見出し画像

「Quora」に初めて回答してみて思ったこと

2020年5月7日(木)

【Day 49】

今日はやるべきことが割と早めに片付いたので、たまには子供と遊んでやるかと思い立った。

僕は基本的に、子供と遊ぶのがヘタクソで、娘の同級生のパパなどが心の底から楽しそうに子供たちと遊んでいるのを見るにつけ、すごい才能を持っているなと感心してしまうタイプだ。

だから、ステイホームの間もそんなに大したことはしてやれていないし、次女のように新しい遊びを編み出して提案するということもほぼ皆無。むしろ仕事中にまとわりついてきたら「話しかけるな!」と子供たちを遠ざけてきた(次女はその様子をモノマネのレパートリーに加えてやがる)。

そして、そのツケが回ってきたのだろう。

いざ子供たちと遊ぼうと思い立った時、家の中は異様なほど静かだった。アッコはもちろん絶賛仕事中だが、子供たちが物音を立てないのは珍しい。

どうやら長女の部屋に閉じこもって何かに熱中しているようだ。

僕がそっとドアを開けて中を覗くと、気づいた三女が走り寄ってきた。

そうかそうか、そんなに嬉しいか、などと思っていたのも束の間、三女は僕の腕を掴むと、マスターベッドルームへと引っ張っていき、「ここにいなさい!」と指示してそのままドアをバタン!と閉じてしまった。

どうやら僕と遊ぶ気はないらしい……

エッセイ好きならnoteよりQuoraなのでは?

と、いうわけで本当に手持ち無沙汰になり、どうしようかと思案しながらPCをいじっていると、ふとQuoraのメールが目についた。

この「知識共有型プラットフォーム」と称されるCGM(コンシューマージェネレーティッドメディア)は、言ってみればYahoo!知恵袋と同じようなスタイルではあるが、実名登録が基本となっているためYahoo!知恵袋やツイッターなどと違ってコミュニケーションがかなりポライトだ。

質問によっては、回答することがすなわちショートエッセイやコラムになるような類のものもあって、事実や体験に基づいた散文を書くのが得意な人にはちょうど良いプラットフォームだと思う。実際、いろんな回答に目を通してみると「事実は小説より奇なり」を実感するような興味深いストーリーで溢れている。

編集者などにとっては、ここに気の利いたお題を投げ込むことによって、いろんな企画や小説のネタ、あるいは才能ある執筆者の原石などを集めることができそうだ(回答したくなる質問を考えるセンスが問われると思うが)。

前置きが長くなったが、要するに、暇だったのでQuoraで初めて回答してみた、ということである。

なぜ回答する気になったかというと、一目見た瞬間、自分の持っているエピソードが回答に値すると思える質問を見つけたからだ。なので、以下にその内容を再利用する(要は丸ごと転載する。自家栽培なのでOKだろう)。

Q.結婚披露宴で起きたとんでもないハプニングはどんなことですか?

今から20年ほど前、広告代理店の媒体(テレビ局)担当の部署に勤務していた時の先輩の結婚式の話です。

同じくテレビ担当(通称「局担」と言います)の先輩は、いわゆる合コンで知り合った看護師の女性と結婚することになりました。

お二人の披露宴は、当然と言えば当然ですが、新郎側には大勢の広告代理店およびテレビ局の関係者が、新婦側には医師や看護師関係者が招待されており、総勢100人以上の賑やかで華やかな披露宴でした。

当時の局担とテレビ局の営業局と言えば、毎晩のように飲むことが仕事と同化しているフシがありました。当然ヒエラルキーで言えばテレビ局の方が上位で、テレビ局の営業部員から薦められた酒は断らないのが粋、みたいな体育会系のノリが全てだったのを覚えています(それはそれで楽しい世界でしたけれども)。

