【216日目】Vegan vs Dohgan


October 7 2011, 11:02 AM by gowagowagorio

9月3日(土)

もうインフルエンザウィルスは働いていないのだろうが、いまだにナツモの微熱が続いている。いつもなら今日はキックボクシングの練習に同行して好物のバクテを食べられる日なのだが、ナツモはやむなく留守番を宣告された。

寝込むほどではないため、ナツモは外出できないストレスが限界まで溜っているように見える。それでも割と素直に聞き入れたのは、我々が練習の間、テレビを観ていて良いからと言われたせいだろう。

一ヶ月ぶりのキツい練習を終えると、引き続きタヒチアンの練習があるアキコを待たず、僕は真っすぐ帰宅した。

ドアを開けるとナツモはもうテレビを消していた。それはそうだろう。ダラダラと観るテレビは疲れるだけだ。ナツモはもう退屈しきっている。

そんな時、エリサがミノリをプレイグラウンドに連れ出したから、ますますナツモは不機嫌になった。

「むにーとあそびたい!」

何だかナツモが可哀想になって来た。敷地内のプレイグラウンドぐらいなら問題ないだろう。

「じゃあ、プレイグラウンド行って来ていいよ」

「・・・」

「なんだ、行かないの?」

「おうちであそぶの!」

「じゃあ、いいよここで遊ぼうか」

「ちがう!むにーとおうちであそびたいの!」

なるほど。どうやらナツモは、ミノリだけが外出できる事が気に入らないようだ。それなら、僕が許可しているのだからプレイグラウンドに遊びに行けば良さそうなものだが、子供心もそう単純ではないらしい。ミノリと家で遊びたいと言うナツモの顔は悪意に満ちている。せっかく大好きな外に出たミノリを、連れ戻せと言っているのだ。

そんな状態のナツモに気を使うのもどうかと自分で思うが、僕はナツモの脇をくすぐったり、絵を描かせてそれを褒めたりして、なんとか機嫌を保たせる。しかしそれはナツモのストレスを解消する根本的な解決にはならない。

まあいい。この後、とある人物の誕生パーティがあるから、そこに連れて行けば少しは気分も紛れるだろう。

−−

夕方4時半過ぎにアキコが帰宅した。

アキコは帰って来るなり「もう行かなきゃ、早く早く」と皆を急き立てる。誕生パーティである。

今回の主役は、アキコのタヒチアンダンス講師、ベアの彼氏、クリスだ。はっきり言って、僕は1回しか会った事がない。

しかし、ベアの事は知っているし、その周りの人々も基本的にはキックボクシングの道場で面識がある人達なので、アキコが呼ばれたとなれば、行かない方が不自然である。

それにしても、誕生パーティの開催自体は数日前から聞いていたが、何故アキコはそこまで焦っているのだろうか。パーティなんて、通常、開始時間ピッタリに来る人物などいないではないか。

ところが、アキコが言うには、どうやら主役であるクリスには、ゲストが来る事がサプライズとなっているようである。彼女であるベアとシッポリお祝いすると見せかけて、大勢の友人達が集まっているという、逆にガッカリしやしないか、というサプライズである。いや、その発想はきっと日本人的なのだろう。

とにかく、遅れてしまうと、我々は面が割れているだけにクリスを誘導する動線の関係からサプライズがご破算になってしまうと言う。

我々は取るものも取りあえず、プレゼントと皆でつまむためのサラダだけ持って家族全員で家を飛び出した。

アキコは少々焦り過ぎだった。この、夕方の捕まえ難い時間帯でタクシーをようやく一台捕まえると、乗り込むや否やドライバーにまくしたてるように伝えた。

「駅前のコンド、わかる?そこまで」

「・・・どの駅?」

ドライバーの反応は至極当然だ。向かったのはファーラーパーク、ベアの住むコンドである。

かくして、サプライズは無事成功し、キックボクシング関係、タヒチアンダンス関係のゲストが集まった賑やかなパーティがスタートした。

我々がプレゼントに持って行ったのは、アキコが日本で買い溜めておいた剣玉である。この、トラディショナルな日本の遊具を、フランス人は珍しがるだろうなと思ってクリスに差し出したところ、クリスも含め数人のフランス人が「オー、ビルボケ」「ビルボケ」と連呼している。不思議に思い後から調べてみると、むしろフランスの「ビルボケ」が剣玉の原型となっているようだ。

ゲストの中には我々のキックボクシングのインストラクター、フレッドがいた。マーシャルアーツ一筋、マーシャルアーツを極めるための世界一周旅行を夫婦で敢行してしまう程ストイックなフレッドは、普段、道着が似合い過ぎているため、私服を見たときの感覚が、スーツの似合う部長の休日出勤姿を見た時に近かった。普段着が特別ダサいと言うことは決してないが、そう思わせてしまう程、道着が似合い過ぎているのだ。

そしてこのパーティは、そんなストイックなフレッドの弟子達の集まりと言っても過言ではないから、皆もちろんアルコールなど飲まない。加えて、主要メンバーは皆ビーガン、つまり完全菜食主義者である。

だからパーティメニューには生ハムもなければチーズもない。酔った勢いでパーティを楽しむタイプの僕にとっては、この宴は、正直なところ、文字通り、少々ストイック過ぎる。

クリスはとても見た目が若い。会ったときから今日まで、クリスは我々よりか少し下ぐらいかと踏んでいた。

しかし、ケーキに立っているロウソクを数えると、大3本、小8本、つまり38歳である。その驚きを、帰りのタクシーでアキコがふと漏らした。

「クリス、若かったね。やっぱりビーガンって若さを保てるのかなあ。私たちもビーガンになる?」

僕のアンサーはこうだった。

「大丈夫だよ。アッコはドーガンだから」

「ぷっ!・・・それ、けっこう面白いかも」

ドーガンと言われて満更でもないアキコと、渾身のダジャレが面白いと言われて満更でもない僕は、やはりもう若いとは言えないのだろう。

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