ファンタジースプリングス・海・滝・水・埋め立て・ビオトープ
2024年6月6日ついに開放された東京ディズニーシー(以後TDS)新エリア
ファンタジースプリングスについては他のエリアとは異なるなにかを感じる。その原因に迫る。
歴史
1983年東京ディズニーランド開業
1988年東京ディズニーランドに続く第2パーク構想が発表。
1997年にTDSの概要が世に出る。
2001年7月7日ディズニーリゾートライン開業
2001年9月TDSオープン
2005年レイジングスピリッツ導入
2006年タワーオブテラー導入
2009年タートル・トーク導入
2011年ジャスミンのフライングカーペット導入
2019年ソアリン:ファンタスティック・フライト導入
2024年ファンタジースプリングス
TDSは「東京ディズニーランドでは体験できないまったく別の感動を提供する市場を持つこと」「日本人に合う、何度でも来たくなるパーク」という要件の上で立てられた。当初「ディズニーMGMスタジオ・ツアー」をベースにする計画だったというが、7つの海をテーマに、日本に合わせた方針へと変更したことは間違いなく英断だろう。“7つの海”の内訳は時代によって変わるとはいえ、世界中の繋がった海を指すことは変わらない。
日本は島国として海の恩恵と災難を背景に、文化的にも海を渡らずして外交ができなかった歴史がある。ディズニーのような海外の文化が日本に渡って来たこと、TDSのテーマとしての海、最大級の新エリアは単なる新エリアに納まるものなのか?
TDL
オイルショック以後、1979年に東京ディズニーランドの計画は始まった。アメリカのディズニーランドでの研修をはじめ、ディズニー社に“基礎知識から、ディズニーランドの運営にかかわる部門の業務概観や専門知識まで幅広くかつ実践的な内容”を学んだ。膨らんでいく総事業費は最終的に約1800億円の、“誇るべきテーマパーク”になったという。
東京ディズニーランド開業 | OLCの沿革・歴史 | オリエンタルランドについて | 株式会社オリエンタルランド
いや最早、恐ろしいテーマパークと言いたい。(遊園地ではなくテーマパークというニュアンスもディズニーランドの存在に支えられたものだ)二代目社長髙橋政知が従業員に言った、“日米文化交流の一翼”を担うというのは単なる鼓舞ではなく、アメリカの文化や資本、レジャーの考え方を輸入した場所として東京ディズニーランドが計画的に誕生したことを踏まえている。
そもそも株式会社オリエンタル(=東洋??)ランドは浦安沖の海面を埋め立て、商住地域の開発と一大レジャーランドの建設を行い、国民の文化・厚生・福祉に寄与することを目的とした会社で、三井不動産と京成電鉄によって1960年につくられた。海を埋め立ててレジャーやショッピングの総合区域を作ることを目的にしつつ欧米レジャー施設の調査の結果、ディズニーランドを構想の核に推すことにしたという順序なのだ。
髙橋の言った“日米文化交流の一翼”は、オリエンタルランドによるディズニーランドの熱心な誘致活動によって始まったという積み重ね、それを継いでいくことを従業員に示している。この誘致のようにアメリカから日本への文化受容が滝のように流れてくるのは多分野で今も続くことであろう。しかし髙橋の言葉には前後がある。
“我々もディズニーの受け売りだけではいけません。日米文化交流の一翼を担っているという信念とともに、これから10年後、20年後の東京ディズニーランドが独自に新しい分野を開拓し、”昔はああだったけど、今はこんなになった…″とみなさんが述懐し、感動することができるよう、今、心を一つにしてがんばりましょう”
この言葉の1年半後東京ディズニーランドが開業し、第2構想、日本人に合うテーマパークとしてのTDSに繋がるのである。
限界の述懐
ならば述懐するべきだろう。
昭和(TDL)、平成(TDS)、令和(ファンタジースプリングス)と…
だが問題がある。所詮2度目の訪問でしかないということだ。
ここまで大仰に話を運んで置いて頼りが無さ過ぎる。
だが、ファンタジースプリングスについて書くことにする。
「初見」というのは価値がある。
ロストリバーデルタとアラビアンコーストの間の道が伸びて新エリア、ファンタジースプリングスと接続している。現在(2024年10月)は入場制限がかけられ、同エリア内のアトラクションのスタンバイパスやディズニー・プレミアアクセスなどの競争を勝ち抜くことで入場できる。大変世知辛い。
ファンタジースプリングスはTDS開業以来最大の140,000㎡の開発面積を経ている非常に大きな計画である。とても計算された配置でラプンツェルの森、フローズンキングダム、ファンタジースプリングスホテル、ピーターパンのネバーランドが一緒になっている。計算された配置は隣接しているものをいかに分離させるかという面で成功を収めている。つまり見通しが悪いのだ。
キャラクターたちが彫刻された崖の入口をはじめ、曲がった道と木によって隠されて、繋がっている。だがエリア内に目を向けた場合の見通しの悪さに対して、エリア内からエリア外側を見た時の「閉じと抜け」は徹底していた。
強化遠近法
エリアの外はすぐにリゾートラインが走っており、アトラクションなどの主な施設がエリアを囲む構造になっている。そのため、アトラクションのある建物の後ろは全部舞浜の空になってしまうはずだが。そうはならない。そこにはネバーランドの雲を纏う火山、雪の積もったノースマウンテンがそれぞれのアトラクションの建物背後にそびえているのだ。
ファンタジースプリングス外縁、ネバーランドの火山が煙を出す姿は、TDS中心にあるプロメテウス火山を彷彿とさせる。しかしエリア内の位置関係は外縁と中心で真逆にあたる。
