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国産アパッシメントワイン (後編)

この仕事をはじめて仕えたただ1人の師匠いわく、糖度40度を超えなければ世界と勝負するスタートラインにすら届かないとの教えを受け努力し、2022年度には40度の壁を乗り越え、それを作り出すノウハウや感覚は身についたと思います。
2023年度はさらなる量を陰干しするつもりで本梢のブドウとは別でこっそり副梢(孫梢)で作っていました。

ところがこの副梢で作っていたブドウが過去5年間で見ても類を見ないくらい良い品質できてしまった。そんな中、今年度に他部署からの異動とかではなくガチで入社してきた20代の後輩上司さんが熱烈にこのブドウを使って仕込みたいとアピールしてきたのもあって上司命令だし仕方ないなぁとしつつ、わがままを言って30kgだけアパッシメント用として使わせてもらえるように交渉しました。この後輩上司さん、山梨大学のワイン学科だったかワイン専攻を卒業されてるとかでいままでのスタッフとは違い専門的な知識を有していたので話が弾む事弾む事。自分は高卒の身なので師匠にこそ基本は教えてもらっていましたが、その先の派生や知らない事は自力で研究・構築していくしかなかっただけにある意味答え合わせ的な話ができて、いくつかは大学などでもまだやっていない(もしくは研究に行き詰っている)ような事も障害者の一個人が先行してやれていた技術などもあって驚きました。なのででこれからやっていく実験的な事が楽しみです。若さゆえの柔軟な思考に期待したい。一緒に卒業した同期の方はサントリーのワイン事業部に行ったとかなんとかでわざわざ一緒にサントリーに行かずにこっちに来てくれたんだし、先輩としても期待に応えてあげないとなという使命感が増えたのは秋も終わりに近づいた11月3日の事でした。

糖度26度・酸度0.65度・渋さOK・香りOKなパーフェクトなマスカット・ベーリー・A。
とある育成法によって低い気温環境下でも酸を維持しつつ糖を爆上げする技法を行いました。
(気温が高いと糖が乗り酸や渋さが減り香りも飛ぶ、
気温が低いと酸と香りが乗るけど糖が上がらないのが普通だと思うので偏ったブドウになる。)
が、糖も酸も渋も香も全部乗せてできたのがこれでした。

はじめから全部吊るす予定でこっそり作っていたものだったので、この青い宝石のような色のブドウは全部で164kgほどの収穫で、そのうち後輩上司命令で普通に仕込みたいと言われた約137kgを醸し発酵へ、残りの約27kgをアパッシメントワイン用として吊るす事になりました。
収穫はというと一般的にはお手伝いさんやバイトを雇って収穫するのでしょうが、私はというと基本的に自分の担当畑のぶどうは他の誰にも触らせない!ので全部自分1人で収穫となります。他の人にお願いすると粒に触れてブルームを剝がしたり、やさしくカゴに入れてくれなくて粒の根本が割れたりするのが嫌なので責任持って自分1人で収穫します。選別作業はしません。選別作業なんてしなくていい状態で育成するのが当たり前ですので。腐敗果の出た房はまるごとポイです。

マジで青くて綺麗な粒になってくれた。ブルーベリーって言っても間違えられそうなくらいだ。
小牧ワイナリーの露地畑でここまで青が濃くなるまで健全な状態で収穫できたのは
2017年のブラッククイーン以来6年ぶりだ。
これがいわゆる当たり年ってやつなのだろう。


2022年度はアパッシメント用に買った倉庫に吊るしていましたが、
今年は所長が地下の醸造所兼ワイン倉庫の部屋の一角、空いているコンテナスペースを使っていいよと言ってもらえたので単管などをコンテナバーに渡してそこからマイカ線を垂らしてぶどうを括り付けて干しました。空調の吹き出し口がすぐ上にあってひんやりした風が漂ってきます。ただこの地下空間、高さが3mほどあるので天井付近と足元の気温差が4度もあることに干したあと気が付いて後悔。足元は12度なのでいいのですが天井付近は16度、15度以上はカビが発生する率が一気に上がるのでビクビクしていました。来年はコンテナの下スペースで干させてください所長。写真には写っていませんが今年も床付近から「バルミューダ」のサーキュが12度の風を送ってくれています。

海岸近くの環境を再現できないかとこの後
空いているスペースに塩を不織布のきんちゃく袋に入れて20か所くだい吊るしました。

画像がこれ以上貼れないや。

3日に収穫をしましたが、ちょっと予定が立て込んでいて当日ではなく休み明けの6日に吊るすのを開始しました。そこから約1か月。
自分的には年末もしくは年明けすぐくらいまで干すつもりだったのですが、
後輩上司くんは多少シワになっている粒を増えてきたしそろそろ仕込みたいと言ってきたので命令に従い、12月4日にそぉ~~~っと時間をかけて外していき、手作業で破砕してステンレス鍋タンクにしこみ醸し発酵に進みました。ただやはりというか1か月程度なので吊るした27kgに対して破砕後20kg。水分蒸散率も25%ほど流石に短すぎたような気もしなくもないですが、まあここは後輩上司くんの経験をさせてあげる的な意味でも我慢我慢。
一応糖度は31度~34度ほどになっていたので順調ではあったのだろうとは思います。流石空調の聞いた地下空間。風の流れはほとんどなくともカビは結局2粒(吸虫されていたのに気づいてなかった粒)のみで済んだので食べても問題ありませんでした。サムネイル画像はその慎重に外している際の写真。シワ具合の見た目はすごくいい。

この文章を書いている今日は誕生日。今はそのアパッシメントワイン用で干してあったぶどうを1房だけ持って帰ってきてあったので、スロージューサーでコールドプレスした果汁をスパークリングウォーターで割って飲みながら書いています。

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