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「蠍」

冷たい砂の上を、何も感じずに歩いている。

一体、どれだけの時間がたったのだろう、
辺りは、とっくに日が沈み、まん丸の月だけが、私を凝視している。

太陽とは違って、熱を持たない夜のお月さま。
私にとっては丁度いい。

夜の闇は、その微々たる光によって、
僅かな陰影を残すに過ぎない。

『蠍』である、私は、
そのおかげで、自分の醜い姿を隠し、別人のように振る舞うことができる。

黒々とした鋼鉄の肌、鋭く大きな腕、
毒針を有する、忌々しい尾。

私は、『蠍』であることが憎くて、憎くてしょうがない。

幼い、私は両親に聞きました。
「なぜ、私たちの姿は醜いの」

両親は言いました。
「それが普通だ。私たちは『蠍』なのだから」

納得がいかない私は、お友達にも聞きました。
友達は言いました。

「それは当たり前だよ。君が何を望んでいるのかわからないけど、
『蠍』である以上、仕方がないことさ」

自分は、みんなの言っていることが良く分からない。

なぜ、鳥のような立派な羽を求めないのか、
哺乳類のような綺麗な毛皮を求めないのか、
人間のような容姿を求めないのか。

お月さま、ここで会ったのも何かの縁でしょう。

空、高くから眺めているあなたにお聞きしたいのです。

『私』は醜い姿ではありませんか。

誰からも愛される姿は、どんなものですか。

見た目がすべてではないのでしょうか。

答えてくれるまで、私は貴方の傍まで歩き続けます。

冷たい、冷たい砂漠の砂の上を、
一人で歩いてゆきますから。



『蠍』書き終わりでございます。

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