第16話 アマビエ様 月夜のトリートメント
~アマビエ様のお部屋~
夕陽が水平線に沈んでいく
シャワールームからアマビエ様がガウンを羽織り出てくる。
玉二郎さんにエスコートされ、デッキに誂えたベッドに向かうアマビエ様
アマビエ様「あ~今日は最高だったわ。清水港から富士山までを満喫したのなんて初めてだったけど日本てやっぱりいいわね。」
玉二郎「最高な時間は続きますよ。今度はお肌にも良くリラックス出来るアロママッサージを受けて頂き、癒やしの一時を楽しんで下さい。」
アマビエ様「この年になって、初めてづくしね!?何だかワクワクしちゃう~」
玉二郎さんにガードして貰い、「ヨッコラショ」と言いながらアロマ専用のベッドに座る。
玉二郎「いくつになっても初体験こそ、お宝です!」
ドリーンが微笑みながらジャグジーに赤やピンク色の花びらをセットする。
私とアイクはアロマのセットを持参しアマビエ様の元へ。
私「アマビエ様、今からアロマトリートメントを始めさせて頂きますね。横になって頂けますか?苦しくなければうつ向きで。」
アマビエ様「うん、大丈夫そうよ。それよりも、貴女よ~ありんさんは疲れていないの?」
私「それが不思議で疲れていても、お客様のお身体に触れさせて貰ってるうちに何故かパワーがみなぎってくる体質なんです。ただ、全集中出来るのが2時間という短さ。今日も2時間コースです。」
アマビエ様「あら、逆に2時間もいいのかしら。」
お話をしながらガウンを脱がせると、少し恥ずかしそうに身を縮こまらせる。
私「デリケートな場所はタオルでゆったり隠し覆うので安心して下さいね。嫌なことや、気になること、暑い、寒い等は遠慮なく仰って下さい。」
~静かな波音をBGMに~
私「弁財天様から、白檀のお香を預かって参りました。いかがでしょうか?」と、枕元で燻らせる。
アマビエ様は深く呼吸されて、「はぁ~良い香りね。彼女の思いやりが嬉しいわ」
私「はい。それでは今から七福神様からの労いと感謝の気持ちを、私の手に込めてオイルマッサージをしていきますね。日本原産の椿オイルを使用していきます。」
アマビエ様「平安時代から女性を美しくするオイルですもんね。何度か髪に使わせて貰ったわ」
私「今日は、その中でもあまり出回っていない貴重品で「生の椿油」を使いますね。無色透明でにおいもほとんど無く、なめらかで肌なじみの良いオイルで驚かれると思います。伊豆大島の方が丹精込めて作られたものです。」
アマビエ様「そう、楽しみだわ。じゃ、お願いね」
私「全体を私が。手足を玉二郎さんとアイクさんにお願いします。眠ってしまわれても大丈夫ですよ」
アマビエ様「ツルンとすべらないの?」
玉二郎さん「アイクと二人でが両脇を固めてるから安心して。」
~波音に合わせて~
私「では始めさせて頂きますね。」
アイクがチリ~ンと鐘を小さく鳴らしてくれた。
お身体に触れていく。
弾力のある、少しざらっとした肌を皆で静かにさすっていく。躰のトラブルも無さそうで呼吸も深くリラックスされているのを確認する。
全体にオイルを塗布して嫌な硬直も打撲もないので、軽くマッサージの力を入れていく。(昨日の転倒も響いていないようで安心だ)
私「力加減は大丈夫ですか?くすぐったくは?」
アマビエ様「うん、大丈夫よ気持ちいいわ」
三人の息がどんどん合ってくる。昨日初めて会ったばかりとは思えない位だ。
広い背中からお尻まで腕を使い、筋肉に圧をぐぅーっとかけてゆっくり抜いていくことを繰り返す。
やがて、かすかに寝息が聞こえてくる。
波音が心地よい。
まるで静かな海で平泳ぎしているかのように、お背中をオイルマッサージして行く。
やがて何かに誘導されるように潜っていく感覚。
アマビエ様の肉体の表面から内面へ
アマビエ様の喜怒哀楽が大きな波のように寄せては返す。
さらに深海に潜っていく。
底に大きくて腐った様な苔玉からかすかに金色の光が差している。
玉二郎さんの声が耳元で囁く「ありんさん、見つけたようだね。」
私「えっ?これって、、、。」
玉二郎「そう。先ずは纏わり付いてる錆びた錨を抜くんだ!」
私は懸命に絡みついている様々なゴミを取り重い錨を踏ん張って抜いた。
玉二郎「次は苔を剥がせ。そして両手で玉をこするんだ」
私「はい。時代を感じさせる苔で結構厚みがあり手強いです。」
玉二郎「手を止めるな!磨け!玉を磨き続けるんだ!」
磨けば磨くほど中から光が放射されてきて眩しい。
もはや金色の光にまみれている私。
玉二郎「ボケっとするな!磨いた玉の変化を見るんだ!!!」
私「はい!!!」
その瞬間、バチッと何かが私の魂と呼応した。
光が落ち着き、私の両手のひらでドックンドックンと呼吸を始めるふくよかなハートが現れた。
これがアマビエ様の魂の煌めき!?
