【245日目】ポーチャイ、チョーダイ


February 18 2012, 8:06 PM by gowagowagorio

10月2日(日)

後悔先に立たず、アルコール未だ抜けず。

劇的な二日酔いで目覚める。起きた時には自分が何処に居るのかさえ一瞬分からなかった。頭痛こそないものの、胃袋がひっくり返りそうなほど重い。

ふとベッドの傍らを見ると、グラス一杯の水と、小さな薬のパッケージが置いてある。クミコさんが置いてくれたのだろう。薬には見覚えがある。以前STK家で飲んだ時に紹介された、STK家御用達の胃薬、ポーチャイだ。名前からして漢方薬なのだろう。シンガポールではコンビニで簡単に手に入れる事ができるが、効き目は抜群だと言う。

正露丸にも似た、如何にも漢方薬然とした香りを放つ小さな錠剤、1回分約20粒ほどを一息に胃袋へ送り込む。即効性があるのか、飲んですぐに胃がすっとする感覚がある。

しかし、今回はアルコールが頑固に胃壁へ張り付いているようで、薬が作り出す爽快感が過ぎ去ると、再び動けなくなってしまった。

「ごめんなさい、いきなり泊まっちゃって」

とかなんとか言いながら、朝食をいただいてすぐにおいとまする。そんなスマートな去り方を思い描いていたのだが、僕は午前中の間ずっと、STK家のソファに丸くなってうずくまるという醜態を晒した。

その間もミノリはコノミちゃんに遊んでもらい、クミコさんにお粥を作ってもらっている。

まったく親子で世話になりっぱなしだ。僕はお昼までの間にポーチャイを3回も飲んだ。

今日は夕方からタナメラのタカさん宅でBBQの予定がある。しかし13時を回って胃袋が回復しない時点で僕はキャンセルすることも考えた。とてもじゃないが動けそうにない。

しかし、今日はどうしても行きたかった。タカさんの仲間は愉快な人間ばかりだから、ミノリをエリサに宅して単身で乗り込み、バカ話に世話に専念したかった。そういう、学生時代の気分を味わえる雰囲気がそこにはあるのだ。

結局、夕方になっても体調は回復しなかった。

僕はミノリをエリサに託すとなんとか身支度を整えたが、最後の最後までタカさんに「ごめんなさい」の電話を入れようか迷っていた。

タナメラへ向かうタクシーの中でさえ、僕はせり上がって来るおくびを堪えているような状態だったのだ。

しかし、会場にやってきてしまった。こうなったら最終手段である。BBQをノンアルコールで過ごすのだ。

僕はコーラやスプライト、お茶、そこにあるノンアルコールの水分をガバガバ摂りながら、食べ物にもほとんど手を付けず過ごした。いつもなら我先にと箸を付けそうな、分厚い肉の塊もなるべく視界に入れないように努めた。

そんな状態ではあったけれど、それでもやっぱり来てよかった。今日初めて出会った人も含め、ここには個性が強い愉快な人間ばかりが集まってくる。

飲んだ後にトンカツを食うのが趣味のEくん、元ロングのプロサーファーで今日は焼き方に徹するTさん、この中でゴリさん指差してと言われたら絶対に当てられるゴリさん、日本人一人でマレーシアのサーフィンコンテストにエントリーしたというMさん、僕をこの人達につないでくれた、アキコの同僚シンくん。奥さんの前では決して酔わないFくん、今日が誕生日のマイちゃん、タカさんの元職場にいるCADオペレーター、アイちゃん、そのダイビング仲間Kくん。

もちろん、向こう側から見れば、自分もそのユニークな人間達の一人なのかも知れない。

そんな中でもYさんが突出していた。元空中ブランコ乗り。そんな職業、奥田英朗の小説でしか見た事がない。奥さんはオージーのコレオグラファー。シンガポールの前はオーストラリアに住んでいた。だけでなく、その前はメキシコに、その前はインドネシアに、その前は石垣島に住んでいたという。

話してくれるエピソードすべてが悔しいぐらい面白い。もちろん、色んな波に乗って来ている。石垣島にポイントがある事も初めて知った。

「人生は一度きりだからねー、色々やっときたいなーと思って」

と飄々と語るYさんだが、彼はもう、3人分ぐらいの人生経験を積んでいると思う。

そして、BBQの火を落とし、そろそろ片付けようかという段階になって、僕はようやく一本のタイガービールを飲めるようになった。別に飲まないまま終わっても良かったのが、どうしても飲んでおきたい気分になったのだ。

まだ完全に回復していない胃袋にビールは決して美味しいと感じられるものではなかったけれどそれでもやっぱり飲んでよかったな、という満足感が僕を包んだ。

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