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世界奴隷化計画プロローグ  ある家族の闘い

幸せな家族に突然降りかかった
コロナ差別と経営難。
今、本当の家族愛が試される。

第①話


<登場人物>
山村理彩(45) 真介妻・2児の母
山村真介(50) ライブハウス経営・理彩夫
山村真由(17)長女・高校3年生
山村由里(12) 次女・小学6年生
チヨコメイト(30)アーティスト
岡田尚紀(35)チヨコメイト恋人
田中真美(46) PTA会長


〇渋谷区全景(夕)
   マスク姿の人々が足早に歩いている。
   スクランブル交差点の大型画面には 

「新型コロナウィルス感染拡大、
    札幌のライブハウスで集団感染か?」

   と、大きく書かれている。

○ライブハウス・チャーリーブラウン・全景
   路上にある看板にはライブハウス・
   チャーリーブラウンB1Fと書かれてい
   る。そこへ自由業っぽいラフな服装に
   マスク姿の山村真介(50)が入ってくる。
   外看板の灯をつけようと
   コンセントを電源に差し込もうと
   コードを引き上げる。

山村「あっ」

   コードが刃物のようなもので切断され
   ている。
   山村、無言で足早に地下の店に続く
   階段を掛け降りる。
   ドアに辿り付くと

「さっさとやめろ!コロナで殺す気か!」

   と赤い太いペンで殴り書きで書かれた
   貼紙が貼ってある。
   山村、無言で貼紙を雑にはがし、
   ポケットに丸めて入れる。

○ライブハウス・チャーリーブラウン
   昭和を感じさせる作りに舞台と観客席、  
   バーカウンターがある、
   中規模な広さのライブハウス。
   マスクをあごにずらし、
   掃除機をかけたり、
   テーブルを拭いている山村。
   そこへ元気よくショートカットに
   カジュアルな服装の
   山村理彩(45)が入って来る。
   おもむろにマスクを外し、

理彩「パパ、外の看板、あれ、壊れてるね。
   修理した方がいいよ」
山村「壊れたんじゃない、壊されたんだよ」

   そう言いながら、ポケットから丸めら
   れた貼紙を出して理彩に渡す。

理彩「なにこれ、ひどい」

   理彩、恐怖と怒りで貼紙を持つ手が震
   えている。

山村「いいか、今日はチヨコメイトのライブ
   が入ってる。これだけはやらせてあげ
   たいんだ。たとえ無観客でも」
理彩「うん、わかった」

   ×××

○ライブハウスチャーリーブラウン・中
   電気が付きBGMが流れる。
   入り口の受付カウンターに座る山村。
   バーカウンターにの中でグラスを拭い
   ている理彩。
   そこへエレキギターを抱えたアーティ
   スト、チヨコメイト(30)が入ってくる。
   ボブの髪型に童顔な顔、ポップなワン
   ピースを着ている。

チヨコメイト「今日はお世話になりまーす」
山村「がんばってね!楽しみにしてる!」
チヨコメイト「え?もしかして
       出るのウチだけ?」
山村「うん、実はさ、今日出る他のバンド、
   みんな自粛で自分からキャンセルして
   きたんだよね」
チヨコメイト「・・・そうなんだ、
       ま、そうだよね」

   チヨコメイト、悲しそうに笑う。

チョコメイト「む、無観客だったりして?」
山村「いや、それはない。ホラ、ここに二人」

   理彩、カウンターの中から満面の笑顔
   でチヨコメイトに手を振っている。

○ライブハウス内・ステージ・上
   チヨコメイト、一人でエレキギターと
   iPhoneの打ち込みをアンプに接続し、演
   奏を始める。
   山村と理彩、観客席に座って楽しそう
   に見ている。
   そこへスーツ姿の
   岡田尚紀(35)が入ってくる。
   山村と理彩、振り返る。
   岡田、後ろ手に大きな花束を
   隠すように持っている。

岡田「マスター、ちょっと」

   ×××

山村「え?じゃあ、今日プロポーズを?」
岡田「はい」
   岡田照れくさそうに笑う。

   ×××

○ライブハウス・中
   客が帰った店内でテーブルを拭いてい
   る理彩。ステージの片付けをしている
   山村。

理彩「だけど、素敵だよね、コロナ自粛中に
   プロポーズってさ」
山村「家族になっちゃえば、外で会えなくて
   もいいわけだからね、確かに。うん。
   俺もこの自粛中にオマエと真由たちが
   居なかったら精神的にヤバかったわ」
理彩「そうだね、うん、そうだよ!
   真由と由里が待ってるから
   早くおウチに帰ろう!」
山村「先、帰ってて、
   俺、やることあるから」
理彩「じゃ先、帰るね」
山村「あ、理紗!」
理紗「ん?」
   振り返る理紗。
山村「いつも、ありがとな!」
理紗「な、何よ、急に」
   照れたような表情の理紗。

   誰も居なくなったライブハウスで、
   伝票の山を見て頭を抱えている山村。
   伝票には赤字で督促状と書いてある。
   山村、大きくため息をつき、
   思い切ったように紙を取り出し、
   ペンで

