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momoro66
ai小説 言葉にならない歌
真夏の太陽が照りつける校庭で、私は彼を見つめていた。
「岬、また佐藤くんのこと見てるの?」
親友の美香が、からかうように言う。
「違うよ」
慌てて否定するけど、頬が熱くなるのを感じる。
佐藤くんは deaf。生まれつき耳が聞こえない。
でも、彼の世界は静寂じゃない。手話で語る彼の表情は、いつも生き生きとしている。
「あのね、実は...」
私は美香に打ち明けた。
手話を習い始めたこと。
佐藤くんに話しかけたいけど、勇気が出ないこと。
「すごいじゃん! 頑張れ」
美香が背中を押してくれる。
その日の帰り道。
図書館で手話の本を借りて帰ろうとした時、
偶然、佐藤くんとすれ違った。
彼は私に気づいて、にっこり笑う。
私は、覚えたての拙い手話で挨拶した。
「こんにちは」
佐藤くんの目が輝いた。
彼も手話で返してくれる。
「上手だね。勉強してるの?」
私はうなずく。頬が熱い。
それから、私たちは少しずつ会話を重ねるようになった。
手話で話す佐藤くんの姿は、まるで歌を歌っているよう。
優雅で、力強くて、とても美しい。
ある日、勇気を出して尋ねた。
「どうして、いつも笑顔なの?」
佐藤くんは少し考えて、答えた。
「だって、幸せだから」
その言葉に、胸が締め付けられた。
「でも、音楽が聴けないのは...」
問いかけた私に、佐藤くんは首を振った。
「音は聴こえないけど、音楽は感じられるよ」
彼は続けた。
「振動を感じるんだ。そして、人の表情や動きを見る。それが僕にとっての音楽」
その瞬間、私は気づいた。
佐藤くんは、私には聴こえない音楽を聴いているんだ。
「教えて」
私は手話で言った。
「その音楽、私にも感じさせて」
佐藤くんは優しく微笑んで、私の手を取った。
彼の手のひらに、私は自分の想いを込めた。
言葉にならない歌が、二人の間で静かに響き始める。