているところである。

お客さんが去った後、めちゃくちゃ年上の目上の人間っていうか、バイトの店長にこんなこと言うのもなぁ…とは思ったが、どうしても無視はできなくてジャブをかましてみた。

「お砂糖まみれの指とか口で接客するのっていいんですか?」

いま思えばジャブに見せかけた左フックくらいの感じがする。

わたしの言葉を聞いた途端、あんドーナツマンの顔がカッッと赤くなった。

「ぐああああああああ!!!うるさいいいい!!!」

突然、あんドーナツマンの怒りが頂点に達した。

頭から噴火しているのではないかと思うくらい怒り狂っている。

わたしは急な展開にわけがわからず「え、ぇぇ。。」となった。白目をむいてたかもしれない。いや、むいていたでしょう。

瞬間湯沸かし器ことあんドーナツマンは、そのまま店の奥へダダダ!と入っていった。

ガラガラガッジャーーーン!!
となにかをひっくり返す音が聞こえる。こわい。
暴れているのだ。

しばらくして音が止んだ。
ヤツは肩で息をしながら無言だ。

わたしは、その様子をみて、

普通にドンドンドン引きをしてしまった。

そのまま帰って、電話でやめます、と伝えた。
しばらくして豆腐屋はつぶれた。

それから二度とあんドーナツマンには会っていない。

けど、今でも、スーパーやコンビニであんドーナツを見かけるたび、メイプル超合金の安藤なつさんをテレビなどで見かけるたび、あのアルバイトの日々を思い出してしまうのである。







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清原 ありさ
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