【192日目】這わぬなら立たせてしまえ赤ん坊


August 16 2011, 10:06 PM by gowagowagorio

8月10日(水)

それは、極めて自然に、あまりに自然に行われていたので、危うく気がつかないところだった。ミノリが、「正式な」ハイハイを、今日初めて見せたのである。

最近のミノリはもう、掴まり立ちをしている時間の方が長いのではないかというぐらい、起きている間は常に何かに掴まって立っている。そして、移動するときだけ、やけに速くなった腹這いで移動するのだ。そのため、僕はもう、ミノリは正式なハイハイをスキップして、歩くようになるのだろうな、と思い込んでいた。

一時期は、立ち上がる前に高這いをした方がいいと何かで聞きかじって、ミノリに高這いをさせるべくトレーニングを敢行した事もあるが、ミノリにはその才能がないと見限ってそれもやめてしまっていた。

−−

その時、ミノリはリビングにいた。

確か、ミノリがキッチンに侵入したために、エリサによってリビングに連れ戻されて、床にぺたんと座っていたのだと思う。そして、ダイニングテーブルの席について絵を描いていた僕とナツモに向かって、ミノリは進み始めた。その時に、「あれ?何かがいつもと違うな」と感じたのだ。

何が違うのだろう、とよく観察すると、ミノリの体勢が高いのだった。交互に前に出す腕が伸びている。そして、床と接地しているのは膝である。それは紛れもなく正式なハイハイだった。

「おっ?!ミノリ、ハイハイできるようになったの?」

「どれどれ?」

僕とナツモが注目する中、ミノリは約3mの距離を、ずっと腹這いになることなくハイハイで移動すると、僕の座っている椅子に到達し、そして速やかに掴まり立ちをした。

そこで僕は気付いた。ミノリにとって、ハイハイは掴まり立ちの準備の延長なのだ。最近ミノリは、掴まり立ちの自分のスタイルを完全に確立している。ミノリの場合、常に立ち上がる前はまず膝立ちになる。

そして最近では、台や椅子など、キッカケになりやすいものだけでなく、手掛かりのないただの壁などでも、そのスタイルで立ち上がれるようになっている。

以前であれば掴まり立ちをする直前に、まず手で椅子や壁をおさえて身体を支えてから膝立ちになっていたのが、最近は先に膝立ち状態になってから壁や椅子にアプローチするようになった。そして、さらに膝立ちの開始が早まった状態が、このハイハイへと繋がっていったのだろう。

その証拠に、アキコが帰宅した際、ミノリは再びアキコに向かってハイハイをしたのだけれど、それはアキコを使って掴まり立ちがしたかっただけで、アキコがハイハイを見たいばかりに後ずさると、ミノリは掴まり立ちを諦めたのだろう、ぺたんとカエルのように腹這いに戻って移動し始めたのである。

・・・と、冷静に分析してみたところで、どうという事はないのだけれども。

正直なところ、ミノリが正式なハイハイをカンペキにマスターできなかろうが、高這いをまったくしなかろうが、もう気にすることはないだろう。今はただ、早く自分で(転ばないで)立ち上がれるようになってほしい。ミノリが転ばないよう、ずっと見張っている事に少々疲れたのである。

−−

今日、ミノリは自力で眠りに付いた。

ベッドと、その横に敷いたマットレスの間を登ったり降りたり忙しなく行き来していたが、最終的にはベッドの上で落ち着き眠りに落ちた。

寝る前の昇降運動で汗びっしょりになったミノリのために、アキコが扇風機を眠ったミノリに向けてやると、扇風機が首を振って風がそよそよと当たるたびに、ミノリは眠ったままにっこり微笑む。

心地いいのだろうか。それとも何か、いい夢でも見ているのだろうか。それは、ますます人間らしくなったなと思わせてくれる姿だった。

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