プロメテウス火山は多くのエリアからそれを見る事ができ、エリアによっては港なのに赤い活火山が間近にある違和感などを禁じ得ないだろう。まあ、無粋だが時々噴火する活火山の周りに色々施設をつくることは現実ではありえない。
プロメテウス火山の違和感=そこがTDSの中であることを気づかせる効果なのではないだろうか。あらゆるエリアがリアルに見えるにも関わらず、遠景を見るとそれがTDSの中であるのを突き付ける。それがTDSの基本だった。対してファンタジースプリングスはプロメテウス火山が見えない。代わりにネバーランドの火山やアレンデール王国のノースマウンテンが各建物の背景にあり、強い奥行き=世界の広がりを感じさせる。
それが最も成功しているのがノースマウンテンで間違いないだろう。衛星写真で見ると分かるが、見える範囲のみ山の地形が部分的に作られ、遠くのちいさい城は手前のちいさい山小屋との間で、遠近感のバランスを構成している。シンデレラ城で知られたお得意の強化遠近法だ。場所によっては空気遠近法も反映させ、山頂は色が薄くしてある。
火山の比較から分かるファンタジースプリングスの没入の工夫は他のエリア、つまりプロメテウス火山を中心にした今までのTDSと分離することで成り立っているのだ。
不在の住人再び
前の記事で不在の住人の話題を挙げた。TDSの街並みは住人がおらず、ゲスト(旅行者)しかいないという指摘を行った後、実はスズメやハトなどのスーパーラット的な、住み着いてサバイブする命(住人)が居たと書いた。ではファンタジースプリングスはどうだったか。…鳥も不在だったのだ。
精確には、居ない鳥の存在を演出する工夫が行われていた。ファンタジースプリングスは一見岩場、苔、草花、滝、池、堀、木々という、ともすれば自然に鳥や虫が住み着き、ビオトープになりそうな場所だがそのように見える装飾を含んでいる。本物の微生物や苔は水を濁らせて光を遮り、人は虫を嫌い、鳥は樹上からフンをしたりもするだろう。それをコントロールするのもTDSらしい。
だが命の気配が無いわけではない。植えられた木々の間に緑のカモフラージュネットをかけられたスピーカータワーが随所にあり、そこから鳥のさえずりが流れているのだ。驚いたのは日が暮れると虫の音に変わる所で、命の気配に意図的である。
TDSの他のエリアでこのような演出が行われていなかったと私は認識しているが、人工のランドスケープの巨大な実践としてのTDSはついに命の気配さえ配置することになっていた。
日本に合う
開業から23年を数えるTDSは“何度でも来たくなるパーク”としてつくられ、実際何度でも来たゲストを楽しませてきた筈だ。しかし私にとって一度に計画されたTDSのスペースは各エリアが集合している違和感による無国情緒、開けすぎているという感覚もある。
そこに対してファンタジースプリングスの詰まり具合、隠れ具合はある意味での日本らしさを感じうるところなのだった。TDSに対してのファンタジースプリングスは別の存在として隔絶の感があるのは、先述してきたように意図され、演出されたところだと考えている。
しかし日本らしさは意図されていたのだろうか。錯覚なのか?しかし感じられた日本らしさの理由を想像すると、ひとえに再開発なる行為が日本的だからなのではないかと思える。海に囲まれた土地を埋め立てによって延長して誕生したTDLは、そもそも土地を切り開く開発よりも再開発的であって、TDLの後に生まれたTDSも敷地の再開発と言えはしないだろうか。となればファンタジースプリングスも先行するTDSに続く再開発だ。
再開発は既に開発された場所にもう一度手を入れる手段であり、さらなる土地の拡張がさほど望めない日本では多発している。再開発によって日本各地の風景が似たり寄ったりになっている批判も的を射ているのだろうが、限られた土地に商業的な機能を整備すると詰め込み気味になるのは当たり前である。再開発の規模が大きければ大きいほど詰め込みの上手さが際立つ。ファンタジースプリングスもそうである。
おもかげ
さて今回アトラクションは「ピーターパンのネバーランドアドベンチャー」と「アナとエルサのフローズンジャーニー」を体験できた。どちらも他のアトラクションのエッセンスを感じる仕上がりだったことを伝えたい。
ピーターパンは立体視とライド型が組み合わさり、ソアリンのような浮遊感や造形物と立体映像のシームレスな繋がりが飛びぬけている。(特にロンドン市街地の屋上を飛ぶ時の屋根は、映像と同じ形の屋根が造形されており必見だ。)フローズンジャーニーの方は高低差のある水流ライドとアニマトロニクスの組み合わせでシンドバットを思い起こさせる。しかし歌唱や動きはシンドバットのように繰り返されず、ライブ感あふれるものだ。(凍結したアナが再び動く時の滑らかさに注目してほしい)
アトラクションは造形物やアニマトロニクス、立体映像、座席の加速、傾き、風、匂い、などのテクノロジーの組み合わせによって感覚を刺激する。その組み合わせの関係で似ているタイプのアトラクションが登場するのは不思議ではない。しかしファンタジースプリングスがTDSに対する格別の何かである可能性をもう捨てきれなくなっている私にとって、これはエッセンスの継承と新技術の複合によるTDSの更新と読み解きたい。
おわりに
オープンから4ヵ月以上経ったファンタジースプリングスは未だ大変な人気を誇っている/誇っていく だろう。だが是非臆することなく狙って行ってほしい。秋から冬、春にかけてファンタジースプリングスは映えるようになるはずで、新エリアが新であるうちに、「初見」を堪能してほしい。写真は肝心な所を見せないようにしている。
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