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6月のメモワール

2023年6月27日(火)、私は友人と新宿ピカデリーに映画『aftersun/アフターサン』を観に行った。
映画のあと、近くの「YONA YONA BEER WORKS」でクラフトビールを飲みながら、時に涙を交えつつ、映画の感想を語り合っていた。

「aftersun/アフターサン」すごく良かった。

ふとスマホのLINEを確認すると、夫から「次女が頭が痛いと言っている。熱もあるようだ。今はリビングで寝てしまった。」と連絡があり急いで帰宅した。

それから2日後に長女、3日後に私、とつぎつぎと発熱した。
ちゃんと検査をして陽性だったのは長女だけだけど、3人とも新型コロナに罹ったのだろう。
(自主隔離してちっとも個室から出てこなかった夫は無事だった)
長女を診てくれたファストドクターの医者は「対処療法しかないので、熱が出たら頓服を飲んで、あとは区や学校が決めた日数をお家で過ごしてください」とのこと。

特に重篤な症状もなく、たまに熱が出る、出たら寝る、ただただ寝る。
そんな1週間を過ごした。

ある夕方、私はこんな夢を見た。

どうやら私はまだ10代で実家で暮らしている。
テレビや洋服ダンスに囲まれた、6畳くらいの狭い居間のようだ。
真ん中にある四角く低いテーブルが狭い部屋の面積を占めている。
私は畳に横になり、テレビを観ている。そばに父の気配もある。
そこに赤くて丸い、古いタイプの掃除機のコンセントを引っ張りながら母親がやってきた。

「ちょっと、もう、邪魔ねー!」と言いながら、寝転ぶ私と父の周りに掃除機をかける。
私は母に声をかける。
「お母さん、お店やってた頃は忙しくて掃除機かけてるとこなんか見たことなかったよね」と。

そうだ、私は母が掃除機をかけている姿を一度も見たことがなかった。
こんな風景は私の思い出には存在しないのだ。

母は自営の飲食店でいつも忙しく働いていた。
小学校低学年の頃の記憶では、掃除機は一緒に暮らしていた祖母がかけていた。そのあとは自分でかけていた。
父と居間で寝転んでいる思い出もない。我が家に居間なんてなかったのだ。

あの夢はなんだったんだろう?
あり得なかった家族の団欒への憧憬だったのだろうか。

だいぶ熱も落ち着いてきた頃、マンションの隣の部屋に住む母友が事情を知って、たくさんのプリンやゼリーを玄関に置いてくれた。
家族でありがたく分け合っていただいた。

ありガトーショコラ。

そしてそのあとの昼寝でまた夢を見た。

私がそのプリンやゼリーを父と母と「どれを食べる?」と分け合っている夢だった。
もう実家を出て18年になる。母とも暮らしていないし、父は12年前に他界した。
「こんな夢を見たよ」「おかしいね」と娘と笑い合った。

コロナの間に見た、不思議な夢だった。
なんとなく忘れたくなかったので、忘れないうちに書き残した。