「新型コロナ感染症防止のため無期限で
 閉鎖します。
 今までありがとうございました。
 ライブハウス・チャーリーブラウン店主」

   と書いている。
   山村、どこかに電話をかけている。

山村「あ、例の件、やっぱりやります」

○山村家全景・朝
   ごく普通の建売で作られた一角の一軒
   家。
   ゴミ袋を持ってゴミ捨て場に歩く理彩。
   そこに年配の主婦が話しかける。

年配主婦「あら、山村さん、おはよう」
理彩「おはようございます」
年配主婦「お宅そう言えば、
     ご主人、ライブハウスやってるって
     言ってなかった?」
理彩「あ、はい」
   理彩、困ったような顔をする。
年配主婦「まったく、
     ライブハウスで感染者いっぱい出
     てるってのに、
     よく出来るわよね!」
理彩「・・・」
年配主婦「あら、やだ、
     私までうつったら大変!」
     突然、足早に自分の家へ
     走って帰る年配主婦。
     理彩、ゴミ袋を持ったまま
     呆然と立ち尽くす。

○山村家・中

○同リビングルーム

   山村真由(17)と山村由里(12) が
ソファーで
   二人で仲良くパソコンに向かい
   YouTubeを見て笑っている。

理彩「もう、自粛休校だって言ったって、
   宿題はちゃんとやってよぉ!」
真由「だってさ、
   ウチらこんなにエネルギー、
   あり余ってるのに自粛ってさ、
   お笑い芸人の動画でも見なきゃ、
   精神病むわ」
理彩「そうだよね、ほんと、ママが真由や、
   由里ぐらいの頃、
   こんなことが起きてたら
   ホント耐えられなかったと思うよ」
真由「公園の遊具も使用禁止ってマジ、
   キチってるわ、ね、由里?」
由里「由里、つまんない」
理彩「そうだよね、
   ホント、いつまで続くのかしらね」

  理彩、大きくため息をつく。

理彩「あ!
   そういや、昨夜、パパ帰って来た?」
真由「帰って来てないんじゃない?」
理彩「ま、まさか」

   理彩、血相を変えてスマホから
   電話をかける。

理彩「もしもし?パパ?」
山村の声「あ、理彩?ごめん、
     店でそのまま寝てた」
理彩「っ、もう、びっくりさせないでよー!
   大丈夫?こんな時に熱でも出たら
   シャレにならないからさ」
山村「大丈夫だよ!金はないけど、
   健康なだけが取り柄だからさ」
理彩「お店の家賃とか
   酒屋の支払い大丈夫なの?」
山村「うん、大丈夫だ!心配すんな!」
理彩「大丈夫って言ったって、
   国からの給付金もすぐ出るわけじゃな
   いしどうする気よ」
山村「・・・うん、そうだなぁ・・。
   理彩、離婚しよう」
理彩「え?何それ?は?ちょっと!」

   理彩、素っ頓狂な声で叫ぶ。
   電話が一方的に切られる。
   その会話をドアの陰で聞いている真由。
   そこへチャイムの音がし、
   インターホンの画面を覗くと
   マスク姿の田中真美(46)が立っている。

理彩「は、はい」

   インターホンに答える理彩。

真美「PTA会長の田中です。」  

   玄関を開けると真美の両脇に2名のマ
   スク姿の主婦が理彩を睨みつけるよう
   な表現で立っている。

理彩「あ、田中さん、お疲れさまです、何か
   ありましたか?」
真美「あの、由里ちゃんのお宅、
   ライブハウス経営していますよね?」
理彩「あ、はい、それが何か?」
真美「明日の登校日、由里ちゃん来ないで欲
   しいんですよ」
理彩「え?」

   理彩の横から由里が出てくる、

由里「ママ?どうしたの?」
理彩「由里、何でもないから
   あっち行ってて」

   理彩、涙声になっている。
   理彩、突然、
   思い切ったように息を吸い込み、

理彩「わかりました。でも、ウチの主人、
   もう離婚したんで、
   帰ってきませんから!」

   真美とそのほかの主婦と
   目を合わせてたじろぐ。

真美「り、離婚って」

   真美、引きつった嫌み臭い顔で言う。

理彩「これでご満足でしょう?
   ライブハウスもやらないし、
   この街にも帰って来ません!」

   理彩、強い口調で言い放つと、
   ドアを思い切り強く閉め、鍵を閉める。
   床にヘナヘナとしゃがみこむ真美。
   駆け寄る真由と由里。
   二人を抱きしめる理彩。

理彩「大丈夫だから。大丈夫だから。」

   理彩、泣いている。

真由「ママ、私、わかっているよ。全部。
   パパが本当はウチらのことが大切だから
   離婚しようとしてること。
   シングルマザーになった方が
   児童手当が出るから
   だよね。
   ウチの高校の授業料も免除にな
   るかもしれないし。
   ママ、私、法学部志望だよ。
   そんなこと、わかってる。
   わかってるって。」

   理彩、泣きながら真由と由里を
   抱きしめる。

理彩「そうよ。パパは私達のこと、
   遠くに居たって守ってくれてるの。
   私達もパパを応援しましょう」
真由「こんなことしてる場合じゃない!
   持続給付金の申請、早くやらないと。
   ママ、昨年度と今年度の収入のわかる
   書類用意して!
   それから、店の看板壊されたのも器物
   破損で被害届出すからね!
   由里!YouTubeちょっと消すよ!
   パソコン貸して!」

   真由、真剣な表情でてきぱきと
   パソコンを開く。
                   続く



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