【SS】 歓喜 【ショート・ショート】
人は格差を作って、己の存在を証明しようとしている。生まれ落ちたその時から格差は決まっている。
親がいないもの、または貧乏な家に生まれたものは不運でしかない。
僕はずっと格差の底辺地にいた。両親は借金苦で、僕を置いて天国へ昇った。施設に預けられた僕は、そこでも人間性についての格差を受けてしまう。
引っ込み思案なだけで、人より感情表現が苦手なだけで、僕と同じ立場にある人間は攻撃を加えるのだ。
「グズ太は本当にクソみたいな匂いがするぜ」
「死ねよグズ太。俺たち、いいや学校のためなんだ。わかってくれよ」
「この子と同じ教室で勉強しないといけないんですか! そんなの子どもたちが不憫でなりませんよ!」
同じ施設の子、同級生、同級生の保護者。
浴びせてくる言葉の数々は、泥のように混ざり合っていく。いつしか僕の中に結論が生まれた。この世にいる意味はない、と。
はじめて規則を破った。施設を飛び出し、学校の屋上に向かっての冒険だ。踏み出す足は自分のものではないように軽い。
その軽さは、学校の窓ガラスを割ることの抵抗を薄くした。いつもは大人たちが角を尖らせて子供に怒鳴りつけるのに、反応がないだけで心臓が浮き上がるようだった。体いつしか全ての力を吐き出すように、闇夜の校舎で叫んだ。
廊下を走っていい。
消化器のベルを鳴らしていい。
ハサミを振り回していい。
おもらしをしてもいい。
僕は命を捨てるより先に、自由を獲得したのだ。
ああ、この時間が永遠続けばいいのに──。
すると、目の前に眩しい光が行く手を遮った。
見回りの警備員が慌ただしくしながら僕の方へやってくる。手の自由を奪われ、僕は地に伏した。
ああ、これで自由がなくなる。また格差が押し寄せてくる。
でも、いまは自由を獲得できるすべを知った。
もし自由が奪われようとしているのなら、あらがってもいいのだと。
僕は手に持っていたハサミを警備員の顔に力いっぱい突き刺した。鈍い感触がしたあと、警備員は痛ましく叫んだ。続けてハサミを振り回した。ハサミを振り回していい自由によって、警備員は動かなくなった。ぴちゃぴちゃとその場で跳ね踊った。
「僕は! 自由だあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
もう怖いものはない。これからは自由を得るための戦いが始まるのだ。
朝日が僕を照らしてくれる。
まるで祝福するかのように、おめでとう、と。
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