豊かさとはこういうことなのか!?
玉から光が収まると、急に辺りが暗くなった。
玉二郎「よし!よくやった。それを大事に抱えて、こちらの世界に戻ってこい。アマビエ様の魂をリセットするんだ」
私「了解です!」
すると私の周りから完全に光が消えた。
帰る方向が解らず戻れない。
私はパニックになり、息も苦しくなってくる。
私「玉二郎さん!助けて!!!」
玉二郎「安心しろ!今迎えをやったから」
速攻で大きなウミガメが来て、するりと私を背中に乗せる。
私「あ~~助かりました。ウミガメさん有難う。一生御恩は忘れません。」
ウミガメ「助けてやったお礼というか、頼みを一つ聞いてくれると嬉しい」
私「私で出来ることなら、何でもします!」
ウミガメ「あのね、最近は海の中もプラゴミが多くて間違って食べちゃう子達が多いのよ。だから、ちゃんと片付けてね!人間たちにも伝えてよ」
私「解りました!」
ウミガメ「あ、もうひとつあった!!!最近、マスクが億単位で流れてるの。世界中の海は繋がってるからひどいもんよ。捨てないでね!」
私「絶対伝えます!」
ウミガメは「あ~良かった。これからもお互い助け合いましょうね」
と私を陸に上げて、海に帰っていった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
(あれ?私ヨダレが出ちゃった、、、。)
口を拭きながら目を開ける。
なんてことでしょう!!!?
私はアマビエ様のお背中に顔をうずめていた。
アイク「ありんちゃん、さぼって寝ちゃだめでしょ、手を動かしてよ~」
玉二郎さんは手を止めず笑いながらウインク(大丈夫!)サインをくれた。
私は深呼吸をして、自分を整え直す。
そしてアマビエ様の頭部から、お身体全体を包み込むようにこれからの健康を祈るヒーリングをして終えた。
私「アマビエ様 そろそろ終わりの時間です。」
アイクが目覚めの鐘を鳴らしてくれる。
アイク「アマビエちゃん、もう起きてね。タオルで軽く拭くよ~」
アマビエ様、ゆっくりと起き上がる。
「とても気持ちいいわ。ウトウトしちゃった。あら、いつの間にか夜ね。何千という星の煌めき、久しぶりにみたわ~素敵ね」と喜ばれる。
玉二郎「今夜の星の様にアマビエ様も煌めいてるよ」
アマビエ様「そう?嬉しいわ」
アイク「アマビエちゃん、喉乾いてない?ジュース飲んでね」とストローを口元に持っていく。
アマビエ様「あ~美味しい。アリガトウ」
アマビエ様「はぁ~2時間あっという間ね。これなら一晩中でも受けていたいわ。」
玉二郎さんにガウンを着せてもらいドリーンが用意したジャグジーへと向かう。
ドリーン「椿の花びらと香りの良い椿石鹸は、長崎県からお取り寄せしました。」
アマビエ様「人生に一度くらいお花を敷き詰めたお風呂に入ってみたかったのよ~嬉しいわ!夢が叶って」
ドリーンも嬉しそう。
どぼ~~~~~~~ん (湯船に入る)
ざっば~~~~~~ん (湯がこぼれ出る)
花びらが浴槽の周りに散らばるが、それも綺麗だ。
アマビエ様「はぁ~~~~~~~やっぱり浴槽に浸かるのって最高ね!」
玉二郎さんが小さい声でドリーンに言う「いつもは嫌がるくせに、、、何年も入ってなかったんですよ」
ドリーンもそれを聞いて笑いながらも、石鹸を付けたスポンジでお背中をせっせと洗い流す。
私とマイクは汗だくのまま、ベットを片付ける。
アイク「ありんちゃん、良く頑張ったね!?サングラス無くても出来たじゃん」
私「途中、危なかったけれど頑張れた~皆んなのお陰だわ、有難うね!」