そのノリは披露宴においても同様で、参列者同士だけでなく、ひな壇にいる新郎の先輩も、多くのテレビ局営業局員や同僚から酒を注がれていました。

従来、ひな壇の下には、新郎が無理をしないように、そういった酒をそっと廃棄するためのバケツか何かが置かれているもので、その時も当然それは置いてありました。

しかし先輩は変なところで“局担魂”みたいなものを見せ、そのバケツを使うことはありませんでした。注がれた酒を全て飲み干し続けていたのです。

先輩は、決して酒に強い体質ではなかったので、同僚である僕らは途中から心配して(ただしニヤついていたと思います)その様子を見ていました。

案の定、まだ式の半分も行かないうちに、壇上の先輩の体が前後左右に揺れ始めたのです。

それを見た当時の部長が、僕に向かって顎をしゃくりました。

「おまえ、ちょっとひな壇の後ろで椅子支えておいてやれよ」

一番下っ端だった僕は、素直に部長のいうことを聞くと(むしろ、目立てそうで喜んで)ひな壇に向かいました。

しかし、ひな壇の上に登った瞬間、式場のスタッフから強くその行為を咎められました。

「私たちが責任を持って見ておきますので、お席にお戻りください」

式場のスタッフは、お酒や料理をサーブする人間以外は基本的に舞台の袖より内側に姿を見せることはほどんどないと思うのですが、ここは彼らのプロ意識に敬意を評して、引き下がることにしました。

そして席に戻った僕が部長に「スタッフに止められました」と報告した直後、それは起こりました。

壇上で、先輩が昏倒したのです。

真後ろに椅子ごと派手に倒れたので、会場は一気に騒然となりました。

僕は内心「ほらみろ、言わんこっちゃない」とスタッフを責めましたが、それどころではありません。

そして、次の瞬間、最も記憶に残る光景が展開されます。

何しろ、新婦側の参列者はほとんどが医療関係者です。

まず真っ先に、看護師である新婦さんが、純白のウェディングドレスのまま、意識を失っている先輩の傍に片膝をつき、素早く脈拍をとりました。

「脈に異常はありません。急性アルコール中毒だと思います」

誰に報告したのでしょうか。その場の全員にでしょうか。それとも参列しているご自身の同僚である医師にでしょうか。いや、もしかしたら訓練の賜物として、咄嗟にいつものルーティンが口をついて出ただけなのかもしれません。

僕はその毅然とした新婦の姿を見て、酔った頭で先輩はとてもいい人と結婚できたな、と少々場違いなことを考えていたのを記憶しています。

それだけではありませんでした。

すでに新婦が脈を計ったにも拘らず、参列している医療関係者は、突然のハプニングと、少々お酒が入った高揚感も手伝ってか、その場にいる全員が、自分の技能と医療従事者としてのプライドや責任感を見せ始めました。つまり、新婦側の参列者が、先輩の動脈という動脈を一斉に計り始めたのです。

両腕を左右に広げさせられ、そこに大勢が群がっている光景は、まるで、ルーベンスが描いた「キリスト降架」のようでした。

それだけではありません。その場はさらにカオス感を増していきます。

不謹慎な部長は、僕に再び顎をしゃくりました。

「おい、写真撮っておけよ」

言われるまでもなく、僕はそのつもりでした。当時はまだスマホをさっと取り出して撮影というわけには行かなかったので、どうしてもカメラを持って近づけば、写真を撮る気満々なのが周囲に伝わります。

「撮影はおやめください!」

僕は再びスタッフに咎められました。

式場としても、託された式でのハプニングを面白おかしく喧伝されたくはないだろうし、新郎新婦が不利益を被らないように、という配慮もあったでしょう。救急車を手配しながら、現在進行形で式場内の秩序を懸命に保とうとするプロ意識にはリスペクトしかありません。

僕は先輩に近づいたものの、シャッターを切ることを許されず、ただその場に立ち尽くすしかありませんでした。

その時でした。

医療関係者をかき分けて、1人の男性が強引に意識を失っている先輩の傍に立つと、いきなりしゃがんで先輩の頬を張り飛ばしたのです。

「よくも大事な妹の式を……!」

おそらく男性は新婦のお兄さんなのでしょう。そしてよほど妹想いの方なのでしょう。その声には悔しさが滲んでいました。そして、2度、3度と先輩の頬を張ったのです。

それを止める人は誰もいませんでした。

その後、先輩は到着した救急車で搬送され、式の残り半分は(そして二次会も)新婦1人で乗り切ったのです。

期せずして先輩が担うはずだったであろう締めの挨拶をやらざるを得なくなった新婦。声こそ震えていましたが、「こんなことになってすみません」と頭を下げる彼女は最後まで毅然としていました。

やはり先輩はとてもいい人と結婚できてよかったなと改めて思ったのでした。今も夫婦ともにお元気だといいのですが。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?