社会人二年目が観る『三月のライオン』矢崎仁司 純と不純 @アップリンク吉祥寺
大阪に緊急事態宣言が出るということで、仕事が延期になり突然舞い込んできた2連休。
その上、会う予定だった人が濃厚接触者となり何の用事もなくなった私はタイトルに惹かれていた映画を観に行くことにした。
『三月のライオン』矢崎仁司
学生時代に観漁っていた映画も
日頃の激務に追われ今年初鑑賞。
見終わった後に調べてみても
ほとんど引っ掛からず
話し合う相手もいないのでここに。
すべての文章に、
恐らく、かもしれない。
と付けたいところではあるが、
まどろっこしいので割愛する。
あらすじ
兄(ハルオ)に恋愛感情を抱いていた妹(アイス)は
交通事故で記憶を失ったことを機に
恋人と偽って生活をすることにした。
冒頭にざっくりこんな感じのテロップが入り、
兄が退院するところから物語が始まる。
ストーリー自体は若いカップルの日々
といっても差し支えなく、平坦な内容。
感想
家族像
アイスの理想である家族像が3つ登場する。
1.記憶を失う以前に住んでいた家の隣人
この隣人は母親のみ登場する。
子どもに早く支度しなさい、片付けなさいなどと
誰しもが言われたことがあるであろうセリフが
聞こえてくる。
愛する兄との幼い頃生活を想起させ、
その音の中でアイスは妹としての自分を殺す。
それ以降、アイスは旧家に近づこうとしないのは
自分で殺した幼い頃の幸せな日々が横たわっているからであろう。
一方、旧家を訪れたハルオはその音の中で泣き、
胎児のポーズで眠る。
幼い頃のアイスとの日々と
現在の恋人としてのアイスとの日々、
その間での葛藤が描かれる。
2.駄菓子屋の夫婦
アイスが駄菓子屋を訪れ、店員を探し奥へ進む。
すると、妻が夫の髪を切っているところに遭遇する。
年老いているが、夫は妻とスキンシップを取り
愛し合っていることが分かる。
これに憧れを持ったアイスはハルオの髪を切る。
しばらくして、アイスとハルオは
夫婦が飼っている子犬を殺す妻に遭遇する。
生活が苦しいためか、泣きながら己の手を汚す。
その後、夫婦と食事を取る2人。
夫には貰い手が見つかったと嘘をついている。
恐ろしいほどの純愛である。
食事シーンでは夫とハルオはコーラを飲み、
妻とアイスはウイスキーを飲む。
純粋さを持つ男と
純粋さを保つために嘘をつき大人になる女
ここでもハルオとアイスの対比が描かれる。
3.新居の隣人夫婦
こちらも絵に描いたような幸せな夫婦である。
その姿にアイスは目を奪われるが
ハルオは目もくれない。
妻に話しかけられたときも
ハルオは素っ気ない態度をとる。
一方、アイスはお茶の誘いに乗り、家にあがる。
そこで、夫婦の愛の象徴である布団に目を奪われ
胎児のポーズで眠る。
旧家で泣きながら胎児のように眠るハルオに重なる。
ストーリーとしてはその後、
二人の子どもが生まれる。
死生観
この映画でハルオは一度、アイスは二度と死ぬ。
ハルオ
交通事故という偶発的な出来事による、
兄ハルオとしての死。
アイス
一度目は兄の死にあわせた妹アイスとしての死。
二度目は本当は妹であるという
罪悪感を持って接する自分の死。
アイスは、駄菓子屋の夫婦から
どちらかが先に死んだ時の自決用として
愛の証として持っている薬を盗み出し大切に保管する。
妹であることを偽って生活するアイスは
純粋に自分を愛してくれるハルオに罪悪感を持っている。
終盤で薬を飲み、その罪悪感を持つ自分を殺すのである。
過去の自分を断ち切り、
恋人アイスになった彼女はハルオの子どもを妊娠する。
愛のために自発的に二度も自分を殺すアイス。
仕事
ハルオ
退院からほどなくして解体屋の仕事を始める。
遠景に都会を望む下町で、古い家を壊す。
アイス
都会の真ん中で売春をする。
下町、破壊という純粋なものに惹かれるハルオと
生活のために都会で売春をするアイス。
アイスは売春前に化粧をするシーンで
泣き出しそうになりながら口紅を何度も塗り直す。
まとめ
アイスの純粋さと、それを守るための不純な行為。
その葛藤が色々な方法で描かれていく。
それが苦しくも美しく目が奪われる。
私もやりたいことだけをやっていた学生時代、
そこから生まれる人間的魅力が社会人になってから
みるみる目減りしていくことに焦りを感じている。
学生から社会人へ、
最近では『花束みたいな恋をした』が話題になったが
こちらもその名作ではないだろうか。
ちょっと違うか。
つらつらと書いていったが、
愛が動機なら
やってはいけないことなんて
なにひとつ、ない。
このコピーが全てである。
今年一本目がこの映画でよかった。